はじまりの日/一六◆6/pMjwqUTk




不思議な気配を感じて 私は目を覚ました
あたりの空気が うっすらと色をまとっているような そんな気がする
むっくりと起き上がり 木々の間に見える 狭くて高い空を眺めた

やがて キー! という声と共に 飛んできた小さな影
一直線にこちらへ向かってくる 四体の妖精たち

元気一杯先頭をきる ピルン
澄ました顔して続く ブルン
大きな目が笑ってる キルン
嬉しそうに後を追う アカルン

どうしてだろう 私は彼らを知っている
生まれたときから……いや、生まれる前から?
私と深く結びついている 大切なオトモダチ

四人で追いかけっこをするように 私の頭上をくるくると回る姿
それをぽかんと見つめる私の耳に とぎれとぎれに 声が聞こえてきた

……幸せ……
……完璧……
……信じて……
……がんばるわ!

意味なんてわからない 誰の声かもわからない
けれど それは何かが始まる 楽しい予感に満ちていて……

幼い私は 彼らが去った空を見上げながら
キュアキュア! と 無邪気に笑ったのだった



  はじまりの日



 いきなりバシンと頭をはたかれて、タルトは飛び上がった。
「アホ。居眠りしとるヒマがあったら、少しでも早う、ワシの授業を卒業せんかい。お前がプリキュアの知識を身につけんことには、いつまで経っても伝説の戦士を復活させられへんのやで。プリキュアを見つけたら、お前が全てを教えたらなあかんのや。わかっとるんか?」
 小さい身体をぐっと反らし、彼の前に立ちはだかっているのは、ティラミス長老。スイーツ王国きっての物知りであり、数多くの経験を積んで、不思議な技まで身につけているという人物だ。その鋭い目で、寝ぼけまなこを睨みつけられ、タルトは気まずそうに、窓の外に目をそらした。
 晴れ渡った空には、スイーツ王国特有の、鳥が羽ばたくような雲が流れている。ここは人里離れた一軒家、長老の家だ。タルトは昨日も今日も、自宅である城の離れからここに通って、長老から講義を受けていた。
「ほんじゃ、復習や。プリキュアの妖精の名前は、何と言うんや?」
「それならわかりますわ。ピックルンや」
「ふん。では、ピックルンがその世界の何かに宿ると、何が生まれるんや?」
「えーと、リン……リンクルン」
「そうや。では、ラビリンスの総統メビウスが欲しがっとるもんは?」
「え? えーとぉ……イン……イン……」
「インフィニティや。何べん言うたらわかるんや!」
 今日だけでもう何度めだろう。長老にどやされて、タルトは情けなさそうにため息をついた。
「よし。授業はこれくらいにして、あとは体力づくりや。シルコアマの森までひとっ走りして、大福の花を取ってきてくれんか」
 勉強は苦手だが、こういうことなら得意なタルトだ。勇んで駆け出すその背中に、再び長老の声が飛ぶ。
「待てい。なんで一人で行くねん。シフォンを連れて行かんかい」
「えぇ!? シフォンを……連れて行くんでっか?」
「当たり前や。ええか、タルト。あっちの世界に行ったら、お前がずっとシフォンの面倒を見るんやで。シフォンを連れて、逃げなあかんときもあるやろ。そのための体力づくりや。シフォンをおぶって走らんかい」
「ええ~……」
 仕方なく、タルトは長老の隣に座っているシフォンを抱き上げ、よいしょと背負う。きょとんとされるがままになっていたシフォンは、タルトが走り出すと、その背中で嬉しそうにキュア~! と叫んだ。

「なあ、長老。ほんまにその役目、タルトに任せて大丈夫なんか?」
 タルトの後ろ姿が小さくなるのを見計らってか、一人の男が顔を覗かせた。ワッフル国王。スイーツ王国の王にして、タルトの父である。どうやら物陰から、様子を窺っていたらしい。
「我が子のことをけなしとうはないが、アイツは詰めが甘いとこがあるんでなあ。おまけに愚痴っぽいし、ええ加減なとこもある。今だって、嫌々ここに通うて来とるのんが見え見えや。アイツにシフォンを預けて、もしものことがあったら……」
「ふむ。ま、大丈夫でしょう」
 長老はあっさりそう言うと、国王に椅子を勧め、自分は紅茶の準備を始めた。
「今回の任務で一番大事なんは、困難に出会わんようにすることやない。困難には、必ず出会いますからの。大事なんは、どんな風に立ち向かうか、ですわ。その点、タルトはハートを持っとる」
 国王にティーカップを差し出してから、長老は自分のカップの中身をズズッと啜る。
「王様にわざわざ言うことでもないですが……困難に打ち勝つ勇気は、強いハートから生まれるもんです。そしてハートは、人との出会いによって、なんぼでも強うなれるもんです」
 長老はそう言って、あろうことか国王に向かい、パチリとウィンクしてみせた。
「今、ワシ、ええこと言いましたやろ?」
「長老……あんさん、そんな風やから、若いモンに『軽っ!』て呆れられるんやで」
 国王は苦笑いをしてから、自分に言い聞かせるように、こうつぶやいた。
「ほな、信じてみるか。タルトの……ハートを」

 シフォンをしっかりと背中にくくりつけたタルトが、多くの見送りを受けてスイーツ王国を後にしたのは、それから間もなくのこと。
 目指す先は、ピックルンたちが降り立った世界。これから妖精たちが、伝説の戦士・プリキュアとなる少女たちを見つける町だ。
 その町が、四ツ葉町――訪れる人が、幸せになれると言われている町。そして、食べる人を幸せにするという、スイーツが待っている町。
 もちろんそんなことを知る由もないタルトは、着いた早々、町の広さにげんなりして、ハァ~っとため息をついたのだった。

  ☆

(何なんだ、この世界の人間どもは)
 イース――この世界の人間・東せつなの姿となったラビリンスの幹部・イースは、初めて見る光景に戸惑い、苛立っていた。
 キャーキャーと騒ぎながら、通りを行きかう少女たち。ベンチに座って、穏やかに語り合う男女。母親と手をつないで、ぴょんぴょん飛び跳ねている幼い子供。そしてそれを嬉しそうに眺める父親と母親。
 笑顔。笑顔。笑顔……。
 何の統一感もなく、全員がガヤガヤと好き勝手に動いている様には、美しさのカケラもない。なのに何故、それがこんなにも眩しく見えるのか。
 町じゅうの人間たちが、そこかしこで、ただ馬鹿みたいに笑っている。それを見るだけで何故、胸の奥に風が吹き抜けるような、冷たい痛みを覚えるのか。
 わからない。さっぱりわからない。でも。
(私は……笑顔が嫌い)
 苛立っているのは、慣れない無秩序な雑沓の中に、長く居すぎたせいだ。イースは自分にそう言い聞かせ、町外れの森の中へと、足を向けた。

 森の中にある、一軒の古い洋館。そう見せかけてあるこの建物は、実はラビリンスの侵略基地。イースは、ほかの二人の幹部と共に、総統・メビウスの命に従い、今日この世界にやって来たばかりだった。
 玄関のドアを後ろ手に閉め、すぐにイースの姿に戻った彼女を、冷やかな声が出迎えた。
「おや、初めての異世界の探検は、もう済んだのかい?」
 女性のイースよりも長いグレーの髪に、エメラルドグリーンの瞳。口の端には笑いが浮かんでいるが、その目が笑っているところは、誰も見たことがない。
 ラビリンスのもう一人の幹部・サウラー。まだ若いが、キレ者と主に認められている男だ。
「うるさい。どこに行こうが、私の勝手でしょ」
「そりゃそうだ。僕は、君の上司じゃないからねえ」
 そう言いながら、館の中央の階段を下りてきた彼は、相変わらず冷やかな笑みを浮かべたまま、イースと向き合った。
「だが、気を付けた方がいい。ラビリンスのような進んだ世界に住む僕たちとは違って、この世界の連中は、野蛮人に近い。彼らはまだ、愚にもつかない幻想や、根拠のない信念とやらを持っているらしいよ。だからせいぜい、彼らと関わり過ぎて、その毒気に当てられないようにするんだね」
「ふん。心配でもしているつもり? よしてよ。虫唾が走るわ」
 肩をすくめて館の奥へと入っていくイースの後ろ姿を眺めて、サウラーは、やれやれ、と首を振った。

 階段を上がって、自室にあてがわれた部屋に入ったイースは、ベッドに乱暴に腰をおろして、ため息をついた。
 初めてやって来た異世界は、イースの想像を遥かに超えていた。この世界のことは、派遣されることが決まってから、みっちりと勉強してきたはずなのに……。本で学ぶのと、実際に経験するのとでは、こうも違うものなのか。
 でも、早くメビウス様のご命令を成し遂げれば――不幸のゲージを一杯にして、インフィニティを見つけ出せば、この忌々しい世界ともおさらばできる。それに、今度ラビリンスに戻れば、今度こそ、メビウス様と直接お会いすることができるかもしれない。
 イースは、まだはっきりと顔を見たことのない主の姿を思い浮かべて、部屋の高い窓から、空を見上げる。いつの間にか、やけに赤い色に染まった空。その中ほどに、小さな光の点が見える。
 夜の訪れを、最も早く告げる星。それが、この世界では幸運の光と言われていることを、このときのイースは、まだ知らなかった。

  ☆

「タケシ君、どうしたの?」
 学校から帰って来た祈里は、自宅の動物病院から出てきた小さな影に、思わず声をかけた。大型犬であるラッキーの飼い主で、小さい頃から、山吹動物病院とは馴染みのある少年。いつも元気一杯のその顔が、今日は下を向いている。
「あ、祈里お姉ちゃん」
 こちらを向いた彼の目が赤くなっているのに気付いて、祈里は、心臓がさっと冷たくなるような感覚を覚えた。
「ラッキー、どこか具合が悪くなったの?」
 不安そうな様子を見せないように、やさしい笑顔を作って問いかける。自分の最悪の想像が、どうか当たっていませんように、と祈りながら。
「うん。先生は、大したことないって言うんだけど……ラッキー、入院することになっちゃったんだ」
「入院かぁ」
 また新たな涙を浮かべている小さな飼い主に気付かれないように、祈里はそっと、安堵のため息をつく。そして同時に、そんな安心の仕方をしている自分に、ひどく罪悪感を覚えてもいた。
「大丈夫よ。お父さんが……先生が大したことないって言ったのなら、すぐに良くなるわ。だから、もう泣かないの」
 しゃがみこんで彼の顔を覗き込むと、少年は握りこぶしで、涙をグイとぬぐった。
「祈里お姉ちゃん。ラッキーのこと、よろしくね。ラッキー、体は大きいけど、寂しがり屋なんだ。だから、時々かまってやってね」
「ええ。任せといて」
 大きく頷いた祈里に安心したのか、彼の顔に、やっと笑顔が戻る。
 じゃあね、と手を振りながら去っていく後ろ姿を見送って、祈里は自動ドアの玄関をくぐった。

「ただいま、お父さん。ラッキー、入院なんだって?」
 患者さんを送って出たのだろう。受付の前に立っていた父の正に、祈里は早速問いかける。
「おお、お帰り。そうか、タケシ君に会ったんだな? まぁ大事をとっての入院だからな。三、四日もすれば、退院できるだろう」
 正がこともなげにそう言うのを聞いて、祈里は今度こそ本当に、安堵の笑顔を浮かべた。お父さんがそう言うなら大丈夫。そう思える頼もしい父が、祈里には誇らしく、そして、とても眩しく……。
「お父さん。ラッキーが少し良くなったら、朝の散歩、わたしにやらせて」
「ん? そうしてもらえれば助かるが……大丈夫か? ラッキーは大型犬だぞ?」
「失礼ね。タケシ君に散歩させられるのに、わたしにできないわけないでしょ?」
「それもそうか。すまんすまん。うわっはっは!」
 豪快に笑う正の後ろで、また自動ドアが開く。
「先生! うちの猫が、喧嘩でひどい怪我しちゃって……」
 慌てふためく飼い主に、正はゆっくりと歩み寄る。
「お? おお、こりゃ痛そうだ。大丈夫。すぐに治療してあげるからね」
 聞く者を安心させる、正の落ち着き払った声。両手をギュッと握りしめ、羨望の眼差しを父に向けながら、祈里は心の中で、そっとつぶやく。
(大丈夫よ。早くよくなるって、わたし、信じてる)
 彼女の目の前で閉まりかけた自動ドアの隙間から、中天にひとつ、星が瞬いているのが見えた。

  ☆

「美希ちゃん。今度の土曜日、お仕事じゃなかったわよねぇ?」
 店の掃除を手伝っていた美希は、不意にレミにそう言われて、顔を上げた。
「だったら、ちょっと和希を連れ出して、話を聞いてやってくれないかしら。パパが言うにはね、あの子、何か悩みがあるみたいなのよぉ」
「和希が?」
 美希はそう問い返して、いつも穏やかな弟の顔を思い浮かべる。
 父と和希が隣町に引っ越してきたのは先週のこと。その後、和希とはもう三度も会って出かけている。家が遠かった頃は、会うのはせいぜい月に一、二度だったのだが、元々仲の良い姉弟だ。いつでも会える距離になれば、会う頻度が高くなるのは当然と言えた。
「だったら……学校の帰りに、明日も会う予定だけど?」
「学校の帰りじゃ、あんまり時間無いじゃない。和希って、自分のこととなると、なかなか言わないでしょ? どうせなら一日一緒にいて、あの子の本音を聞き出してほしいのよ。美希ちゃんになら、あの子もしゃべるんじゃないかと思うわ」
 そう言われれば、二人で会っている時間の大半は、美希がしゃべっているような気がする。
「ねっ、お願い! 軍資金なら、少しは出してあげるから」
「そんな……軍資金なんて、要らないわよ。わかったわ。土曜日は一日かけて、和希に四ツ葉町を案内してあげる」
 美希はそう言うと、母に向かって、自信たっぷりにほほ笑んでみせた。

(土曜日かぁ。まずどこに行こうかな)
 美希は、自分の部屋で雑誌を膝の上に乗せたまま、週末の予定を頭の中で組み立てる。
(まずはスポーツクラブに泳ぎに行ってから、ちょっとお洋服見るの付き合ってもらって、それからオープンカフェでランチね。そして、和希、図書館に行きたいって言ってたから案内して。その後は、この前見つけた紅茶の美味しいお店でお茶しながら、和希の悩みをじっくりと聞く、っと。よし、これで決まり。アタシ、完璧!)
 いつもの口癖を心の中でつぶやいた時、美希は大事なことを思い出して、慌てて立ちあがった。雑誌がバサリと床に落っこちたが、そんなことには構っていられない。
 机の一番上の、鍵のかかる引き出しを開け、そこに入っている財布の中身を確認する。と、ほどなくして美希の表情が、世にも情けなさそうなものに変わった。
(そうだった。この間思い切って、新作のスプリングコート、買ったばかりだったんだ)
 いくら読者モデルをしていると言っても、その収入が、全て美希の自由になるわけではない。アイドル時代、派手に遊んで身を持ち崩す仲間たちを見てきたせいか、大概のことには甘いレミも、お金のことにだけは厳しかった。とは言え、ラブや祈里に比べれば、美希はずいぶん裕福な方だったが。
 こんなことなら、軍資金を断ったりするんじゃなかった。そう思ったが、もう後の祭り。一度断ったものをやっぱり下さいなんて、親子の間であろうが、そんなことは美希のプライドが許さない。
(そうは言っても……これじゃ、とても無理だわ)
 仕方がないから、土曜日の完璧なプランを、もう少し現実的な計画に組み直す。オープンカフェでのおしゃれなランチは、カオルちゃんのドーナツカフェでの、スイーツなランチに変更。紅茶の美味しいお店での優雅なティータイムは、明るいファミレスでの、お手軽なドリンクバーへと。
(大丈夫。肝心なのは、おしゃれな雰囲気なんかじゃないわ。どれだけ楽しく過ごして、和希が悩みを打ち明けやすくできるかよ。まずはアタシの話から、さりげなく、和希の話に持っていけばいいわ)
 鏡に映った自分の顔を見つめて、改めて戦略を練る。鏡台の隣の大きな窓の外には、そんな美希を励ますように、暮れかかった空にキラリときらめく、星の光があった。

  ☆

 放課後の、四ツ葉中学校。
「ねえ大輔! その先輩、もうすぐ引越して居なくなっちゃうって、本当なの?」
 ラブから突然、野球部の先輩のことを猛烈な勢いで尋ねられ、大輔は思わず後ずさった。
「あ、ああ。学校は、明日までだって聞いたけど……」
「明日~!?」
 にじり寄るラブの、いつになく真剣な眼差し。それを見た大輔の心に、不安の波が押し寄せる。
「何だよ、ラブ。なんでそんなに先輩のことが気になるんだよ。ひょっとして、お前……」
「どうしよう。明日までだって……。じゃあ、明日しかない、ってことだよね」
 彼の言葉が全く耳に入っていないらしい、ラブのつぶやき。こうなると大輔としても、何が何でもはっきりさせないことには気が済まない。
「おい、ラブ! 少しは俺の話を聞けよ!」
「へっ? あ、ゴメンゴメン。なぁに?」
「ん……」
 しかし、改めてそう向き直られると、途端に舌が動かなくなってしまうのも大輔だ。
「お、お前……その、せ、先輩のこと……」
「ああ。ありがと、大輔。先輩のことは、それだけわかれば十分だから。じゃね!」
「お、おい!」
 爽やかに駆け去っていくラブの後ろ姿に、大輔はなす術もなくうなだれて……。この後しばらくの間、大輔の親友である裕樹と健人は、いつになく不安定な彼のテンションに、振り回されることになるのだった。

「ダメだよ、由美。ちゃんと気持ちを伝えないと、後できっと後悔するって! 恥ずかしいなんて、そんなこと言ってる場合じゃないよぉ!」
 自分のベッドの上に何故か正座して、ラブは携帯に向かって、一心に呼びかける。
 電話の相手は、クラスメートの由美。大輔に聞いた野球部の先輩のことを、一年生のときから、好きだと言い続けていた友人だった。
「ね? ホラ、勇気を出して。あたしも付いて行くからさぁ。うん。うん。ホントっ? エライ! じゃあ、また明日ねっ」
 電話を切って、ラブは満足そうに、はぁっとため息を付く。
(由美。幸せ、ゲットだよ!)
 そのままゴロリと横になって、ベッドの横に貼ってあるトリニティのポスターに、いつものように憧れの視線を送るラブ。と、何気なく窓の方を向いたその目が何かを捕えて、彼女は勢いよくベッドから起き上がった。
 カラリとガラス戸を開けて、ベランダに出る。
「あ、やっぱり。一番星、みーつけたっ!」
(由美の告白、きっと上手くいく、ってことだよね)
 キラリと瞬く星の光が、そうだと言っているみたいだと、ラブは嬉しい気持ちで、しばらく空を眺めていた。

  ☆ ☆ ☆ ☆

やがて夜の帳がおりて、少女たちは眠りに着く。
彼女たちは、まだ気付いていない。
人生で忘れられない濃密な時間が、動き出したということに。
愛と希望と祈りと幸せに満ちた物語が、幕を開けたということに。

ひとつだけだった星の光は、今や満天に広がって、
彼女たちの明日を、静かに見守っていたのだった。

~終~
最終更新:2013年02月17日 11:20