「First Christmas」/◆BVjx9JFTno




加湿器の音が、
やけに大きく聞こえる。

静まりかえった部屋。

糸が擦れる音と、
息づかい。

黙々と、手を動かす。



「たはーっ!難しいぃぃ!」

「きゃっ!」
「わっ!」
「もう...急に叫ばないでよ!」

力が抜けたように、みんなが笑う。


「だいぶ、出来てきたね」
「やっぱり、ブッキーは上手だよねぇ」

「ううん、みんなもすごく上手になってるよ!」

「そ、そう...? 結構、練習したんだ...」
「ブッキーの教え方が、上手だからよ」
「ブッキー先生の、おかげだよ!」


ひとつひとつ、糸を重ねていく。

細かい棒の動かしかたも、
何とかサマになってきた。


家族に贈るクリスマスプレゼントを、
手編みで作ることにした。


私は、ラブと共同で作る。
お母さんに、ストール。
お父さんには、マフラー。


学校の帰り。
ダンスレッスンの後。
休みの日は朝から。

みんな食事もそこそこに、
ブッキーの部屋に籠もっている。


ブッキーの編み物の腕前は、
相当なものだった。

のんびりおしゃべりしながら、
鮮やかな手つきで編み上げていく。

タルトとシフォンも、かわいい帽子を
作ってもらって、ごきげん。


「ラブ、前半出来たわ」
「あたしも出来た!交代ね!」

ストールとマフラーを、交換する。
ふたりで、半分ずつ編むことに決めた。

触れているだけで、幸せになりそうな
毛糸の感触。

もらってくれる人の、笑顔を想像しながら、
編み目を増やしていく。


しばらく、集中した。


美希も、ラブも、真剣な顔で
棒を動かしている。

ブッキーは3人の様子を見ながら、
指の位置や、編み目へ棒を通す角度、
糸の渡し方を根気よく教えてくれる。


学校が冬休みに入ってからは、
ほぼ合宿状態で作業した。

クリスマス・イブ。

夕日が部屋を染める中で、
ようやく完成した。

「出来たあー!」
「完璧よ!」
「ありがとう、ブッキー」
「きっとみんな喜んでくれるって、信じてる!」



クローバータウンストリートは、
きれいなイルミネーションで飾られている。

華やいだ街並み。

行き交う人たちの顔に
あふれる微笑み。

みんな、誰かを
喜ばせようとしている。


美希も、ブッキーも、ラブも。

そして、私も。


気分が高まっているのか、
アラームが鳴る前に、目が覚めた。

夜明け前の、静かな時間。

包みを持ち、
アカルンを呼び出す。

「よろしくね」
「キィ」

アカルンがウィンクする。


お父さんとお母さんの寝室。
二人とも、よく寝ている。


枕元に、そっと包みを置く。

いつもありがとう。
喜んでくれると、嬉しいな。


少し、お母さんが身じろぎをした。

あわててアカルンを使う。


「あ、あれ...?」
「どうしたの、せつな...?」

自分の部屋に戻ったつもりが、
ラブの部屋に戻ってしまった。


ラブは起きていて、窓の外を
眺めていた。

「うまくいった?」
「え...ええ、バッチリよ」

ラブがにんまりと微笑む。


「何だか、ドキドキするね...」
「そうね...喜んでくれるかな」


「ほら、見て...」

ラブが、窓の外を指さす。

窓の外を見る。

音もなく、綿のような雪が
ゆっくりと降り続けている。

家々の屋根も、道路も、街灯も、
白く覆われている。


「きれい...」

私の息で、窓ガラスが曇る。

曇った部分に、ラブが指を当てる。


Merry

ラブの指が止まる。

「どしたの?」
「...綴り、忘れちゃった」

私の指で、続きを書く。

Merry Christmas


「メリー、クリスマス」

同時に言って、私とラブは
顔を見合わせて笑った。


夜明けまで、もうすぐ。
最終更新:2013年02月16日 20:00