コトダマ(前編)/黒ブキ◆lg0Ts41PPY




昨夜、せつなは高い熱を出した。
熱だけで他に症状は無いが、大事を取って早めに寝かせた。
今朝も熱は下がっていたが、一度起きたものの珍しく二度寝してしまったせつな。
朝食の準備が出来たら起こす、と言ったものの、ぐっすりと眠っている姿を見ると何だか起こすのが忍びない。
ラブはせつなの寝顔を覗き込む。
至近距離で見つめても、すやすやと気持ち良さそうな寝息は変わらなかった。

(…まぁ、いっか。温め直せばいいよね)

このまま目が覚めるまでそっとしておこう。
軽く微笑んでいるようにも見える寝顔をもっと見たくて、額に掛かった
艶やかな黒髪をそっと祓い、指を絡める。
ラブの気配を側に感じたのか、少し笑みが深くなったようにすら見える。

(可愛いなぁ……)

邪気の無い童女の様な寝顔にラブの目尻が下がる。
随分と無防備な姿を見せてくれるようになった。
初めてせつなの寝顔を見たのは、一緒に暮らし始めてどれくらいの時だったか。
いつも当たり前の様に、ラブより後に眠り、ラブより早くに起きていたはずだ。
眠ったように見えても、ラブが様子を窺っていると「眠れないの?」と、
逆に心配そうに聞き返される始末だった。


せつなはたまにこんな風になる。
今まで元気にしていたのに、何の前触れも無く突然高い熱がでる。
大抵それは一晩経てばストンと下がり、翌日は平気な顔になっている。
当初は顔には出さない様にしていたけど、随分心配したものだった。
何か酷い病気だったらどうしよう、と。
しかし何度か続く内に、何となく分かってきた。
多分、せつなは無意識に甘えているのだ。

恐らく、切っ掛けは初めて風邪で寝込んだ時。
体調を崩して看病される、と言う状況にかなり戸惑っていた。
大丈夫だ、平気だと言うせつなを無理矢理ベッドに押し込み、熱を計り、
食事も消化に良い物を部屋まで運ぶ。汗をかいたらシーツを換え、着替えさせる。
さすがに体を拭くのは自分でやると断られたが。
だるい体を労られながら一方的に世話を焼かれる事を、こちらが困ってしまうくらい申し訳無がっていた。
そして、その時の申し訳無さそうな顔と同じくらいの、照れくさそうな、はにかんだ顔。

甘え方を知らないせつなは、病気にでもならないと誰かの手を煩わせる事が出来ないのだ。
小さな子供が母親に構って欲しい時に本当にお腹が痛くなるように、
せつなは熱でも出さない限り、ただ甘える、と言う事が出来なかったのだろう。
昨夜のせつなを思い出す。
うつらうつらと微睡みながら、ラブの袖口を握り締め…

(…目が覚めるまで一緒にいてくれる……?)

潤んだ瞳と、ほんのりと紅潮した頬。寝入り端の少し舌足らずな甘えた声。
逆らえる訳がない。
結局そのまま添い寝したのに、目を覚ましたせつなと来たら、
まったくその事を覚えていなかった様子だ。

(駄目じゃない、移るわよ…だってさ)

頑な迄に他人に身を委ねる事を拒んでいたせつなが、今こうして一番無防備な
姿を晒してくれている。
誰かの側で眠る。それはきっと、せつなにとっては自分の命を相手に
預けるのと同じ意味なのだ。今のラブにはそれが分かる。

(早く起きないかな…)

そっと、羽の様に軽く唇を重ねてみる。眠り姫はまだ目を覚まさない。

(やっぱり起こしちゃおっかな…?)

寝顔も可愛いけど、やっぱり目が見たい。
その瞳に映っている自分の姿を確かめたかった。

今度は、ちゅっと音を立てて上唇と下唇を交互に啄み、ぺろりと舐めてみた。
せつなは微かに眉を寄せ、息を洩らす。
それでもまだ目は覚まさない。

(よーし、こうなったら…)

唇同士がしっかりと重なるように押し付ける。
しっとりと吸い付く柔らかさと、甘い吐息を味わう。
もっと奥を求め、舌を尖らせ強引に歯列を抉じ開ける。
舌先が軽く触れただけで、その甘美さに頭の奥が痺れた。

「……ンッ…んぅ…?――っ!…んっんっ…っ!」

さすがにせつなは意識を取り戻さない訳にはいかなかった。
酸素を求めて喘いだ途端、ラブの舌はここぞとばかりに更に深く絡まって来た。
もぞもぞともがくせつなを自分の体で組み伏せ、首の下に腕を差し込んで
しっかりと抱き寄せる。
耳朶を指先で擽り、もう片方の腕は肘で体重を支えながらも、頬や首筋にそっと這わせる。

どうやら状況を把握したらしいせつなは、覆い被さったラブの背中に腕を回す。
戸惑っていた唇は従順に愛撫を受け入れ、弄ばれていた舌は応える様に戯れ始めた。

(あ、起きた起きた…)

せつながしっかりと覚醒したのを感じたが、それでも暫くゆっくりと口付けを楽しんだ後、
名残り惜し気にラブは唇を解放した。


「んふふー、おはよー!」
「…もぉ……なに…?」
「朝ごはん、出来たよっ…て言おうと思ってたんだけど……」
「……?」

じっとせつなの顔を見つめるラブの瞳には、朝の爽やかな空気にはあまりにも似つかわしくない
粘りのある光が灯っている。
せつなの眼がとろんと蕩けているのは寝起きの所為ではない。
頬がほんのりと上気しているのも熱の所為ではない。
こんな顔を見てしまったら、次にする事は決まっている。


「…ごめん、ムラムラして来ちゃった……」
「んンっ……」

せつなが言葉を発する前に、すかさず再び唇を塞ぐ。
パジャマの上から胸の膨らみを鷲掴みにし、乱暴なくらいに揉みしだいた。

「……んっ、もうっ!…今日一日は大人しくしてろって言った癖に…」
「そうそう。だから余計な抵抗はしちゃダメ!せつなは、なーんにもしなくていいからね~」

ラブはウキウキと歌う様な口調で手早くパジャマのボタンを外して行く。
白く豊かな双丘は既にうっすらと汗ばんで、せつなの甘い体臭を匂い立たせていた。
誘う様に息づく可愛い桃色の蕾をきゅっと摘まんで捏ね回す。
せつなはぴくんと小さく体を跳ねさせるも、唇を引き結び声を飲み込む。
それでも乳首が硬く強ばってゆくのを止められない。
先端を指の腹で擦られ、弾かれる。根元から搾る様にしごかれ、引っ張られると、
泣きたくなるくらい感じてしまう。

「ねぇ、嫌ならやめるよ…?」
「…ラブのバカ!意地悪…!」

息を荒げ、潤んだ瞳で拗ねた様にプイッと顔を背けるせつなに、ごめんごめん、と頬に唇を寄せる。

「ごめんって。もう苛めないから」

そう言って、待ち兼ねた様に震える尖り立った果実にかぶり付いた。

「―っ、んんンっ…あぁっ、あっ、あっ、んぁ…っ!」

強く吸われ、甘噛みされ、舌先で円を描きながら転がされ、そこから沸き立ち溢れかえる
快感にせつなは身を捩り、ラブの頭を掻き抱く。
舌で犯されていない方の膨らみは、指の跡が付きそうな程に揉みしだかれ、
硬く勃ち上り色づいた先端をキリキリとつねられる。
その鈍い痛みが尚一層、快楽を増幅させた。
ラブがパジャマの下に手を掛けると、艶かしく揺らめいていたせつなの下腹部は脱がせ易い様に腰を浮かせ、
まるで無意識の内に更なる愛撫を催促しているかの様だった。
ラブは一気に下着ごと引き下ろすと、無遠慮なまでに大きく脚を開かせる。
そのまま、唇は乳房から脇腹、腰骨。膝を掠め、内腿に赤く所有の印を刻んでゆく。
そして、たっぷりと潤んで綻びかけた花びらを愛でる様に指先でなぞる。
ふっくらと充血した淫唇と、小さな嘴の様な包皮から丸く顔を覗かせた淫核。
すぐにでもむしゃぶりつき、思う様に蹂躙したい気持ちを抑え、じっくりと
舐め回す様に視線を絡める。


「……ねぇ…どうして、そんなに…見るの…?」

身を焼き尽くす羞恥と、愛撫への渇望に焦れたせつなが涙混じりの声を搾る。
早く欲しい。我を忘れるくらい泣かせて欲しい。
なのにラブは、形を確かめる様に溢れそうな程に蜜を含んだ花弁をなぞり、
ぷっくりと膨れて快感を今か今かと待ち受ける花芯を軽く摘まみ上げるだけ。
じれったい中途半端な刺激に、せつなは最早泣き出す寸前だった。

「んー、何て言うかねぇ…確かめたくならない?」
「……?」
「コレ…ホントにあたしのなんだぁ…みたいな…?」

すっごい大事なお気に入りとかさ、欲しくて欲しくてやっと手に入れたモノとかってさ。
何度も何度も手に取って確かめてニヤニヤしたくならない?

「あっ!せつなをモノ扱いしてるってワケじゃないよ?!それにモノはモノでも世界で一番大事な宝物だからっ!」

大きく脚を広げられたその間で、そんな事を大真面目に言われても困る。
本当は、こんな風に見られるのも、焦らされるのも嫌ではない。
嫌ではないと思っている事をラブに悟られるのが恥ずかしいだけ。
そしてラブもそんな事はとっくに分かっている。
だって本当にせつなが嫌だと感じる事は、ラブは絶対にしないのを知っているから。

でも、今日はあまり我慢できそうに無かった。
この体の芯に籠った火が、昨夜の発熱の所為なのか、別のものなのか。
もうどちらでもいいから、鎮めて欲しい。
それはラブにしか出来ないのだから。



全75へ続く(R18)
最終更新:2013年03月24日 01:19