【ゲームの勝敗】/恵千果◆EeRc0idolE




 誰が言い出したのか、わたしたち4人は今日も集まっていた。
 場所はいつものところ。桃園家のラブちゃんの部屋だ。
「今日はポッキーゲームをする日だって決まってるんだよ!」
「そうなの? どうやってするの?」
「ポッキーを両端から食べるの。長く食べた方が勝ち。途中で止めた人は罰ゲームだからね」
 何も知らないせつなちゃんに、やり方を説明するラブちゃん。罰ゲームの内容なんて聞くまでもない。
 そんなラブちゃんを、美希ちゃんは面白そうに眺めている。どうして教えてあげないんだろう。そんなのは嘘なんだって。
 だけど、そんなの決まってる。せつなちゃんの唇に口づけたくてたまらないラブちゃんに、ほんの少し肩を貸しているだけ。
 そんな美希ちゃんを黙って見ているわたしもまた、ラブちゃんに味方している美希ちゃんと同罪だ。
「まだよくわからないわ」
 小首を傾げてみせるせつなちゃんはホントに可愛い。ラブちゃんが好きになるのも無理ない。
「じゃあ、美希たんとブッキーにやり方見せてもらおうか」
「ええ、お願いします。美希、ブッキー」
「ハア!?」
 さっきまでニマニマしていた美希ちゃんは、顔を紅くしたり蒼くしたりで余裕を無くして忙しそう。
「いいよ。美希ちゃんやろう」
 わたしは、ポッキーを一本手に取り、彼女に向かい合う。
「こんなの、ただのゲームだよ美希ちゃん」
 そう言うと、彼女を安心させるために笑いかけた。
 だけど、その言葉は逆効果だった。
 何も言わず立ち上がり、乱暴にドアを開けて、美希ちゃんは逃げ出した。
「あーあ……」
「失敗しちゃったわね」
 残念がるふたり。何が起こったのかわからない。
「ふたりとも素直じゃないんだもん。ね?」
 ラブちゃんの言葉に、せつなちゃんが頷く。さっきまで、素直じゃないのはあなたたちだとばっかり思っていたわたしは、ただポカンとしている。
「追っかけないの?」
 ラブちゃんの言葉に促されるように慌てて鞄を拾い上げると、廊下に飛び出した。



 案の定、公園で見慣れた後ろ姿を見つけると、そっと近づいて言う。
「ごめんなさい」
 驚いて振り返る彼女は、瞳にいっぱいの涙をためている。瞬きをすれば一瞬であふれそうなそれを、わたしは唇で舐め、掬い取る。
「ホントはゲームだなんて思ってないから。だから……」
 美希ちゃんの涙で舌がしょっぱい。わたしはこれ以上言葉を見つけられない。言葉のかわりに、美希ちゃんのつやつやしたくちびるに少し乱暴にくちびるをぶつける。
 美希ちゃんは、痛いじゃないと言って笑った。
 綺麗な美希ちゃん。意地悪な美希ちゃん。大人っぽい美希ちゃん。だけど、この時わたしは知ったのだ。わたしにしか見せない、誰も知らない美希ちゃんを。



end
最終更新:2013年02月16日 21:25