「クリスマスに雪は降るの?」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY




12月に入ってからラブの落ち着きがない。
元から落ち着きなんてあるのか?と問われると反論のしようもないのだが、
いつもにも増して言動もオーバーリアクション気味だ。
まるで靴にバネでも仕掛けてあるのでは?と疑いたくなるくらい、
普通に歩いていても踵が地に付いてない。


「だって!!クリスマスなんだよ!!」


少し落ち着いたら?とせつなが呆れたり、苦笑いする度に
ラブはそう答える。
全く答えになっていないのだが、それ以外に答えようがないらしい。
確かに言われてみれば落ち着かないのはラブだけではない。
美希や祈里、クラスの友人も何だかいつもより笑顔が増え、
お喋りしていても、いつの間にか話題はクリスマスの事になっている。
そして、気が付けば町全体がソワソワと浮き足立ち、赤と緑を基調とした
飾り物があちこちに顔を出している。
冬のはずなのに、雪をモチーフにした物も多いのに、町の気温が
ほんわりと上がった気分にさえなる。


ラブはせつなにクリスマスを説明しようとしたが、今一つ要領を得ない。



「あのね、外国の神様が産まれた日なんだ!」


「サンタクロースって赤い服着たおじいさんがプレゼントくれるの!」


「その日はね、家族とか友達とパーティーしたりするんだよ!」


「ご馳走食べて、ケーキ食べて、プレゼント交換するの!」


「恋人同士の一大イベントなんだよ!」



ラブは息咳切って説明してくれるのだが、せつなには、


「?????」


な、様子だ。


外国の神様の誕生日なのに、プレゼント貰えるの、どして?


サンタクロースって人が神様なの?え?違うの?


家族や友達と交換するプレゼントとサンタクロースがくれるプレゼントは
違うの?


家族と恋人とどっちと過ごすのが本当なの?


そもそも何で外国の神様の誕生日に……



せつなとしては、ただ疑問に思った事を聞いただけなのだが、
ラブは疲れた顔で少し遠い目をして、



「……とにかく、そう言うモノなんだよ。せつな。」

「…………。」



結局、ラブにもこう言う事!とはっきり説明は出来ないらしい。
何でも、雰囲気とフィーリングだそうだ。


埒があかないので、自分で調べる事にしたせつなだが、調べる内に
奇しくもラブの説明はどれも間違いではない事が分かり苦笑を禁じ得なかった。


「確かに、外国の神様の誕生日で、サンタクロースがプレゼントをくれて、
家族や恋人と過ごす大切な日……、みたいね。」


特に、クリスマスに共に過ごす恋人がいない、と言うのは
妙齢の男女にとっては切実な問題らしい。


取り敢えず、この国においてクリスマスと言うのは、「サンタクロース」、
「プレゼント」、「クリスマスケーキ」と、いくつかの重要キーワードを
押さえていれば、それがその人なりのクリスマスで通用する…、
と、言う事…、らしい?違うかしら?……まあ、いいわ…。


(……プレゼント、どうしよう。)


サンタクロースのプレゼントは良い子にしてれば、夜の内に枕元に
置いて行って貰える物で、大切な人やお世話になった人には
自分で考えた、心の籠った物を贈る……らしい。


ラブ、美希、祈里には当然用意する。お父さん、お母さんにも何か贈りたい。
出来ればタルトとシフォンにも……。
しかしながら、自由になるお金と言えば月に一度のお小遣い。
それにたまに貰える買い物のお釣とお手伝いのお駄賃。
到底5人+2匹に満足のいく贈り物が出来るかは……。
勿論、お金を掛けるだけがプレゼントではない、(この後、
両親へのプレゼントは金欠ラブからの申し出で、連名&ブッキー指導の元で手作りする事て解決した)
のは分かってるのだが……。



(何か、私にしか出来なくて…尚且つ皆が喜んでくれそうなモノ……)



ふと、せつなに閃くものがあった。



(……やって、やれない事は…ない?)



腰のポーチに下げたリンクルンから、アカルンを呼び出す。



「ねぇ、アカルン。どう思う?」


「キー?」



取り敢えず、やれるかどうかやってみよう。
クリスマスの事を調べている間に、何度も出てきた言葉。
『ホワイトクリスマス』、クリスマスに降る雪は特別なものらしい。
しかし、この国では特に雪の多い地域でない限り12月、それもクリスマス当日に
雪が降るなんて奇跡に近い。


(クリスマスに雪が降れば、皆喜んでくれるかしら?)



もしそうなら、クリスマスに雪を降らせる事が出来たなら……。
家族や友達だけでなく、町の人みんなに喜んで貰えるかも知れない。
せつなはこの町で幸せになれた。それは勿論、ラブやみんなのお陰。
それに、この町の人すべてのお陰。せつながやって来たのが
この町でなかったら、自分はこんなにも素直になれなかった。
こんなにも、幸せを受け入れられなかった。
そう思うから………。


せつなは手のひらの上で自分を見上げてくる、相棒の赤い妖精に微笑みかける。


「やってみましょうか?アカルン。」


「キィー!!」



そうと決まれば具体的に計画を練らないと。
まず、練習……と言ってもそこかしこでするわけにはいかない。
それに、そう何回も出来ないだろうし……。
当日の天気はどうなのかしら?
出来れば24日か25日が理想的だけど、無理そうなら23日…。



せつなはぐるぐると考えを廻らせる。
本番は一発勝負。失敗は許されない。
誰にも内緒で準備を進め、決行する……。


(当日まで、ラブにも気付かれないようにしないとね!)



……
…………
………………


「せつなの様子がおかしい?」



こくり、とラブがジュースを啜りながら頷く。
ここはドーナツカフェ。ラブの他には美希と祈里。
もうすぐ冬休み、と言う放課後。いつものように集まってお喋り。
クリスマスパーティーの相談でもしようと思っていたのだが、せつなの姿はない。
用があるから後から行く、と一人でどこかへ行ってしまった。



「どんなふうに?」


「なんか、時々一人でニマニマしてるんだよね。それに、何だか寝不足みたいでさ。」


「寝不足?」


「そう。どうも夜中にアカルン使ってどっか行ってるみたい。」


「………。」
「………。」


「隠し事、してるみたいなんだよね。」


「せつなちゃんに聞いてみた?」


「それとなくは…。」


「せつな、なんて?」


「……キョドってた。でも、悪い事してるわけじゃないみたいなんだよね。
なんか、楽しそうだし。」


美希と祈里は顔を見合わせる。
せつながラブに隠し事。隠し事になってないみたいだが、珍しい。
まぁ、イース時代の事を考えればラブにバレバレな隠し方しかしてない様子
からして、大袈裟なものではないと思うが。


「まぁ、楽しそうなら気にするほどの事じゃないんじゃないの?
せいぜいイタズラ仕掛けようとしてるとか?」


うーん、とラブが唸っている内にせつなが息を切らせて走って来るのが見えた。


「ごめんなさい、遅くなっちゃって。」


息を整えながら、席に着くせつなに、ラブが微妙な視線を向ける。


「ねぇ、せつなちゃん。何かラブちゃんに隠し事してる?」


「!!!」
「!!!」
「!!!」


「ブッキー……、そんな豪速球のど真ん中ストライクを…。」


「うん、してるわよ?」


「!?」
「!?」
「!?えっ!何??何を?」


「そんなの、言えたら隠し事にならないと思うけど。」



確かにごもっとも。
せつなは、もう少し待ってね?すぐにわかるから。
と、意味有り気な微笑み。
そんな風に言われたら、これ以上は追求出来そうにない。


そんな訳で、その日はそのままパーティーの段取りを付けてお開きとなった。



「どうしたのかしらね、せつな。」


「ね、あんなせつなちゃん初めてかも。」


「あれじゃ、ラブも気になるわよねぇ。」


「でもせつなちゃん、すごく楽しそうだったね。」



美希と祈里は顔を見合わせながらクスクスと笑いを漏らした。
ラブには悪いが深刻ぶってるラブと、浮かれた感じのせつなとのギャップが
何だか可笑しくて。
ひょっとして、せつなはクリスマスに何か
サプライズを用意してるのではないだろうか。
たぶん、いやきっとそうだろう。


また二人は微笑む。
せつなにとっては初めてのクリスマス。
準備も含めて楽しんでくれてる様子が嬉しくて。


「まぁ、すぐに分かるって本人も言ってるんだし。」

「そうだね。クリスマスのお楽しみが一つ増えたよね。」


25日。町はお祭り最後の夜に、何だかさわさわとざわめいていた。
公園には大きなクリスマスツリー。明日の朝には撤去 されてしまうので、
夜の公園は記念撮影したり、ドーナツ(カオルちゃん特製
クリスマススペシャルバージョン)片手にお茶したりする人で溢れかえっていた。


勿論、クローバーの4人も公園で待ち合わせ…のはずだが、
またせつなはラブを一人で行かせて自分は後から合流すると言う。


「9時丁度に空を見てくれる?」


と言う意味深な台詞を残して。


「まあったく!何しようってんだか。」


さすがのラブにもせつなが何かサプライズを用意しているのは予想出来た。
しかし、それが何なのか、全くもって見当も着かない。


「ま、それもあとちょっとか……。」



楽しみにしてるよ?せつな!
美希と祈里に合流し、せつなの伝言を伝える。



「何しようってのかしらね、あの子。」


「ラブちゃん、何か分かった?」


「それが、全然!あっ、もうそろそろ9時だよ!」



3人は揃って空を見上げる。
その時、チカッ!チカッ!と、遥か上空で赤い光が二回瞬いた。



「!!今、光ったよね?」


「ひょっとして、アカルン?」


「え?でも、なんで?どう言う意味?」



3人が訳も分からず囀ずっていると、頬を真っ赤にしたせつなが
走り寄って来た。


「みんな、お待たせ!」


「ねぇ、せつな!今光ったのアカルンだよね?」


「一体何なの?空の上にテレポートしたの?」


「ねぇ、せつなちゃん。そろそろ種明かししてよぅ。」


「しっ!ほらっ、空見てて!」



その時………



「あっ!!!雪?」
「え?マジで?」
「ホントだ!雪、雪降ってきた!」
「えー?信じられない!ホワイトクリスマス?」



わぁっ!とあちこちから歓声が上がり、子供達が「雪だ!雪だ!」と
はしゃぎ回る姿が見える。


その光景を見て、満足そうに頬を紅潮させるせつな。
呆然と降り注ぐ雪とせつなを交互に見つめる3人。



「……せつな。せつなの仕業だよね?」

「でも、一体どうやって……?」

「アカルンに天気を操る力なんてなかったよね…?」


せつなはニンマリと笑って、種明かし。



「あのね。アカルンで雪の塊と一緒にテレポートしてきて、空の上で
ハピネスハリケーンで砕いたの。」



結構加減が難しかったのよ?
あんまり細かく砕くと地上に降りる前に溶けちゃうし、かと言って
大き過ぎると危ないし…。
量もある程度欲しいから、溶ける分差し引いても、かなりの大きさだったし……


「……って、どしたの?みんな。」


声も出ない3人に、せつなは小首を傾げる。
もしかして、気に入らなかった?せつなが不安になりかけた時、
ラブ、美希、祈里は弾けるように笑いだした。



「もーぅ!せつなってば、信じらんないよ!」


「アカルン有効利用し過ぎ!」


「色々想像したけど、その発想はなかったかも!」



3人はせつなをもみくちゃにして髪をくしゃくしゃにかき混ぜる。


「ちょっ!ちょっと!やめてよ!」


せつなはそういいながらも抵抗しない。



(喜んで貰えたの……かな?)



その夜、四つ葉町に起きた異常気象。
ホワイトクリスマスにはしゃいだ人々は、公園を一歩出ると違和感に
首を傾げた。
そして、違和感の正体に気付くと唖然とした。
公園の外には、雪なんてひとひらも降っていなかったと言う事実に。


この事は、後々まで四つ葉町の不思議として語り継がれる事になる。
その奇跡の仕掛人は、赤いドレスの少女サンタ。そして、寄り添うのは
トナカイではなく赤いハート型の小さな妖精。


真相を知っているのは、彼女達と固い絆で結ばれた3人の少女だけでしたとさ。
最終更新:2013年02月16日 20:10