「Stay Together」/◆BVjx9JFTno




「近いうちに、素晴らしい幸せが訪れます」

占い館での占いは、正直、でたらめだった。
この世界との接点を持ち、そこから人々を不幸に
していけば良いと考えていた。

でも、心の中で、景色は少しだけ見えていた。

それがラビリンスで培われた能力かどうかは解らない。

今、何が見えるのだろう。自分の未来。

水晶玉をイメージする。

目を閉じ、集中する。

私の、未来...


ぼんやりと、見えてくるものがある。

......


日が傾きかかっている。

久しぶりに来た桃園家は、あの頃と全然変わっていない。
もうプリキュアにはなれないが、アカルンが力を残してくれ、
この世界とのつながりを持たせてくれた。

私はラビリンスに戻り、管理国家からの脱却を目指して
建設された学校で、子供に基礎教育をしている。
こちらの世界でいう小学校だ。

管理された子供に自由を教えるのは難しく、
四六時中、色々なことを考え、体験させる必要がある。
あまりの忙しさに、ここ数年、全然帰れていなかった。

今日は久しぶりにみんなの予定が合いそうなので、
家族で集まることになった。
外食にする予定だったが、私の希望で家での食事に
してもらった。

玄関を開けると、お母さんは最高の言葉で出迎えてくれた。

「おかえり、せつなちゃん」
「ただいま、お母さん」

「ラブは?」
「まだレッスンみたい。もうすぐ戻ると思うわ。」

テレビでは夕方の情報番組が流れている。

「さ、それでは中継と明日のお天気です。」
「今日は蒼乃美希ちゃんです。美希ちゃーん」

「はーい。今日は朝から快晴でとっても気持ちよかったですね。
 明日もこの天気、続きそうですよ。それでは、全国の予報です!」

美希はファッションショーで見せる艶やかな表情と、
お菓子のCMで見せるふくれっ面で人気を博し、
テレビへの出演が増えているらしい。


「久しぶりなんだからゆっくりしてて。お茶入れるから」
「せっかくだからこき使ってください、お母さん」

取り込んだ洗濯物をたたみながら、テレビに目をやる。

番組内でトリニティのツアー情報が流れている。
画面の端にラブが見えた。

ラブは本格的にミユキさんに師事し、バックダンサーではあるが
トリニティのツアーに帯同している。
きりっとメイクした顔は凛々しく、目には力があふれている。
ツアー前はレッスンがいっそう厳しくなるらしい。

タンスに洗濯物をしまい、2階に上がる。

私の部屋のプレートはまだ掛かったまま。

そっと開ける。

私が居た時のまま、その空間はあった。
こまめに掃除してくれているようで、
埃はまったく積もっていない。


ベッドに腰掛ける。

ラブと、ここで色んな話をした。
ちょっと、喧嘩もした。
すぐ、仲直りした。

一緒に笑い、一緒に泣いて、成長した。


玄関で人の気配がする。

「ただいまー」
「おかえり。もうせつなちゃん帰って来てるわよ」

「ホント?せつなー!もう帰ってきてるの!」

テンションが上がった声は変わっていない。
私もたまらずに階段を駆け降りる。

バタッと、人が倒れる音がした。
玄関に出ると、ラブがうつぶせで倒れていた。
「みゅうぅぅぅぅぅぅ」
あわてて靴を脱ごうとして、自分で躓いたらしい。

「ラブったら、そんなにあわてなくてもいいじゃない」
お母さんが苦笑する。

顔を上げたラブは、髪を下ろしたせいか大人っぽく見えた。
私を見て、目が倍以上になったように見えた。

体当たりするように抱き合う。

「せつなー!久しぶりだね!」
「ラブ!会いたかった!」

ラブの声。
ラブの匂い。
ラブのぬくもり。

あの頃と、変わらない。

「ただいまー。おっ!せつなちゃんおかえり!」
追いかけるようにお父さんも帰ってきた。

久しぶりに家族で囲む夕ごはんは、
時間を忘れるようだった。

「やっぱり食卓に4人揃うといいわねぇ」
「もっとたくさん帰ってきてよ、せつなちゃん」
「椅子が1つ空いてると寂しいよね」

家族のぬくもりは、私を救ってくれたあの時のまま。
私の中で息づいている、幸せ。

つい飲み過ぎたお父さんは、早々に寝てしまった。
3人で後片付けを行い、居間で話していると
玄関のベルが鳴った。
ドアを開けると、美希とブッキーが居た。

「美希!ブッキー!」
つい叫び、2人に抱きついてから、
近所迷惑をちょっと後悔した。

「せつなが来るって聞いたんで、飛んで来ちゃった」
「私も、今日はお勉強お休みにしちゃった」

美希はさっきテレビで見た格好のまま。
ブッキーは大学の勉強で視力が落ちたのか、
眼鏡をかけている。

4人が集まると話題が尽きることはなく、
明け方までおしゃべりが続いた。
みんな大人になったが、笑顔はあの時のまま。

「みんなで、また踊ってみようよ!」
「ラブちゃんは現役だからいいけど、私達ついていけないよ」
「ブッキー、あたしとこっそり昨日練習したじゃん」

何だかんだ言う割に、みんな乗り気だ。
自然に、あの時の順番で並ぶ。

「じゃあ、美希たん、ブッキー、せつな、いくよ!」

......

目を開けた。

はっきりと解った。

「近いうちに、素晴らしい幸せが訪れます」

あの時ラブに言った言葉は、
そのまま、私の願いだった。

その時はまったく気づかなかったが、
私の心の奥底に見えていた景色は、

ラブの笑顔。
その笑顔と共に笑う、私の笑顔。


今、見えた映像も、私の願い。

みんながそれぞれの夢に向かって歩く。
でも、みんなとの絆は、変わらない。

いつまでも、変わらない。
ずっと、一緒。
最終更新:2013年02月16日 19:43