「ゆうだち」/SABI




学校からの帰り、私は一人で歩いていた。
いつもはラブと一緒に帰るのだけど、今日は一人。
昨日、今となってはつまらない喧嘩をして、今朝も別々に登校して、
学校でも席は隣というのに、昨日の夜から一言も口をきいていない。



突然、遠雷がしたと思ったら、空が真っ暗になり、大粒の雨が降り出した。
朝の天気予報では降水確率が低かったから、傘は持ってきていない。
空を見上げると、雨はだんだん激しくなり、すぐに晴れそうにもない。
家まではそう遠くではないけど、今の状態で走って帰れば、
服はおろか鞄の中身まで、びしょ濡れになってしまうだろう。


近くに、シャッターが下りたお店があって、軒が深いから雨宿りに適している。
閉店して今は誰も住んでいないから、気兼ねすることもない。
びしょびしょに濡れながら走って、その場所まで辿りつくと、先客がいた。



ラブは私の姿に気付くと、顔を背けて私の方を見ないようにしている。
私はラブのいる反対側の端の、雨に濡れないぎりぎりの所に立った。


会話は全くなく、非常に気まずい。
ラブが何か話してくれれば、私も話すのに。
何か話そうと言葉を頭に浮かべても、宙に消えていく。


雨足はますます強くなって、しばらく止みそうもない。
その上、遠くに聞こえていた雷がこちらに近づいてきたらしく、
ピカッと稲光が走った後、大きな雷鳴が響く。
光と音の間隔が短いから、かなり近くで落雷があったみたいだ。


ラブの方を見ると、軒先の真ん中にしゃがみ込み、頭を押さえている。
雷の音がする度、ラブの身体が慄く。


「雷が怖い?」


私の顔を見てからかっていないと分かったのだろう。
ラブが「うん」と小さく頷いて返事をした。


「じゃあ、私が手を繋いであげる」


手を差し出すと、ラブが私の手を握ってくる。
ラブの手は震えていて、私も握り返した。震えが止まるように。


どのくらいそうしていたのか。
気がつくと、日差しが戻り、雨足が弱まっていた。


「雨、上がったね」
「うん、上がった」


雨が止んで、もう雷の心配もないのだけど、どちらも繋いだ手を解こうとはせず。


「家に帰ろっか」
「うん」


私達は手を繋ぎながら、雨だまりが出来た道を歩き出した。




最終更新:2013年02月16日 16:52