「いらない力」/SABI




―――――Miki Side―――――


アタシ達はこの世界のことをよく知らないせつなの為に、
休日を利用し、いろんなところに連れて行っている。


今回はブッキーの発案で、動物園に行くことになっていた。



待ち合わせ場所につくと、ブッキー一人の姿しか見えない。


ブッキーはこちらに気付いたようで、アタシに手を振ってくる。


「おはよう、美希ちゃん」
「おはよう、ブッキー、あれラブ達は?」


「うん、さっきラブちゃんから、
せつなちゃんが熱を出して寝ているから、ついててあげたいって。
ブッキー楽しみにしてたのに、ゴメンって電話が」


「そっか。じゃアタシ達二人だけだけど、行こっか」
「うん!!」


ブッキーは楽しそうに大きくうなずく。


アタシ達は動物園に向かって歩き出した。




休日の動物園はたくさんの家族連れやカップルで賑わっていた。


ブッキーは動物園に入るなり、案内板を見て、
「美希ちゃん、こっちから見ようよー」
「やっぱり、象さんは外せないし・・」
と言って、まるで、子供のようにはしゃいでいる。



しかし、しばらくして・・


弾むような足取りも、だんだん重くなり、
楽しそうだった顔も強張ったものになり、心なしか顔色も悪い。



「ブッキー、ちょっとこっちのベンチで休もう」


と、アタシは驚いているブッキーを無理やりベンチに座らせる。






しばらくお互い無言だったが、
ブッキーは俯いたまま、重い口を開く。


「美希ちゃん、私ね、子供のころ・・・、
お父さんとお母さんに連れられて動物園に行くのが大好きだったの」


「うん」


「だから、せつなちゃんに・・」


と言って、言葉をつまらせる。



だから、せつなにも動物園に来て、幸せになってもらいたかったのね。



「でも、さっきキルンを使って・・」



でも、キルンを使って動物の声を聞いたら、悲しくなったのね。



「ブッキー、行こう」
「え、美希ちゃん・・」


アタシはブッキーの手を取り、強引に引っ張っていく。
動物園の出口まで来ても、足取りをゆるめないアタシに、
いままでされるがままだったブッキーは、
我にかえったかのように、繋いでいた手を離す。



「美希ちゃん、入ったばっかりなのに・・」


「だって、ブッキーがそんな顔をしていたら、アタシだって楽しくない」


と言って、再びブッキーの手を取り、手を繋ぎながら歩き出す。



『アタシはここにいるよ』
『ブッキーの気のすむまでこうしてあげる』


アタシの口にしない問いかけに、


『ありがとう』


と答えるかのように、ぎゅっとアタシの手を握り返してくる。



動物園を後にするアタシ達の背後から、動物の鳴き声が聞こえてくる。
それは、まるで悲鳴のように思えた。




―――――Inori Side―――――



キルンの力を使い動物達の声を聞いたわたしは、
気分が悪くなり早々に動物園から出た。


美希ちゃんに手を引かれて歩いているわたしの姿は、
親に手を引かれるちいさな子のようで、冷静に考えると、かなり恥ずかしい。


「美希ちゃん、ごめん、手を離して」
わたしは急に恥ずかしくなって、慌てて手を離す。


「ブッキー、大丈夫?」
「うん、もうへいき」


「じゃあ、アタシは飲み物でも買ってくるから、ブッキーはここで座ってて」
とベンチを指差し、駅の方へ歩き出す。


それから何分たっても、美希ちゃんは戻ってこない。
本当に迷子になったように、心細い。


『美希ちゃん、早く戻ってきて』というわたしの願いは口に出ていたのか、
「うん、何。ブッキー」


美希ちゃんが後ろに立っていた。


「ブッキーを驚かせようと思ったんだけど、泣いているみたいだったから」


美希ちゃんの声がだんだん下に降りてくる。


「こうやってぎゅうっと抱きしめられると安心するでしょ」


美希ちゃんのアロマの香り、首筋には美希ちゃんのサラサラの髪の毛の感触。
肩には美希ちゃんの吐息が、背中には美希ちゃんのぬくもりを感じる。


わたしの全身が美希ちゃんに包み込まれる、そんな感じがする。


でもね、美希ちゃん。
安心するというより、ドキドキするよ。



最終更新:2013年02月16日 17:51