ラムジー・キャンベルのゴーツウッド

ラムジー・キャンベルのゴーツウッド(RAMSEY CAMPBELL'S GOATSWOOD)

「家主の居ないコテージを後に残して通りの角を曲がると、徐々に城の姿が視界に入ってきた。
丘の上に立つそれは、未だ3つの壁を残していたが、その屋根はとうの昔に崩壊してしまっていた。
孤独なる塔は薄ぼんやりとした空を背景に黒焦げた指のような様子で屹立していたため、
私は一瞬、それに蝙蝠が群がっているのではないかと考えこんでしまった。」
— Ramsey Campbell, "The Room in the Castle."

2001年にケイオシアム(Chaosium)から刊行されたサプリメント/リソースブック。
有名なホラー小説作家であるラムジー・キャンベルがラヴクラフト様式の作品の舞台として設定した英国西部の地に関するほぼ全ての情報が収録されている。
参考資料の章にはグレートブリテン及び連合王国、そしてキャンベルの創造した地である「セヴァーン渓谷」自体に関してと、
そこにまつわる魔道書やアーティファクト、カルト教団、古くから棲み着いている存在、物語のフックなどが含まれる。

ゴーツウッドと英国

本書は「ゴーツウッド」と題されているが、その内容として取り扱われているのはゴーツウッドの存在する「セヴァーン渓谷」という地域全体である。
巻頭に据えられた大きなセヴァーン渓谷の地図の他、「セヴァーン渓谷」の章では鉄道やハイウェイなどが書き込まれた詳細な地図を参照しながら各ロケーションを追うことになる。
ロケーションにはそれぞれ人口など基本的な情報以外にも、主要な施設や残された神話の痕跡、保管された魔導書やオカルト本の存在といった豊富なエッセンスが与えられている。
場所によっては警察組織の形態に至るまで詳しく書かれているが、同時にカルト教団や神話の存在といった後のシナリオのネタバレになりかねない情報もあるため注意が必要だ。
サプリメントに収録されているシナリオの舞台や有名な地ほど詳細に書かれている場合が多いので、プレイヤーとして遊ぶ予定があるならセヴァーン渓谷の章は読まないほうが良いかもしれない。

グレートブリテン及び連合王国

またこのサプリメントの特徴として、セヴァーン渓谷という地域だけではなく、現代のイギリスという国を舞台とする情報もカバーしていることが挙げられる。
セヴァーン渓谷について述べられている項の前には「ブリテン及び連合王国(Britain and the United Kingdom)」という大きな項が設けられ、
イングランドへの旅の手段(空港及び空路、英物海峡トンネル)、滞在時に必要となるパスポート関連、物品の輸出に関して、英国内の電気プラグやソケットの規格、通
貨制度(為替相場など)、タイムゾーン、気候、道路交通、人工の推移、食べ物、テレビ放送及び娯楽、などといったどこか旅行雑誌のような情報が豊富にまとめられている。
この項は特に「クトゥルフ・バイ・ガスライト」のような資料集らしい側面が強く、しっかりと読み込むのはやや大変だが、現代の英国を舞台とするに場合には非常に参考になる内容ばかりである。

銃規制法

英国を題材に据えた資料の内、非常に興味深いものに別枠で設けられた「現代の英国における銃規制法(Present-Day Gun Laws in the UK)」というものがある。
これはロンドン警視庁のサイト等を参考資料として2001年5月時点の銃規制法について記載されており、読めば基本的な定義の他にも免許や税金について学ぶことができる。
内容をとても簡単にまとめると 「狩猟文化の名残で一部の規制は緩いが、その一方で日本より規制が厳密に定められた箇所が非常に多い」というもの。
このコラムの序文における 「英国の地では神話生物や狂信者と戦うための強力な火力を得ることが難しい。」 といった内容の表現は象徴的だ。

呪文、魔道書、アーティファクト

サプリメントには複数の著者の手によって生み出され、セヴァーン渓谷という地に登場することとなった幾つもの魔道書やそこに書き記された新たな呪文に関する大きな項目がある。
出版元が同じことから基本ルールブックの表記と全く同じ内容のものも存在するが、その多くは(恐らく)新規に生み出されたデータだ。
中でもグラーキの黙示録に関してはかなり詳細に情報がまとめられており、「12巻からなる手書きの写本」に至っては巻号毎に記載された内容が示されている。
「エルトダウン・シャーズ」や「グラーキの黙示録」など一部の魔道書に関してはエンターブレインから刊行されている「キーパーコンパニオン」でも(恐らく同じ内容が)取り扱われている。
しかし中にはキャンベルの原作小説に登場する人物の日記など珍しい魔道書(?)も存在するので一読の価値はある。

充実した魔道書の一方で、アーティファクトにはほんの数種類に関してしか記載がない。
そしてその多くがダオロスに関連する危険な品と、特定個人の所有物となっている。
「ドリーム・クリスタライザー」に関してはキーパーコンパニオンにも「守護者」と共に殆ど同じ内容の記載がある。
ただそちらには物品を覚醒の世界に持ち帰った"後"のルールが書かれていないらしいので、こちらと合わせて読むのも良いだろう*1

豊富な魔道書に対応する形で、このサプリメントでは複数の新しい呪文が追加される。
ここでは例えばグラーキやダオロスなど基本ルールブックで具体的な招来や接触の手法が示されていなかった神格に、独自の条件や儀式が与えられている。
それだけでもシナリオを書くユーザーにとっては中々に興味深い内容であるが、この項で特筆すべきはその他の呪文の過激さである。
基本ルールブックにも呪い殺したり、手足を奪ったりと過激なものが存在するが、ゴーツウッドに収録された呪文の幾つかは非常に強力で対象への直接的な攻撃性が高い。
例えばたった10秒の詠唱で対象の両眼球を融解させる呪文や、対象を急速に老化させて殺す(吸魂を過激にしたような)呪文が収録されている。
中でも最悪なのはダオロスの力に呼びかけて対象の「ヴェール」に干渉する2種の呪文で、この犠牲者は最悪の場合無限の時が流れる超現実世界へと飲み込まれてしまう。
幸いなことにそうした呪文は決まって大量のマジック・ポイントを要求する。
もっとも、そんな呪文を使う機会のある人間がマジック・ポイントに困るようなことはないだろうが。

神話的存在とカルト教団たち

資料の章にはセヴァーン渓谷に潜む幾つかのカルト教団や多数の神格/神話生物に纏わる情報も多く収録されているが、教団に関してはネタバレの塊であるし、
神話生物のデータに関しても(恐らく全てが)「マレウス・モンストロム」に収録されているものと同一であるためこの項目に関しては書けることはあまり多くない。
神格やクリーチャーの中には基本ルールブックのデータとほぼ全く同じ内容で収録されたものまで存在する。
例外的にアザトースの化身「ザーダ=ホーグラ」に関しては、マレウス・モンストロムと比較するとCONの値と目撃で喪失する正気度の値が異なるとのことだった。
また別枠にはなるが、このサプリメントにはアイホートの新たな能力についても収録されている。
この神格に新たな個性を与える新しい解釈は、シナリオを書く人には是非読んで欲しい項目のひとつだ。

神話体系的名称の発音

神話生物のデータが収録された最後には、隅の方にこっそりと別枠で神話生物の名称の発音に関するコラムが存在する。
これは非公式だがケイオシアムが発音のルールとして使用しているものらしく、発音の規則が並んだ後に神話生物の(英語としての)発音が幾つか挙げられている。
オリジナルの神格に名をつける際には、この規則に則ってみては如何だろうか。

ゴーツウッド収録、9編のオープン・キャンペーンシナリオ

ゴーツウッドサプリにはセヴァーン渓谷を舞台とした9編*2のオープン・キャンペーンシナリオが収録されている。
オープン・キャンペーンとはつまり、9編全てをキャンペーンとして通しでプレイすることもできるし、それぞれを独立したシナリオとしてプレイすることもできるという形式のことである。
どちらにしてもシナリオは楽しめるが、時に同じ舞台を冒険したり、過去のNPCと再び出会ったりとキャンペーンならではの要素も組み込まれているので悩みどころだ。

また収録されているシナリオはライターが異なるからなのか、全体的に情景や心理描写が丁寧で、探索者やPLには語られないNPCの背景情報が充実している傾向にある。
あるいはキャンペーンシナリオ特有の作りこみとも考えられるものの、キャラクターの多くには名前や能力値、胸像の挿絵が与えられるなど視覚的にも面白い。
基本ルールブックから受けるケイオシアム観とはやや違う雰囲気のキャンペーンではあるが、ふと気を抜けばいつも通り悪意に潰されてあっさり死んでしまうことになるだろう。

ウィンスロープの遺産(The Windthrope Legacy)

タイトル 時代 舞台 難易度 おすすめ度
ウィンスロープの遺産(The Windthrope Legacy) 2001年 イギリス、セヴァーンフォード 1 2

あらすじ

探索者が相続することとなったのは土地と財産・・・そして久遠に臥したる暗い秘密であった。

備考

探索者がロンドンからセヴァーン渓谷にやってくるきっかけとして機能する導入のシナリオ。
プレイヤーをキャンペーンの中心として据える基本のパターンの他に、数種類の切り口が用意されている。
同サプリメントに収録されたシナリオの導入として使用しても良いし、セヴァーン渓谷を舞台とした他のシナリオの導入としても使用することができる。

シナリオ自体の内容は単に広い屋敷を探索して回るというだけのもので、クトゥルフで言う事件らしい事件は発生しない。
本当に探索探索探索の微妙にクトゥルフ要素といった構成となっている。
一度試しにキーパーとしてセッションを行ったが、イベントを除いては(必然的に)極々平和に進行したため非常に切りどころに困ってしまった。
実際シナリオに書かれている情報もセッション内では使用しないキーパー向けの情報や、今後の舞台を知るための描写が大半である。
イベントもそれほど重要ではないので、ある程度簡略化して他のシナリオの前座として使用するのが良いのではと思う。

ゴシック(Gothic)

タイトル 時代 舞台 難易度 おすすめ度
ゴシック(Gothic) 2001年 イギリス、ブリチェスター 2 2

あらすじ

ブリチェスターの街にて余暇を過ごしていた探索者たちは偶然にもトラブルに巻き込まれてしまう。
それは翌日には忘れてしまっているような、ほんの"些細な"出来事の筈だったのだが・・・。

備考

キャンペーンの第2編*3ということもあり、探索者たちの冒険の小手調べとでも言うような緩やかな構成となっているシナリオ。
情報によってある程度誘導はされるものの、行動や選択によって展開や結末は変化していく。
探索者次第でちょっとした戦闘も発生するため、やはりチュートリアル的な側面は強い。
全編通して雰囲気重視のしっとりとしたシナリオであるが、本筋とは全く違う所で自然に探索者を殺しに来るので気は抜けない。

プレイヤー募集中。

声なき悲鳴(Silent Scream)

タイトル 時代 舞台 難易度 おすすめ度
声なき悲鳴(Silent Scream) 2001年 イギリス、セヴァーンフォード

あらすじ

失われしフィルムの発見は、古き邪悪の再覚醒の前兆であった。

備考

映画をテーマとしたシナリオで、どこかハリウッド風な演出もある。
舞台は再び「ウィンスロープの遺産」と同じ場所に戻るので、該当シナリオをプレイしておくと楽しめるかもしれない。
推理や調査といった探索を中心に進行し、恐らくは激しい戦闘を含む劇的な最終シーンを迎える。
またクトゥルフ神話TRPGの特徴である狂気に焦点を当てたシナリオでもある。

中々に面白そうな展開なのだが、少し流れを読んで20%程度翻訳したまま放置している。

約束しよう、神に誓って(Cross My Heart, Hope to Die)

タイトル 時代 舞台 難易度 おすすめ度
約束しよう、神に誓って(Cross My Heart, Hope to Die) 2001年 イギリス、カムサイド 5

あらすじ

その少年は如何にして、友人たちを悲惨な結果を伴う悪戯へと導いたのか。

備考

ご近所問題を解決するはずが・・・という典型的な巻き込まれ系シナリオ。
かなりごっそりと正気度が持っていかれる他、理不尽な罠が各所に配置されている。
シナリオに忠実に、ごく普通にプレイするなら幾らかキャラクターシートの予備が必要になるかもしれない。

導入だけ翻訳して放置。
最終更新:2017年03月10日 03:18

*1 筆者は翻訳出版された改訂新版のキーパーコンパニオンも原本も所持していないため要確認

*2 公式の概要では「ウィンスロープの遺産」が数に含まれず、8つのシナリオがキャンペーンとして収録、とされている。

*3 実質的には最初のシナリオになる