ポッキーゲーム/一六◆6/pMjwqUTk




「ねえねえ。トランプ終わったら、今日は変わったものでゲームしようよ!」
 パジャマパーティーで集まった四人が、ラブの部屋で賑やかにババ抜きをしていたとき。ラブが赤い箱を右手に持って軽く振りながら、満面の笑みで言った。
「ちょっとラブ~。アタシたちでポッキーゲームやろうって言うんじゃ……」
「ピンポ~ン! 学校で、由美に教えてもらったんだ。美希たんは知ってたんだね。面白そうだから、やってみようよ!」
 ひと目で展開を察して軽く止めようとした美希は、ラブの無邪気すぎる答えを聞いて絶句した。
 周りを見れば、祈里は何だか赤い顔をして下を向いているし、せつなに至っては、不思議そうな顔でラブとポッキーの箱を見比べている。
(全く……。それなら言い出しっぺにやってもらおうじゃないの)
 密かにそう思った美希だったが、次に聞こえてきたラブの声に、再び息を呑んだ。
「じゃあさ、美希たん。やり方知ってるんなら、最初にあたしたちでお手本見せてあげようよ!」
「な、ななな何言ってんのよ!!」
 思わずそう叫んでしまってから、ハッとする。おそるおそる辺りを伺うと、ぽかんとしたラブとせつなと、やっぱり赤い顔をして下を向いている祈里……。
「ほ、ほら、ラブとアタシのゲームが同じかどうかわからないし、ルールが違ったりするかもしれないでしょ? だから、まずはラブがやってるところを見せて貰うわ」
「そぉお? じゃあ、せつな、やってみよっか」
「わかったわ、ラブ」
 せつなが何の疑いも無く立ち上がる。そしてラブの説明を聞いて、素直にポッキーの端をくわえた。
「いい? 先に口を離した方が負けだからね」
 そう言って、ラブも反対側の端を口に含む。すっかり諦めた美希が、よういドン!と号令をかけた。

 ラブとせつなが、両端からポッキーを食べ進む。せつなは黙々とポッキーをかじりながら、心の中で首をかしげた。
(これ……最後まで食べ進んだら、ラブとぶつかっちゃうと思うんだけど。そしたら、勝ち負けはどうなるのかしら)
 不思議に思いながら、目の前にあるラブの顔を見て、思わずドキリとする。
 当然だけど、顔の全体が視界に収まりきれないほどに、ラブの顔が間近にあったから。
 そして、子供みたいにもぐもぐと口を動かしてポッキーをかじっているラブの顔が、あまりにも……あまりにも可愛かったから。
(あ、いけない!)
 ラブの顔に見とれて、思わずせつなの口からポッキーが離れる。が、それに気付いた瞬間、せつなは右手の人差し指で素早くポッキーを押さえて再び口に咥えると、何食わぬ顔で指を離した。
 その間、わずか0.2秒。しかし、この上なく至近距離にいるラブは、そんなわずかな動きも見逃さない。
「やったー! あたしの勝ち!」
 ラブが大喜びでそう叫ぶと、美希が冷静な声で言った。
「ハイ、ラブの負けね」
「え~、なんで!?」
「だって、ラブの方が先に口を離したじゃない。ほら、見なさいよ」
 言われて目をやると、せつなは短くなったポッキーを口にくわえたまま、上気した顔で、きょとんとこちらを眺めている。
「ええ~! せつな、口離さなかった? おっかしいなぁ。あたしの見間違えかなぁ」
 頻りと首を傾げるラブの目の前で、せつなはまだ赤い頬のまま、もそもそとポッキーの残りを平らげた。

 その夜。
 恒例の枕投げをして、みんなで晩ご飯を作って食べて片付けて、お風呂……は緊急事態により残念なことになったけど、とにかくみんなでもう一度、ラブの部屋に集まったとき。
 クローゼットの中から、ラブを呼ぶ声。現れたのは、ラブが小さい頃大切にしていた、ぬいぐるみのウサぴょんだった。
「私はずっとこのクローゼットの中で、ラブたちの話を聞いてたの。だから、みんなのことは何でも知ってる。勿論、さっきポッキーゲームでせつながズルしたってことも」

 ウサぴょん……恐ろしいウサギ!

~おわり~
最終更新:2013年02月16日 22:59