メネ・ファリーナ契約ルート話

【登場キャラ(敬称略)】
メネファリーナ

※何かいろいろスイマセンなギャグノリ
※キャラ崩壊設定崩壊多々あると思うので、Ifギャグとして捉えてください…!



 かりかりと一定のリズムで物を書く音が、街を見下ろす高層ビルの一室に響いている。世界第三位のシェアを持つ、製粉会社「オーロ・ファリーナ社」。その社長室で、社長であるファリーナは黙々と書類にサインをし、仕事をこなしていた。
 仕事と言っても、書類にひたすら自分の名前を書くだけの単調な作業だ。だから、部屋には先程から同じリズムで紡がれる筆跡音しかしていなかった。
「F、aus、to…っと」
 何度も何度も、紙に自分の名前を書く。Fausto Farina Jr。Fausto Farina Jr。
 ファリーナは、大手会社の社長ではあるものの、元来社長として求められるだろうスキルはそれほど高くなかった。彼は自身に流れる魔術師の血による、ある種の神通力とも言える力で社長の席に座っている。彼の土と環境を見る力は天才的であり、彼が選んだ土地はいつも莫大な利益をもたらす。
 しかし、それだけだ。普段の経営や営業やらは、彼がやるよりも有能な部下に任せた方が絶対に良かった。だから、通常ファリーナに回ってくる仕事は、どうしても社長がやる必要があるものが過半数を占める。…例えば、今やっている、社長のサインが必要な書類の処理などだ。
 Fausto Farina Jr。Fausto Farina Jr。書類に名前を書き始めたのは夕方だったが、気が付けば一面ガラス貼りの壁から月が一望出来る程時間が経っていた。長時間同じ作業をしていたせいか、自分の名前がゲシュタルト崩壊し始めて「僕の名前ってトマトに似てるんじゃないか」なんてファリーナが思い始めた頃、社長室に受付ロビーの従業員から連絡が入った。ピー、という音と共に小洒落た机の上に取り付けられた受話器のランプがぴかぴかと光っている。
「あの、社長。社長にお客様が来ております」
 受話器を取ると、受付は少し戸惑ったような声でそう告げた。
「え? 僕に? …こんな時間に?」
 こんな夜更けに客が来るのは珍しく、ファリーナは首をかしげた。
「はい。それに、アポイントメントは無いらしいのですが……来ないと絶対後悔する、とおっしゃってまして」
「ええ? ちなみに何処の人? 名前は?」
 たまにだが、アポ無しで来る客人も居る。――後悔するなんて言う訳の分からない客人は初めてだっだが。とりあえず、肩が凝るからと脱いでいた上品な仕立てのスーツの上着に腕を通しながら、ファリーナは受付に問いかけた。
「…ええと、それが。"ただのメネだ"と言えば分かるとしか」

 その言葉を聞き、ファリーナは硬直した。

「な、ななな、なんだってーー!!」
 その言葉を聞いた瞬間、ファリーナは社長室の扉をばあんと勢い良く開き、受付へと全力で走った。こんなに走ったのは何時ぶりだろうか。筋肉痛が怖い。しかし何故、あのメネが会社に来てるんだ。ファリーナは、先日契約した女悪魔の姿を脳裏に浮かべた。

 蠱惑的な肉体をした、褐色の肌の女悪魔。とにかく死にたくなかったファリーナにとって、彼女が与える「不死」という契約内容はとても魅力的だった。(ひょっとしたらメネが負けちゃって死んじゃうかもしれませんけど~、という言葉はとてつもなく不安だったが)
「契約対価は、愛を頂きまぁす!」
 最初にそう言われた時は、対価にセックスを求められるのかと躊躇したが、話を聞くと彼女の言う「愛」は多岐に渡っており、愛の言葉だけでも構わないらしかった。それを聞き、対価的にも問題なく払えそうだと契約に踏み切った。何より、魂を取られない、というのは非常に安心出来た。
 まあ、そこまでは問題ない。その後数日も、何事も無く暮らしていた。メネはファリーナの家から出なかったし、いつもファリーナが仕事から帰ると「お帰りなさぁい、ご主人様!」なんて出迎えてくれて、悪魔と契約したというよりは専属メイドを雇った様な気持ちがしていた。のだが。
 それなのに、何故今日は唐突に外に出たのだ。あまつさえ、何故他の人間に姿を晒しているのか。あの格好のままで来たのか。ああ、コスプレかコンパニオンだと皆が思ってくれると良いけど。ともかく、だ。
(頼むから、問題は起こさないでくれよ…!)
 悪魔と関わるとろくな事がない。とファリーナは思っている。他人に自分のせいで被害が出たらと思うと、ぞっとする。更に、悪魔と契約しましたなんて世間にバレたらどうなるか、会社の株の下降幅も恐ろしい。そんな事を色々と考えながら足を動かし続け、とうとうファリーナはロビーへと到着した。

 ロビーには、一人の女性が立っていた。胸元が開いた白いブラウスに紺のスリットが入ったタイトスカート、透けたグレーのストールを巻き、薄いフレームの眼鏡を付けている。その女性は、ファリーナを見つけると「あ」と言い、彼の方へぱたぱたと走ってきた。その女は、褐色の肌と赤い髪をしており、前髪の下から覗く目は緑だった。角も尾も羽も消えていたが、その女が悪魔メネである事は明らかだった。
「め、メネ君! どうしたんだい!?」
「どうしたもこうしたもないですよぅ! ファリーナ、今日はメネと一緒にご飯食べる約束だったのに、いつまで経っても帰って来ないんですもん。だから、メネがお迎えしに来ちゃいましたぁ!」
「…あ」
 そう言われてみれば、昨夜そんな様な約束をした記憶がある。昨夜はとにかく仕事で疲れていて、半分寝ながらの状態でメネと会話をしていたのであまり覚えていないが。
 何にせよ、いつもの悪魔らしい格好のままで来なくて良かったし、今のところ特に問題も起こしていない様で良かった。ファリーナが心底安堵の溜め息を吐いていると、二人を見ていた社員の一人が恐る恐るファリーナに問いかけた。
「しゃ、社長…? そ、その方は?」
 ファリーナが突如大声を上げ社内を全力疾走していたせいで注目を集めたのか、二人はロビーに居た人間全員の興味の的だった。皆ちらちらとメネとファリーナを見ている。
「え、えっとね…!?」
 まさか「先日契約した悪魔です」とはとても言えない。何と言ったものかファリーナが迷っていると、横に居たメネがファリーナの腕に自らの腕を絡め、にっこりと笑った。

「メネはファリーナの恋人でぇす」

「ええ!??」
 メネの言葉に思わずすっとんきょうな声を上げてしまったファリーナだったが、彼の驚きの声は周囲の人間の更なる大声にかき消された。
「な、何だってーーー!??」
「と、とうとう社長に春が!」
「脱童貞!??」
「何てこった!! 天変地異の前触れか!!」
「いやあああ! 社長婦人の座を狙っていたのに!!」
「お祝いに巨大なケーキを買おう!!」
 などと好き勝手騒いでいる。 正に阿鼻叫喚だ。「社長を貰ってくれてありがとう」と何故か涙ぐみながらメネに握手している奴もいる。メネも「どういたしまして~」じゃない。何だこれは。
「ちょ、ちょっと皆…」
「ほらほらぁ、回りなんてどうでも良いじゃないですかぁ! 早くご飯デートをしましょ~!」
 皆を落ち着けようとしたファリーナだったが、メネに腕をぐいぐいと引っ張られた。見た目は細腕の癖に、妙に力が強い。流石悪魔と言うべきだろうか。
「いやまだ仕事が残ってるからね!?」
 事実、仕事をほったらかして来てしまっている。流石に片付けてからではないと、とファリーナが焦っていると、社員の一人が菩薩の様な顔をしながら彼の肩を叩いた。
「良いんですよ、社長…。私達が残りの仕事なんてどうにかしておきます。社長はどうか、彼女との遅い春を満喫して下さい」
「遅い春て」
「社長の事は皆こっそり心配してたんです。いつになったら身を固めるんだろうと…ああ、でも彼女が出来たようで良かったです! とうとう魔法使いから卒業ですね、今夜は頑張ってください」
「頑張れって何が!」
 ひいい、と固まりながらも突っ込むファリーナを「も~、早くエスコートしてくださいよぅ」などと言ってぐいぐいと引きずっているメネは、暖かく二人を送り出している社員達にふと振り返り、にっこりと笑いかけた。
「あ、皆さん達ありがとうございまぁす! メネ達これから幸せになりまぁす」
 幸せになるって何だ、と最早ファリーナの突っ込みは追い付かない。
「お幸せにな!」
「頑張って!」
「社長をよろしく!」
 そんな大歓声の中、二人はオーロ・ファリーナ社から出ていった。

「さぁて、幸せになりにいきましょうかぁ!」
 未だずるずるとファリーナを引きずりながら、メネは楽しそうに街を歩いている。彼女の言う幸せとは、と考えるとファリーナからは血の気が引く。
「幸せになるって、まさか…」
 恐る恐るメネにそう問いかけると、メネはぱちぱちと瞠目した。
「え、ご飯食べに行くんでしょう? 美味しいご飯食べるのって幸せになりますよねぇ。あ、メネ、イタリアンかフレンチが良いなぁ!」
「…。あ、そっち…」
 そうして二人は、オーロ・ファリーナ社と提携する一流のイタリアンレストランに行った。そこのパスタは絶品で、その日、二人は確かにとても幸せになった。食欲的な意味で。

 ちなみに翌日以降、いつも通り出社したファリーナは社員達にこれまた暖かく迎えられ、凄まじく気まずい思いをする羽目になったのだが、それはまた別の話である。