【願い星 叶え星】/恵千果◆EeRc0idolE R18




「せつ……な……」


 また、せつなを呼ぶ自分の声で目覚める。
 時々見る、まったく同じ夢。
 せつながあたしから離れて、遠くへ行ってしまう夢。
 それは夢なんかじゃなかった。まごうことのない、現実。
 あたしは確かにそれを受け入れたんだ。
 お互いがんばろうねって、笑いもした。
 けどそれは、ふり。受け入れた、ふり。
 頭では理解していても、心では納得ができないでいる。
 あたしはせつなを想う。夏になった今も、なお。




「ラブ、おはよ」
「おはよ、由美」
「放課後、昨日言ってたケーキ屋さんにみんなで行くの。七夕スペシャルパフェ。ラブも行くでしょ?」
「そうだね」
「蒼乃さんや山吹さんも誘う?」
「どーかな、ふたりとも忙しそうだから」
「そっか、残念だね」


 予鈴を合図に、あたし達は席に着く。
 あたしは授業に没頭する。


 この春、著しく成績が下がって、お母さんは学校から呼び出しを受けた。
 けど、お母さんは何も言わなかった。それが、かえって辛くて、あたしはお母さんに八つ当たりをした。
 そんなあたしに、お母さんは言った。


「ラブ、せっちゃんの所に行きたいなら、構わないのよ」
「えっ……」


 あたしは言葉を失った。


「ラブの気持ちくらいわかるわ。これでもあなたの母親だもの。
 けど、約束して。いつかせっちゃんとまた会える日のために、自分を磨いておいてほしいの。
 あなた達が再会した時、せっちゃんがもっとラブを好きになるように」


 お母さん、ありがと。あたし、ちゃんとするよ。
 いつか、せつなと一緒に居られるようなあたしになるために。


 それからだ。あたしの成績はぐんぐん伸び、気づけば勉強が面白くなっていた。
 せつなと暮らしていた頃の特訓で、基礎は叩き込まれていたらしい。
 両親や先生だけでなく、美希たんやブッキーにも誉められた。


 それでも、相変わらず夢は見た。
 離ればなれになったばかりの頃は、毎晩のように見ていた夢。
 回数こそ減ってはいたが、時々思い出したように定期的に見てしまう。
 まるで彼女の居ない現実を、目の当たりにさせるかのように。




 せつなの夢を見た日は、なかなか寝付けない。
 朝の夢の残滓を引きずるように、ベッドの中で悶々とする。
 せつなの声を、指を、舌を、あたしの身体は痛いくらいに覚えてる。
 今夜もそうだった。


 あたしは、パジャマにそっと触れる。
 せつなのとおそろいの、ピンクのパジャマの中に、優しく手を差し入れた。


 これは、せつなの指。


 胸の突起を転がす。物足りない。唾で指を湿らせ、もう一度つまびいた。


 これは、せつなの舌。


「ふ……」


 愛しい人を思い出し、声がもれる。
 胸への刺激は続けながら、もう片方の手を下着の中に差し入れる。


 熱い潤いを感じ、塗り広げていく。中心に息づいた芯を、中指で左右に押しながら揺さぶる。
 快感が全身に伝わってゆく。


「せつなっ!せつなあっ!」


 何度も腰が跳ね上がり、あたしは果てた。


 せつなを感じ、せつなをなぞる行為に夢中になった。
 だから、気づかなかった。一瞬、赤い光が部屋を満たしたことに。


「はあ……はあ……」


 まだ息の荒いあたしの脚に遠慮がちに触れる、誰かの細い指。
 余韻に震えるあたしに生まれる、驚きと戸惑い。
 その指は、ぴんと突っ張るように伸ばしていたあたしの脚を開く。
 暗闇であたしの中心を探り当て、忍び込む。
 馴染みのある感覚。この感じ、あたしのここは覚えてる。
 愛しい指は、ノックするように抜き差しを繰り返した。


「ううっ、あん!あん!」


 声を押し殺し、啼く。叫ぶ。大きくなる確信。沸き上がる歓喜。こぼれ落ち、シーツに染み込む涙。暗かった世界は、真っ白になった。




 ぐったりしたあたしに、せつなはキスの雨を降らせる。


「帰ってくるなら連絡してよ……」
「恥ずかしいラブの姿を見たかったから」
「もう!」
「ふふ、驚かせた?ごめんなさい。けど連絡はできなくて。何故かメールも電話も繋がらないの。今、原因を調査中」
「今日は休暇?初めてだね、会いに来てくれるの」
「ええ。今日だけは絶対帰るって、行く前から決めてたから。ウエスターやサウラーも呆れてたけど」


 せつなは楽しそうに笑った。
 たくさん話した。せつなの仕事、ラビリンスの様子。
 復興を最優先にするために、リンクルンを鍵のかかる場所にしまいこみ、その鍵をサウラーに管理してもらっていたこと。
 復興が一段落し、いざリンクルンを取り出してみると、電話もメールもできなくなっていた。
 けど、せつなはがんばれた。
 七夕には帰る。あたしに会いに。そう決めていたから。
 そして……。一人寝の夜のこと。あたしを想い、せつなもひとりで苦しんでいたんだ。
 あたし達って、似た者同士なのかな。


「これからもっと忙しくなるの。でも、必ずまた来るわ」
「あたし、せつなが」
「待って。わたしに言わせて。いつか、いつか大人になって、ラブが自由にどこにでも行けるようになったら……ラビリンスに来てほしいの!」
「……」
「返事は?」
「……ずるい」
「何が?」
「あたしが先に言うつもりだったのになー。いつかラビリンスに、せつなの側に行かせてほしいって」
「ラブ……約束よ?」
「もちろん!せつなの側がいい。せつなの側じゃなきゃ、いやなの」


 抱きしめたせつなから、想いがあふれてる。たぶん、あたしからも。
 たとえ住む場所は離れてても、心は離れない。
 誓いの口づけ。七夕の夜に、将来を誓い合う恋人たちのシルエット。
 織姫と彦星も、きっと天の川から見てる。
 あたしはこの夜を、一生忘れない。
最終更新:2013年02月16日 13:33