「告解:Confession」/◆BVjx9JFTno




寝室には3人の寝息が響いていた。

2段ベッドの上にラブが寝ている。
私は下。

もう1つの2段ベッドには
美希とブッキーが寝ている。

今日は合宿初日で練習もハードだったし、ナケワメーケとの
闘いもあり、3人とも夕食後は倒れ込むように寝てしまった。

私は、まだ眠っていない。
みんなが眠るのを待っていた。

ゆっくりと体を起こし、静かに寝室を出る。


      【告解:Confession】


大切な友達、ラブ、美希、ブッキーと共に
ダンスが出来たら、どんなに楽しいだろう。


でも、


あの人にしてきた罪が

重く、のしかかる。


公園で紹介されたときも

私は顔を見ることができなかった。



今、伝えなければ。

今、謝らなければ。


ブッキーからもらったのは、
ダンスを始める勇気だけじゃない。

罪と向かい合う勇気。

レッスンスタジオには、まだ電気がついていた。
ドアを開ける。

ミユキさんが1人でストレッチをしていた。

「あら、せつなちゃん。どうしたの?」

「...ちょっと...お話しできますか...?」


膝が震える。


それに気づいたのか、
ミユキさんは汗を拭いてから立ち上がる。

「...外、出よっか...」


バルコニーには、弱い風が吹いている。
波は低く、静かにさざめいている。


「せつなちゃん、ダンスやる気になったんだって?」

「...」

「みんな大喜びだったわぁ。
 私の4人アレンジ、最高だから頑張ってね」


「...ミユキさん...」

「ん?」

海に向かって軽く伸びをしているミユキさんに向かって
切り出す。


「...私は...ミユキさんにひどいことをしました。」

鮮明に思い出す。

 『あの子たちの夢を、邪魔させない!』
 『邪魔なのはお前の方だ!』


「私は...ラビリンスのイースという兵士でした...」


ミユキさんは海を向いてバルコニーの手すりに手を置いたまま、
微動だにしない。


「ダンス大会やコンサートを潰したのは...私です...」

「...謝ってすむことじゃないですけど...本当にすみませんでした...」


頭を下げる。
ただ、下げる。


ミユキさんが私を罵りたければ、どんな罵声でも受ける。

ミユキさんが私を殴りたければ、気が済むまで打たれる。

ミユキさんが私を排除するなら...それを甘んじて受ける。


それほど、ひどいことをした。

下げている頭を、両手で挟まれた。
ぐいっと持ち上げられる。

目の前にミユキさんの顔があった。


その目に宿る光は、凛とした、まっすぐな光。
プロで鍛え上げられたのだろう、芯のある光。


「今ここにいるのは、みんなの笑顔を奪っていたラビリンスのイース?
 それとも、みんなの幸せを守るキュアパッションのせつなちゃん?」

「...せつな...です」


「じゃあOK!許します。おしまい。」

ミユキさんが笑顔で私の頭を軽くポンと叩く。


「えっ...」


膝の力が抜けて、その場にへたりこんだ。


「知ってたよ。イースだったってこと」

ミユキさんも座り、空を見ながら話し始めた。

「昨日の夜、ラブちゃん、美希ちゃん、祈里ちゃんがうちに来たの。
せつなちゃんを許してあげて欲しいって。」


「みんなが...?」


ミユキさんの横顔を見る。


「最初は私も、コンサートをめちゃめちゃにしたのが、
 イースだった頃のせつなちゃんだったと聞いて
 複雑な気持ちになったわ。」


「でも、いろんな話を聞いた。
 自分も怪物に苦しめられながら闘っていたこと、
 使命のために心を殺していたこと、
 寿命が切られたこと、
 生まれ変わったこと、
 今も、苦しんでいること...


 きっと思い出したんでしょうね、ラブちゃんも祈里ちゃんも、
 美希ちゃんまで泣きながら話してくれた...。

 私たちの大切な仲間です、って...」


みんなの思いが、心にゆっくりと染みこむ。

また視界がにじむ。

ミユキさんが私の方を向き、まっすぐに見つめてくる。

「よく話してくれたわね。」

「えっ...」

「私もプロの現場でやっていて、色々と迷惑かけたり
 失敗したり、時には人を傷つけたりってこと、たくさんある。

 その時に大事なのは、自分の過ちに向き合って、
 ちゃんとケリを付けることなの。

 とても怖くて、難しいことだけど...
 隠したままだと、絶対にうまくいかないの。

 せつなちゃんは、過去の自分にちゃんと向き合ってる。
 私は、それで充分。

 それに...

 ラブちゃん、美希ちゃん、祈里ちゃんが信じていて...
 アカルンが選んだせつなちゃんですもの。

 私、信じるよ。」


笑ったミユキさんの顔に、一瞬だけ
寂しそうな顔が浮かんだような気がした。



「そうだよね、みんな!」

ミユキさんが大きな声を上げたので、驚いて
声の届く先に目をやると、バルコニーの角で
ビクッと動く影があった。


「やはー、ばれてたか」

ラブ、美希、ブッキーがそろりと姿を現す。

「何か気になってさ...よかったね、せつな」


みんなを見て。また視界が激しくにじむ。

「みんな...!」


押し寄せる感情に耐えられず、3人に飛び込んで
声を上げて泣いた。

「よかったね。」
「本当によかった...」

ラブも、美希も、ブッキーも涙声だ。


「さあ、今日はもう寝ましょう。
 明日からびしびし鍛えるから、覚悟してね!」

「はい!」


その夜はベッドから布団を引っ張り出し、
寝室の床に並べ、みんなでくっついて眠った。




朝日が昇ってきた。

不安定な足場を駆ける訓練をしていたことが役に立っているのか、
砂浜のランニングはあまり苦にならない。

振り返ると、美希が少し遅れて走っている。
ラブとブッキーはそのさらに後方。
走っているのかよろけているのか解らない。

「せつなちゃん、基礎体力あるね」
横でミユキさんが走りながら話す。

「あたしが一番完璧と思っていたのに...」
「待ってくでぇぇ」
「もう走れませぇぇん」

後ろからの声を聞いて、ミユキさんと私は
声をあげて笑った。

「ほらー、気合い入れなさい!
 そんな調子だとダンスもせつなちゃんに追い越されちゃうわよ!」

「ふえぇぃ」

今日から、私の本当のダンス合宿が始まる。
最終更新:2013年02月16日 19:44