コトダマ(後編)/黒ブキ◆lg0Ts41PPY




下がった筈の熱にうかされた様に、せつなが胸を喘がせる。目尻に溜まった涙が今にも零れそうだ。
別にわざと焦らして意地悪をしているつもりでは無いのだが、ついつい相手から求める言葉が欲しくなってしまう。

「…もう、分かった…。分かったから……」
「何が?あたしがせつな大好きって事を?…じゃあ、あたしどうしたらいい?」
「……早く…」
「早く?」
「…続き……して、欲しいの……」

ぎゅっと瞑った目から涙がぽろりと零れる。ふっくらとした赤い唇はいじらしく震えている。
その甘く掠れた声が耳から脳髄を駆け抜ける。
ラブはそれだけで自分まで達してしまいそうだった。
苛めて、泣かせて、恥ずかしさも忘れるくらい悦ばせてやりたい。
あられもなく泣き叫ばせて、自分無しではいられなくしてやりたかった。

「…そんなに欲しい?また熱上がっちゃうかもよ…?」
「……いい、の。また、ラブに看病してもらう……」
「…どうしようか?…指と、舌と…どっちがいい?」
「……もぅっ!バカっ!苛めないって言ったじゃない…」
「ハイハイ、じゃあ、両方ね」
「ーーーっっ!」

ラブはぬるりと舌を蜜を滴らせる花弁に捩じ込み、回しながら味わう。
震える花芯は包皮の上から摘まみ、くりくりと弄くり回す。
せつなは声にならない悲鳴を飲み込み、体をビクつかせる。
以前なら、こんな強い刺激を急に与えられたらあっと言う間に果ててしまっていた。
ラブの愛撫はより巧みになり、せつなの敏感な部分を余す事無く探り出してくれる。
快楽は比べ物にならないくらいに深く濃密になって行くのに、絶頂を迎えるまでの感覚は
だんだん長くなってゆく様だった。
どんどん体が変わってきている。
快楽に対してより貪欲に、細やかな愛撫の一つ一つに愉悦を感じる様になってきている。
ラブがせつなの体を憶え、どうすればより深く悦ばせる事が出来るか、
どのくらい昂らせれば、焦らしても大丈夫なのかを学んで来たように、
せつなもまた、どうすればラブが昂り、悦ぶかを感じ取ってきた。
声が艶を増し、肌は甘く匂い立ち、流す視線の一つにまでラブを誘う蠱惑の色が纏わり付いている。
せつなが昂り、啜り泣く程にラブは焦らし、より深い場所まで愉悦を与えてくる。

「…はあっ…あぁ…ラブッ…!…ラブぅ…んー…あぁん…ダメぇ…」

脚の間に顔を埋めたラブの髪に指を絡ませ、弱々しく引っ張る。
ズキズキと脈打ちながら疼く官能に全身を打ち震えさせながら、許しを乞う様に白磁の肌をわななかせている。

(…もう、そろそろ限界かな……?)

いつもならもう少し焦らして泣かせる所かも知れないが、一応病み上がりだ。
あまり苛めるのはやめておいた方がいいだろう。
せつなの中から舌を引き抜き、チラリと様子を窺う。
充分に舌で犯された入り口は柔らかく解れ、慣らさなくても指二本くらいなら
受け入れられそうだ。
切なく荒い息遣いで、大人しくラブの次の一手を待っているせつなを、宥める様に髪を梳いてやる。

「ほら、力抜いて…」
「…んっ…ーーっ、んー…ふ…う…」

ゆっくりと楔を打ち込む様に指を潜り込ませる。
入り口で僅かに押し返す様な軽い抵抗を受けた後、逆に中へ中へと引き込む様に肉と粘膜が絡み付いて来た。
弛く指を曲げ、引っ掛ける様に抜き差しすると、同じリズムできゅうきゅうと締め付ける。
真っ赤に充血した小さな肉芽を柔らかく舌で包み込みながら舐め回すと、せつなの声が啜り泣きに
近くなってくる。

「…あっ、あっ、あっ、あっ、あんっ…ラブッ…はあ、…んっ…ラ…っブ…」

ちゅくちゅくと音を立てて肉芽を吸いながら、内側を擦りあげる速度を上げていく。
せつなの腰が小刻みに震え、全身が細かく跳ねる。
もう、充分に愉悦を味わった体は絶頂を求め、言葉よりも確かに昂りを伝えてくれる。

(…いいよ、せつな。今日は我慢しなくて…)

ラブの指がせつなの最奥に達し、唇が一番感じる部分を容赦無く吸い上げ、甘噛みする。
せつなはラブの名前を悲鳴に近い涙声で高く鳴いた後、白い体を弓なりに反らし、果てた。
指を呑み込んだ場所が痛い程にキツく締まり、一瞬の後ふわりと柔らかく奥へ開き、吸い込まれる。
快楽の深さを伝える様に、やわやわと纏わり付く粘膜。
ラブはしばらく温かなぬかるみをかき混ぜ、名残を惜しみながらゆっくりと指を抜いた。

顔を上げ、視線を合わせる。
ラブは絶頂を迎えた後のせつなの、ぼうっと魂の抜けた顔を見るのが好きだった。
常なら凛とした光を宿した瞳は涙に潤み、形の良い艶やかな桜色の唇は紅を掃いた様に
色付き、熱い吐息に喘いでいる。
こんなせつなを知っているのは自分一人なのだ。
その事が、ラブの全身を痺れさせるくらいにゾクゾクする。

せつなが少し緩慢な動きでたおやかな腕を伸ばし、気だるげにラブの首を抱き寄せて来た。
ラブの耳許に届く熱く緩やかな息遣い。
自分の愛液を滴らせるラブの唇に、構うこと無く紅唇を押し当て、舌を這わせる。

お互いに言葉も無く、事後の余韻をたっぷりと愉しむと、ラブは満足気にせつなを見つめる。
今さら恥ずかしそうに視線を微妙に外すせつながおかしかった。

「せつなぁ、かなり気持ち良かった?」
「もう、バカッ。どうしてそう言う事言うのよっ!」

途端に拗ねた様にぷいっとせつなが背中を向ける。
真っ最中でもこれ程では無かったくらいに、耳が真っ赤になっていた。
ラブは構わず背中から抱き締める。

「ねぇねぇ、でもさあ。ここ最近じゃ一番じゃない?」
「…知らないっ!」
「……怒った?…嫌いになっちゃう?…ねぇ、ごめんって」
「……………」

口では謝りながらも、その口調は全く持って悪いとは思っていなさそうだ。
からかうようなラブの態度にせつなはぎゅっと身を縮める。
それでもラブはせつなを宥める様に包み込みながら、囁き続ける。

「あのねえ、せつな。あたし、知ってるんだぁ…」
「……?」
「せつなってさ、絶対に『嫌い』って言わないよね?」
「…………」
「イヤ、とか、ダメ、とか、意地悪、とか…あ、そうそう、バカッ!も結構言われるんだけど…」
「………」
「キライ!はどんな時でも聞いた覚えがないよ」
「………って……き…だもの…」
「ん?」

後ろから覗き込むと、せつなは耳だけでなく顔まで真っ赤になっている。

「…だって、好き、だもの………」
「………ーーーっ!!」

ラブは正に「パァァ!」と擬音語が聞こえそうなくらい、目一杯顔を輝かせる。
強引にせつなを引っくり返して向かい合わせると、犬の様に鼻息も荒く顔や体を擦り付ける。
こんな時でも「嫌いじゃない」とすら言わずに、ちゃんと「好き」と言ってくれるせつなが愛しくて仕方がない。

「そーだねっ!そーだよねっ!!あたしも好きっ!もう、好きで好きでどーしよっ?!」
「…もうっバカッ!ホントに知らないからっ!」
「あ、あたしってば軽く好きって言い過ぎ?」
「それはいいのっ!…たくさん言って…」
「うんうん!あたしもそー思うよっ!んーっ、好き好き好き!大好き!」

茹で蛸も顔負けに真っ赤に染まったせつなの顔にキスの雨を降らせる。
軽く拗ねていた筈のせつなも、いつの間にやらクスクスとくすぐったそうな笑い声を漏らしていた。
甘ったるいじゃれ合いの中、唐突にキュルルル…と間の抜けた音が響いた。

「…………ゴメン」
「…ラブ…朝ごはん、食べてないの?」
「いや、せつなと一緒に食べたいな、と…」

気の抜けたせつなはクスリと笑うと、シュンと尻尾を垂れた犬の様になってしまったラブの頭をぽふぽふと撫でた。

「シャワー、浴びて来るから。それまで待っててくれる?」
「はあい。ご飯、温めておきます…」

せつなはベッドから降りる。珍しくフラリとよろめいてしまった。
思ったよりも膝と腰にきていたらしい。
それを見たラブがまたニヤリとする。

「せつなぁ、お風呂まで抱っこしてあげよっか?」
「ーーっ!歩けるわよ!バカッ!」
「そー言えばさ、もう一つ気がついたかも」
「…?」

ラブは相変わらずニヤニヤと思わせ振りな笑顔で。

「せつなの『バカッ!』ってさ。半分くらい『好き』って意味なんじゃないの?」
「もうっ!ホントに!ラブのバカッ!」

更に顔を真っ赤にしてバスルームに逃げ込むせつなを見て、ラブはベッドの上で転げ回る。

(あーーーっもうっ、可愛いっ!)

本当に、なんて可愛いんだろう。
枕を抱いてのたうち回りながら、ラブはにやけ顔を止められない。
どんどん違う表情を見せてくれる。
毎日の様に新しいせつなに出会える。
もうこれ以上好きになるなんて無理、そう思うのに、昨日よりも今日の方が
ずっとずっと好きになっている。
そして、たぶん明日はもっと。
愛しくて、可愛くて、胸が痛くなるくらいだ。

(もう、完全に元気そうだよね。朝ごはん、あれじゃ足りないな)

シャワーを浴びて、美味しいご飯を食べればご機嫌も良くなるだろう。
今日一日はお姫さまの言う事をよく聞いて、お利口にしておこう。

(…どうするかな、パスタでも足すかな)

取り合えず、大好きな人に笑顔になってもらえるように、完璧な食事を用意しよう。
ラブは気合いを入れて、キッチンに向かった。
最終更新:2013年03月31日 22:55