「雨のち紙テープ」/◆BVjx9JFTno




ダブルの部屋なのだろう、
無駄に広い部屋だった。

ベッドに転がる。


いつも掲載させてもらってる、
ファッション雑誌の、クリスマスイベント。

読者のための集いなので、
読者モデルも、当然参加。

断るわけには、
いかなかった。


読者の女の子たちと一緒に
握手会や、記念撮影。

無難に、こなした。





気分が悪いことにして、
打ち上げを中座した。

宿泊予定のホテルに、
ひとりで戻る。

普通の、ビジネスホテル。

クリスマスイブに使うお客さんが
少ないのか、部屋の変更も簡単にできた。

他の宿泊客が、近くに
居ない部屋を、お願いした。


人恋しいのに、
人と会いたくない。

なぜかは、わかっている。

一緒に過ごしたかったのは、
クローバーのみんな。


今年は特別だった。


プリキュアになって、みんなと
いっそう強く、つながった。

そして、大切な人が
ひとり、増えた。


今年のクリスマスは、
とびきり楽しくなる。

そのはずだった。





テレビをつけ、リモコンで
チャンネルを切り替える。

クリスマス特集の、歌番組。
クリスマスをテーマにした、ドラマ。
クリスマスの、街の中継。


テレビを消す。

放ったリモコンが、
床のカーペットに転がる。

ベッドで、膝を抱える。


リンクルンが鳴った。
せつなからの着信。

「もしもし、美希?イベントはどう?」
「うん、とっても楽しくて盛り上がっちゃった。」

口だけは、うまく動く。

「そう...今はもうホテル?」
「うん。お風呂も入っちゃった」




電話の向こうで、聞こえる
ラブとブッキーの声。

お皿が触れる音。

音楽。


寂しいよ。

喉まで、出かかる。


「じゃあね...」

自分から、通話を切った。

このままだと、
泣いてしまうから。

抱えた膝に、
頭をうずめる。


会いたいよ。



目の前が、
光で覆いつくされた。

猛烈な、破裂音の連続。


顔に、何かが覆い被さっていて
よく見えない。

「メリー、クリスマース!!!」

さっきまで、電話から
聞こえていた声。


覆い被さっているものが
何か、わかった。

大量の、クラッカーのテープ。

テープのすき間から、見える。

ラブの笑顔。
ブッキーの笑顔。
タルトとシフォンの笑顔。

せつなの笑顔。


「やっぱ、美希たんも一緒にいないとね!」

「美希ちゃんが寂しいだろうなって、ね、せつなちゃん?」

「わ、私は別に、ケーキ5等分するのが難しいから...」

「ホンマ、パッションはんは、よう気がまわりますなぁ」

「美希、いっしょにケーキ食べゆ」



みんなの気持ちが
心にしみ込む。

視界が、急にぼやける。

せっかく、我慢したのに。

顔を拭うように、
テープを取り除く。


一緒に移動してきた、小さなテーブルには
人数分のお皿と、カップに入った紅茶。

そして、6等分したケーキ。


「みんな...ありがと」


一緒に過ごしたかった人が
そばに居る。


「さ、みんなで食べよ!」
「いただきまーす!」


せつなと、目があう。

パチンと、ウィンクされた。

アタシ、全然ダメね。
寂しかったの、バレバレじゃん。


バレついでに、今夜くらいは
みんなに思いっきり甘えちゃおうかな。
最終更新:2013年02月16日 20:02