【遠まわり】/恵千果◆EeRc0idolE
いつか、あなたに好きと告げる。そんな日がほんとうに来るのだろうか。
「おはよう」
「……おはよう」
ぶっきらぼうに答えても、彼女は柔らかく微笑んでくれる。
やっぱりこの道が好きだ。今朝も彼女に会えたから。
いつからだろう。わざわざ早起きをして公園通りを通学するようになったのは。
ずっと以前から彼女はここを使っている。ジョギング、犬の散歩、ダンスの練習……。
あたしはそれを知っていた。中学が離れたら、ますますここを頼りにするようになった。ただ彼女に会うために。
「珍しいね、髪がはねてる」
「ホント?どこ?」
「ほら、後ろ。てっぺんのとこ」
「え、わかんない」
あたしが困っていると、彼女があたしの髪に触れた。
「ここよ」
びりびりした。髪には神経はないはずだ。なのにどうして、彼女が触れた毛先から刺激が伝わってくるのだろう。
「美希ちゃん、顔赤い」
「……そんなわけないから」
「なら、いいけど」
目の前の少女はふんわりと笑う。
何を考えているのか全然わからない。
でも、そこが好き。
「ねえ、今日空いてる?」
「放課後?いーよ」
ほんとうは学友と約束があったけど、そんなことはおくびにも出さず即答する。
あたしにとって、優先事項はいつだって彼女だった。
「じゃあ4時ね」
ひらり。スカートをひるがえし、彼女は日常へと向かう。
雑踏に紛れていく後ろ姿を、見えなくなるまで見送った。
陽射しが眩しい。今日も暑くて面倒な一日が始まろうとしている。
彼女と別れた後、いつもなら感じるはずの悲壮感も今はない。
ささやかな約束が今日一日のあたしを支えてくれるから。
最終更新:2013年02月16日 19:55