「甘いものは別腹」/SABI




 「うわーん・・・・・ひっく・・・・えぐ・・・・・」

 ラブからの呼び出しで公園に来てみると、さっきから、この調子。
 泣いてばかりで要領を得ない。ホント、何が言いたいんだか。

 「ラブちゃん、そんなに泣いてちゃ分かんないよ。泣きやんで、ね」

 泣いているラブと慰めるブッキー。
 この光景、どっかで見たことある。って、何かある度にアタシやブッキーに泣きつくのは、いつものことか。
 まあ、ラブが本当に落ちこんでいる時は食事も喉を通らないくらいだから、今回は軽症だって事なんだろう・・・多分。

 いつもはラブにべったりくっついて離れない、せつなの姿が見えない。
 もしかして、それが原因?

 「ラブ、せつなは・・・・」
 「せ、せつな・・・・せつながね・・・・・・うわーん」

 「ラブちゃん、せつなちゃんがどうかしたの?」
 「せつなが、せつなが・・・・ぐす・・・・」

 だから、せつながどうしたのっていうのよ。

 「せつなが実家に帰らせて頂きますって、昨日の夜・・・・ひっく」
 「「はあ?」」

 アタシとブッキー、随分と間の抜けた返事をしてしまったけど、それも仕方ないと思う。
 だって、せつなの実家ってラブの家で、ラブの家にはせつなが住んでいる訳で。
 えっとつまり、ラブとせつなは同居しているから、せつなには帰る実家などないはずなのだ。
 説明している自分自身でもよく分からなくなってきたけど。

 もしかして、ラブとせつなが喧嘩したのかしら。同居しているから、却って気まずくなるわよね。
 それで、せつなが家出でも?

 「せつながどこかへ家出でもしたの?」
 「ううん、・・・今日、一緒に学校に行った・・・・・ぐす・・・」

 再び泣きだしたラブをブッキーがなんとか宥めている。でも、なんとなく話は見えてきた。
 せつなが突然実家に帰るって言い出したから、ラブがこうなったというわけだ。

 だけど、二人が喧嘩している・・・・訳じゃないよね。
 喧嘩しているんだったら、せつなからもアタシかブッキーに連絡が入るはずだけど。

 本当に喧嘩しているというなら、心配なのはむしろ、せつなの方。
 せつなの実家って良く分からないけど、桃園家に居づらいというなら、なんならアタシの家に来てもいいし。


 とにかく、せつなを呼び出して、直接聞くのが早い。
 リンクルンでせつなを呼び出そうとすると、ラブが必死に止めようとする。

 「美希たん、ちょっと待って」
 「ちょっと待ってって、このままじゃ埒が明かないでしょ」

 「だって、せつなから別れようって言われたら、あたし・・・・・うわーん」
 ・・・・ラブの涙腺は再び決壊したらしい。


 数十分後、待ち合わせ場所にせつなが来た。
 ラブがいると色々ややこしいというか、折角落ち着いたのにまた泣かれても困るので、別の所に移動させて。
 ラブとは違い、外見上は普段のせつなと変わらない。

 「せつな、単刀直入に聞くけど、ラブと喧嘩でもした?」
 「ラブと喧嘩?」

 せつなが不思議そうな顔をする。どうやら、ラブと喧嘩をしたという訳ではないらしい。

 「だったら、何でラブに実家に帰るなんて言ったの?」
 「ラブが浮気をしてるんじゃないかと思って」

 「どうして、ラブちゃんが浮気をしたと思ったの?」
 「だって、私が髪を切ったこと、ラブが気付いてくれなかったし」

 「「はあ?」」

 アタシとブッキー、随分と間の抜けた返事・・・・は前に言ったか。
 髪を切ったことと浮気とどう結び付くのか分からないけど、というかその情報源、何処?

 ラブが浮気・・・ありえない。
 せつなの一言でラブがあんだけ落ちこんでいるんだから、浮気の心配は絶対にないと思うわ。
 それに、ラブとせつなは仲が良くって、人前でもいちゃいちゃする二人をいつも窘めているくらいだし。

 何時の間にかラブがいて、誤解の解けた恋人同士、人目を憚らず・・・
 だからそこ、人前でいちゃいちゃしない!

 説明している自分自身でもよく分からなくなってきたけど、
 ともあれ、ラブの心配もせつなの心配も杞憂だったってことだ。
 心配して、損した。


 はぁ~~
 お腹の底から深い溜息が漏れてくる。
 溜息をつくと幸せが逃げるっていうけれど、あの二人に振り回されて、どれだけの幸せが逃げていったのだろう。
 まあ、せつなが来たことで、いっぱい幸せを貰ったからいいのだけど。

 隣ではアタシと同じように、ブッキーが深い溜息をついている。

 疲れた時には、甘いものが一番。

 「帰り、カオルちゃんのとこ、寄ってく?」
 「うん」


 ラブとせつなの、甘い甘いノロケ話でお腹いっぱい。
 だけど、甘いものは別腹、ってね。



 了



 ~おまけ 事件の真相~

 その前日の夕方。


 「おばさま、いつも、すみません」
 「あらぁ、いいのよ。桃園さんちは家族同然だし、カットモデルなら大歓迎よぉ」

 「ここにある雑誌、見てもいいですか?」
 「いいけど、大人向けの雑誌よぉ」

 「・・旦那の・・浮気・・・見破る方法・・・・・」
 「恋人が自分のことに関心が無くなったら要注意よぉ、せつなちゃん」

 「例えば、髪を切ったのに気付かないとかぁ・・・・・そんな時は、実家に帰るとか言ってぇ・・・・」
最終更新:2013年02月16日 21:00