「pieces」/◆BVjx9JFTno




ダンスレッスンに、
今日も美希ちゃんは来ていない。


ここのところ、撮影が目白押しで
美希ちゃんは忙しそう。
週末は泊まりがけでロケだって。


先月の雑誌にも、美希ちゃんが
たくさん載っていた。


アウトドア特集での爽やかな笑顔。
乗馬体験での、おっかなびっくりな顔。
大人っぽいドレスを着て、すました顔。


どの美希ちゃんも、とても魅力的。



写真を見ていると、ふっと不安になる。


私を好きって言ってくれたけど、
美希ちゃんは、華やかな世界で生きてる人。


雑誌の写真だって、男のモデルさんに
ご飯食べさせたり、みんなで肩を組んで
にっこり笑っている表情が、とても自然で。


こんな人たちが居るところなら、
出会いだってたくさんあって、そのうち...。



胸元の飾りに、手を触れる。


ちょっと背伸びしたアクセサリーショップで
美希ちゃんと一緒に買ったネックレス。


勾玉のような、ゆるいカーブを描いた
小さな銀色の飾りがついている。


美希ちゃんと選んだとき、一緒に
指さしたのが、これだった。


ひんやりした感触が、心地良い。


私にとっては、一番大切な宝物。


でも、美希ちゃんにとっては、
たくさんある大事な物のなかの、
ひとつなのかな。





最新号のファッション雑誌が発売されていた。
公園の端にあるベンチに座り、ページを開く。



「あっ...」
私は思わず声をあげた。



『人気モデルの私服紹介!
 今月は、人気モデル蒼乃美希ちゃんの
 普段着を紹介しちゃうぞ!』



...............................


アタシ、私服だって完璧に決めてるの。


モデルは家を一歩出たら、絶えず見られることを
意識しないとネ。


アクセサリーのポイントは、
胸元のネックレス。


かわいいでしょ。
大切な人とおそろいなの。


え、彼氏?それはナイショ!


...............................



人差し指を唇に当て、いたずらっぽい
笑みを浮かべている美希ちゃん。


胸元には、私と一緒に買ったネックレス。





嬉しさと、会えない切なさが混じって、
つい、美希ちゃんの写真にキスしていた。


「何やってんの?」


突然後ろから声をかけられ、
私は飛び上がった。



「みみみみみ美希ちゃん!!!」


「やだ、どうしたの?祈里」


「いや、なな、なんでもないよ。
 ちょっと写真にキス...いや、違っ...」


美希ちゃんがクスクス笑い、
私の肩に両手をのせ、後ろから
雑誌を覗き込んだ。


「あ、これね」


フレグランスが、ふわっと香る。
美希ちゃんの、匂い。


「最近祈里に会えてなかったから
 ちょっと私的にページ使っちゃった」



舌をペロっと出した美希ちゃんは
遠い人じゃなかった。



私のとっても近くにいる、大切な人。






「えええ...えっと...」
「ん?」


「...ありがとう...」
「うふふっ、顔真っ赤だよ」


美希ちゃんが自分のネックレスを差し出す。


美希ちゃんのネックレスには、
同じ銀色の飾り。


私のとは、向きが逆。


私のネックレスの飾りを、
美希ちゃんの飾りに合わせる。


流れるような、ハートの形になった。


「いつも、一緒」
「うん」



視界が、雑誌で遮られた。


美希ちゃんの方を向いた瞬間、
唇が重ねられた。


雑誌で隠れて、公園の人たちからは
多分、見えない。


「祈里が、一番だからね」


唇を離し、美希ちゃんがささやく。


私の心が、読めるんだろうか。
美希ちゃんの大胆な行動に、
私はもうすっかり骨抜き。



「今日は撮影で使った衣装借りてきたの。
 これからうちで祈里のファッションショーやるよ!」


「ええ...似合うかな、私」
「大丈夫!祈里に完璧に似合うのを選んだから」



手を繋いだ私たちは、美希ちゃんの家に
向かって走りだした。



ずっと、この幸せが続くといいな。
最終更新:2013年02月16日 17:17