【終わらない夢のなかで】/恵千果◆EeRc0idolE R18




 わたしは夢をみていた。


 近頃の夢の中にはいつも桃色の戦士が出てくる。そしてあれは彼女の仮初めの姿だ。
 変身を解除した彼女――――それが桃園ラブ。桃色の戦士キュアピーチの本来の姿。


「せつな!」


 ラブは、身体を擦り寄せてくる。わたしはせつなじゃないのに。


「せつな?」


 その名前で呼ぶな!お願いだ……。
 本当のわたしの名は、イース。
 ラブ、わたしはイースとしてお前と出会いたかった。イースとしてお前と友達になりたかった。イースとして、お前と……。


 夢の中だからなのか、わたしの強い気持ちが通じたと見えて、ラブは素直に名前を呼び変えた。


「イースぅ!」


 強く抱きついてくるラブに戸惑いながらも、嬉しくて抱き締め返す。
 ここなら、この夢の中でなら、素直になれる。自分の気持ちに正直に。


「イース、はい、あーんして」


 いつのまにかラブの手にはドーナツが握られていた。
 恥ずかしいが彼女には逆らえない。


「あ、あーん……」


 もぐもぐ……。噛み締めたドーナツからふくよかな味が広がる。幸せってこういうことなんだろうか。


「美味しい?」
「あ、ああ……」
「じゃあ次はアタシの番だよ!いただきまーす」


 いきなりラブはわたしの唇にキスをした。
 その柔らかい舌で、強く深くえぐられる。
 息ができない。苦しい。なのに何故か、嬉しくて。唇から何かが注ぎ込まれてくるような不思議な感覚。
 みるみる力が抜けていき、代わりに今までに味わったことのない熱い戦慄が駆け抜け、身体の隅々を満たしてゆく。
 ぐったりと、半分溶けたアイスクリームみたいになったわたしを見て、ラブは囁いた。


「イース、可愛いよ……可愛いあなたをもっと見せて……」


 わたしを見つめ、ラブは陶然としている。
 やがて貪るようなキスが再開された。
 食べられている。口づけられながらそう思った。
 ラブになら、いいわ。あげる。わたしのすべてを。




 気づけば戦闘服は消え去っていて、あらわになった胸の膨らみにラブが口づけていた。
 ふたつの頂きを優しく吸ったり、離したり、舐めたり、甘く噛んだり、指で転がして、軽く弾いたり。
 そうされていると、何故だか鼻にかかった甘えるような声が出てしまう。


「イース、もっともっと、いっぱい気持ち良くしてあげるね」


 そんな風に、わたしのために一生懸命になるラブが、何だかとても愛しいと思った。
 彼女によってもたらされた感覚のせいで、息遣いが速く、荒くなってゆく。
 波のようにうねった快感が押し寄せる。その未知の感覚に、身体のすべてが絡め捕られていくようだった。
 胸の尖端を一心に愛撫されながら、強く激しいラブの舌で耳を舐め上げられ、わたしは小さく痙攣した。




「そんなに気持ち良かったの?」


 ぴくぴくと震えるわたしの身体を優しげにさすりながら、ラブは寄り添うように我が身を横たえた。


「疲れた?」
「ううん、なんだかよく、わからない。けど……嫌じゃない」


 それを聞くと、ラブはニコッと微笑んだ。


「じゃあ、続き……する?」


 わたしは黙って頷く。


「もしも嫌なら、やめるよ」


 心配そうに言うラブ。けれどやめてほしくはない。むしろ続けてほしいのだった。
 ラブがしたいのなら、もっとわたしに触れてほしい。そして、未知の世界に連れて行って欲しい。そう心から願っていた。
 わたしは今や、蜘蛛の巣に捕らえられた一匹の羽虫のようだった。
 ぐるりと張り巡らされた巣は、朝露に濡れたようにキラキラと輝いていた。
 その真ん中では、わたしという小さな供物が喜びに胸を震わせている。巣の主に食べられる瞬間を、今か今かと待ち焦がれながら。
 この愛しい蜘蛛になら、わたしは喜んでこの身を捧げるだろう。


「どうする?」
「……して……」
「いいの?これ以上したら……もうあたし止まれないよ」
「止めないで……最後までして。ラブになら、何をされてもいい……」
「好きだよ……イース」


 ラブは口づけをくれた。微力ながらわたしもそれに答える。
 キスに夢中になっているわたしの両脚をラブの片脚がそうっと拡げる。
 膝頭が脚の間に触れ、何かを確認するようにやわやわと撫で回した。


「イースのここ、すごく熱くなってるよ。いっぱいこぼれてる……」


 熱のこもった眼差しで見つめられながら報告を受けると、ますますそこは熱くたぎり、燃えさかるようだった。
 ラブのしなやかな指が、わたしのぬめりに入り込んだ。かき混ぜられ、一枚、もう一枚と拡げられていく。
 やがて、最も敏感な部分に触れられると、自然と身体がよじれ息が乱れた。


「ここ……好き?」


 聞かれても声が出なくて答えられない。
 いや、そうじゃなかった。さっきから声はずっと出続けている。とどまることなく。


「好きだよね……だってこんなに喜んでくれてるもん」


 ラブは嬉しそうに呟いた。
 けれどわたしは、そんな可愛いラブに、つい意地悪をしたくなる。


「好きなのは……そこじゃない」
「じゃあ、どこ?」
「好きなのは、ラブ、お前だ」


 案の定、ラブはもっと嬉しそうな顔になった。




 どこからか水の音がしている。その音は、こんこんと湧き出る泉のように尽きることを知らない。
 濃密な匂いが充満した空間の中、ラブの指の動きが速まっていき、それに呼応して水音も速くなる。
 何度となく腰が跳ねる。きつくつぶった瞳には瞼の肌色が透けて見えていた。
 ああ、何も考えられない。身体ごと跳んでいくようだ。次の瞬間、本当に跳んでいた。




 気づくと、目の前には心配そうなラブがいた。


「だいじょぶ?」
「……ああ……終わったんだな……」
「今夜はこのくらいにしとくね。イースが壊れちゃう」
「……ラブになら何をされてもいいのに。例え壊されたって平気だ」
「そんなのだめ!」
「どうして?」
「だってあたしがイースを幸せにするんだから!」


 見つめ合い、微笑み合う。自然と唇が重なり合い、身体は絡み合う。
 終わらない夜が、明けることなく更けてゆく。




 夢を見ていた。最大の敵にして、最愛の友の夢を。
 彼女を愛し、彼女に愛される。そう。これは、夢。わかっている。
 けれど、夢の中で確かにわたしは幸せだった。




最終更新:2013年02月16日 14:26