【秘蜜のチョコフォンデュ】/恵千果◆EeRc0idolE




 夢うつつのなか、微かにドアを開ける音がした。
 ひたひたと廊下を歩く足音が、あたしの部屋の前で止まる。
 あたしは耳を澄ませた。頭が冴えはじめる。


 カチャリ。
 わずかな金属音を響かせ、部屋のドアがそっと開かれた。
 あたしは無意識に寝たふりをする。
 足音の主は、あたしの毛布の中にするりと忍び込む。
 胸。太腿。お尻……。
 身体を密着させてくるせつなは、まるで甘えん坊の子猫ちゃん。
 つい意地悪したくなり、あたしは寝たふりを続ける。
 そんなあたしに我慢できず、子猫は小さくささやいた。


「ら……ぶ……」


「ん……?」


 片目をこすり、起こされたことを演出する。


「わたし……もう……」


 彼女はあたしの腕をつかみ、自分の胸元へといざなう。
 パジャマの上からでもわかる素肌の感触。
 きっと下には何もつけていない。


 促されるまま、胸の真上のボタンを外した。
 その隙間から、ゆっくりと手を侵入させていく。
 熱くなったなめらかな素肌を、やわやわと撫で回す。
 あたしの冷たい指が、せつなの硬く尖った先端を掠める。
 その瞬間、彼女は声にならない声をあげた。


「今夜はどうしてほしいの?」


 前をはだけながら問いかけるあたしに、けれど彼女は答えられず、ただ吐息をもらすだけ。


「言わないなら……知らないよ。あんなことやこんなこともしちゃうよ?」


 それでも彼女は答えない。次々に舞い降りる快感に夢中になっているみたい。




 そうだ。昼間使いきれず残った余りが、まだまだいっぱいあったはず。


 悪戯を思いついたあたしはベッドから離れた。
 机の引き出しから、未開封のある物を取り出す。


 せつなの露わな胸元に、その中身を垂らしてゆく。
 くるくると円を描きながら、胸の頂きを囲む。


「んっ……やっ、なに?」


 胸元に降り注ぐ突然の冷たさが、心地よさに蕩けそうな彼女を目覚めさせた。


「せつなったら、話せるんじゃない」


 あたしは舌を這わせて、それを味わう。
 頂点に向かって、丁寧に舐めあげる。
 けれど、突起には決して触れず、舐めるのはまわりだけ。


「ふぁあああっ!」


「んふ……あまーい……せつなチョコ」


「……チョコペン?」


「正解。じゃあ……ご褒美」


 白いチョコペンを、桃色に色づいたふたつの蕾を隠すようにかけてゆく。
 雪に埋まった蕾を舌で丁寧に掘り起こす。
 あたしの舌の動きに呼応するように、せつなの肢体はびくんびくんと震えた。
 脚をやや開いて、待ち遠しそうに膝をくねらせている。


「暑そうだね……。脱がしてあげる」


 せつなのパジャマの下を性急に脱がせる。
 彼女が身につけていたのは、黒いレースの小さなショーツ。
 その中心は、薄墨を引いたようにじんわりと滲んでいた。




「綺麗なレース……汚すの気が引けちゃうな。
 だけど、同じ黒だから……いいよね?」


 答える隙を与えず、あたしは股布を横にずらした。
 秘唇を開いて、今度は黒のチョコペンを垂らしていく。
 チョコの侵入を邪魔するみたいに、とろとろの蜜が次から次へと溢れ出す。
 そのせいで、まんべんなくチョコをまぶすのに、少し苦労した。


「食べるよ」


 唾液をたっぷり絡めてかぶりつく。舌先を尖らせ、つつき、くにくにと押し、ねぶった。
 黒い海の中から、いとも簡単に顔を覗かせる、真っ赤に充血した彼女の淫核。


「んんっ……ふ……はぁっ……」


「こんなに美味しいチョコレート、初めてだよ」


 刺激を加えるたびにどんどん甘くなるせつなの声に、あたしは満足する。
 すべて舐めとったはずなのに、甘露があとからあとから零れ落ちて舌を濡らすから、甘さが一向に落ち着かない。


 その蜜をすくい上げること数分、せつなの声色がむせび泣きに変化した。


「あっあっ、い……く……ラブ、好きぃっ、……あん、すきぃ、ラブ、好き、大好き!あああああっ!」


 せつなは最後の矯声を漏らす。
 張りつめこわばっていた四肢は、ゆるゆるとほどけて、シーツに溶け落ちた。




「どうだった?チョコになった気分は」


「……最高よ」


 あたしは顔中チョコだらけ。
 そんなあたしに、せつなは長いキスをくれた。


「せつなの顔も汚れちゃうよ?」


「いいの……今度はわたしの番」


 何もかもチョコまみれ。下着も、シーツも。あたしも、せつなも。
 だけど、こんなバレンタインも、たまにはいいでしょ?


最終更新:2013年02月16日 14:28