「明日へと繋ぐ力」/SABI




クリスマスイブ、トリニティのリーダーのミユキさんはお仕事ということでダンスレッスンはお休み。
寒いので公園での自主練習もお休みし、わたし達4人はラブちゃんの部屋に集まっていた。

「ブッキー、いつもありがとう」

せつなちゃんがわたしに綺麗にラッピングされた薄いカードみたいなものを渡してくれる。
わたしだけじゃなく、美希ちゃんにも。

「せつなちゃん、ありがとう」

なるべく、破れないように慎重に開いていくと、赤いシンプルなカード。
表には、せつなちゃんの字で、アカルン使用券と書かれている。

「アカルン使用券?」
「ええ、ラブがクリスマスにはお世話になった人にプレゼントするものだって言ってたから」

せつなちゃん、それはお歳暮のことじゃないかしら。
それか大人の人だったら、恋人同士でプレゼントを交換するとかはあるかもしれないけど。

「ラブが以前、お父さんとお母さんに肩たたき100回券を渡したって聞いたし」

それって、勤労感謝の日のこと?
それとも、父の日、母の日とか。
もしくは、お誕生日のプレゼント?
ひょっとして・・・・

「せつな、それは父の日とかじゃない」

美希ちゃん、的確なお言葉いつもありがとう。

「みんなにいつもお世話になっているから、感謝のしるし。でも、私はそんなにお金をかけられないから」
「それでこのカードって訳ね」
「せつな、偉いんだよ。カオルちゃんのドーナツくらいしか、お金使わないの」
「カオルちゃんのドーナツは日本一、いえ世界一、もしかしたら全パラレルワールド一かも」

せつなちゃん、カオルちゃんのドーナツは確かに美味しいけど、そこまでは・・・。
ラブちゃんは・・・って、百円玉貯金を見たら、前より減ってる?

「あはははは・・・。最近ちょっと出費がありまして」

せつなちゃんと美希ちゃんは納得したように頷いている。
一体、何のこと?

わたしが美希ちゃんの方を見ると、二人には気づかれないようにしてか小声で、
「ラブがせつなにプレゼントしたの」

そうだったんだ。だから最近せつなちゃんが明るくなったの。

「お父さんやお母さんにいつまでも迷惑を掛けられないから、それで貯金してるの。
それで、ブッキーはどこに行きたい?」

え、わたしが最初?うーんそれじゃ。
「サンディエゴ動物園」

「ブッキー、即答!」
「しかも、外国!?」
「じゃあ、早速行きましょう」


「サンディエゴ動物園って、アメリカのカリフォルニア州にあって・・・・」
ってあれ。みんなおーい、わたしの話聞いてる?

「サンディエゴ動物園へ」
4人は赤い光に包まれた。




「ここって本当にサンディエゴ動物園?」
「そのはずだけど」
「なんか人、誰もいなくない?」
「クリスマスシーズンだから休園日ということはないと思う」

動物園というよりは、ちょっとした谷になっていて、草木が生い茂り岩もゴツゴツしていて、とても人が歩けそうな感じじゃない。
左右にある樹木は日本にあるような木でなく、熱帯地方にあるような。まるでジャングルを探検しているみたい。
それに、何かの気配がする?

「なんかちょっとまずくない?」

その気配は少しずつ近づいてきて・・・


そして姿を現した。
白い虎、ホワイトタイガー。

「なあんだ、ホワイトタイガーかあ。だったら、ブッキー・・・」
「しっ、ラブちゃん、静かに」

「船上パーティの時のホワイトタイガーさんは赤ちゃんの時から人間に慣れているの。
 でも、このホワイトタイガーさんはどうか分からない。
それに数年前、サンフランシスコ動物園では虎が逃走して死者がでる事件が起きていて・・・」

「ええーー!!うごうご」
わたしからは見えないけど、美希ちゃんとせつなちゃんが必死にラブちゃんの口を押さえているのだろう。


足が竦み、体が震える。
でもわたしがやらなくちゃ、自分を信じて。
お父さんが前に言ってた。動物さん達と理解し合うためには、怖くたって、お互い一歩ずつ近づかなくっちゃいけないんだって。

「キルン」
「キ―」

(ホワイトタイガーさん、わたし達は・・・あなたがたに危害を加えるつもりはありません)
(・・・・・・)
(迷ってしまってこちらに来たんです。人目のつかない所を教えて下されば、すぐに出て行きますから)
(・・・この建物の裏側は人間が少ないようだ)
(ありがとう、ホワイトタイガーさん)

「せつなちゃん、アカルンで建物の裏に」
「分かった。アカルン」

赤い光に包まれる直前、わたしはもう一度ホワイトタイガーさんにお礼を言った。




アカルンで瞬間移動したときにみんなと離れてしまったのか、周りには誰もいない。
わたしが辺りを見回していると、体格のいい制服を着た黒人の人が近づいてくる。警備員さんかな?

「May I help you? ――――」
その警備員さんらしき人がわたしに声をかけてくる。
えっと、いくらミッション系の学校に行っているからって、ネイティブの英語は・・・・
わたしがぐずぐずしていると、尚更早口になってまくしたてるように話しかけてくる。
親切で話しかけてるとは思うけど、言葉が通じないって、本当に怖い。

「すみません、その子アタシの連れです」
背後から美希ちゃんの声が聞こえてきた。
美希ちゃん、警備員さんに日本語で言っても通じないんじゃ・・・
でも、警備員さんはにっこり笑って、わたし達から離れていった。

迷子だって思われたのかな?
でも、美希ちゃんと同い年なんだけどな。そりゃ、わたしは童顔で、背も美希ちゃんより小さいけど・・・

「何?ブッキー、顔になんかついてる?」
美希ちゃんの顔を凝視していたみたいで、不思議そうな顔する。

「ううん、なんでもない」

「それより、大変!ラブとせつながどこにもいないのよ。せつなはアカルンがあるからいいけど、リンクルンで連絡とってみる?」
「でも携帯は海外だったら通じないし」
わたし達がそんな会話をしていると、美希ちゃんのリンクルンが鳴りだした。
「ラブからだ・・・。はい・・・・・うん分かった・・・・うん、それじゃ」

「ラブとせつなは一緒なんだけど、別々に行動して後で合流しようって。ブッキーは行きたいとこある?」

「この動物園はパンダとコアラがいて、それに動物と触れ合える場所もあって、でも広いからどれかに絞ったほうがいいかな」
「ブッキーが行きたかったところだから、ブッキーに任せる」
「ありがとう、美希ちゃん」


しばらく歩くと、木枯らしのような音が聞こえてきた。
でも、天気は晴れで風も弱い。日本でいうなら小春日和って感じの陽気。


だけどその音は消えることなく、だんだんはっきりしてきて、ささやきみたいになってきた。

(・・・マ・・マ・・・・・マ・・マ・・)
(・・・・ニ・・・・ンゲ・・・ン、・・ニ・・ンゲン・・だ・・・)


その声はもっと大きくなって、わたしの脳内に鳴り響く。

(ママー、ママはどこにいるの)
(僕達いつまでここにいなくちゃいけないの)
(ニンゲンだ、ニンゲンがまたキタ)


そんな大声で話されたら、わたしの耳がおかしく・・・・

「――ブ―――、―――ブ――キ―――、ブッキー、どうかした?」

「なに、美希ちゃん」
「なにじゃなくって、急に立ち止まるから。ブッキー顔色悪いよ、また気分でも悪くなった?」
「ううん、平気」
「こっちのベンチに座ってちょっと休もう」


わたし達の間に沈黙の時が流れる。
いつもの何も話さなくても居心地がいい雰囲気じゃない。話したいことがあるのに、どちらも口にしない重苦しい感じ。


「美希ちゃん、やっぱりわたし獣医さんになりたい、ううん、獣医さんになる」
「・・・・・・」
「わたし、小さい頃お父さんとお母さんに連れられて動物園に行くのが大好きだった。
 図鑑やテレビでしか見ることができない動物達をたくさん見ることができて、嬉しくて幸せだった」
「・・・・・・」

「このサンディエゴ動物園は希少動物の保護に熱心な動物園で、世界的にも有名な動物園で・・・。
飼育されているところも、広い場所に動物さんの生まれ故郷の環境に近くなるように作られているの。
だから、この動物園の動物さん達は、みんな幸せだって思ってた。
でも、動物さん達の中には家族と離れ離れになった子や、人間に見られるのが嫌な子達もいる・・・・」

「だから、わたしは人間と動物達の橋渡しをしたい、そうなれたらいいと思う」


美希ちゃんは黙って立ち上がり、わたしに手を差しのべてくれる。
わたしはその手をとって立ち上がり、そしてそのまま手を繋いで、前へと歩き出す。


今日はクリスマスイブ。

わたし達の前方から親子連れがこちらへやってくる。
クリスマスプレゼントなのか大きな袋を持ってはしゃいでいる女の子、それを見て微笑む両親。

わたし達とすれ違うその親子が向かう先からは、動物達の鳴き声が聞こえてくる。



最終更新:2013年02月16日 20:14