【長い夜】/恵千果◆EeRc0idolE




 寝る仕度を済ませ、皆におやすみを言って自室に入りベッドにもぐる。 しん、と静まりかえる真っ暗闇の中にいるからだろうか。特に思い出そうとしたわけでもないのに、先程までの賑やかな時間が脳裏をかすめる。
 温かいお料理に舌鼓を打つ家族の面々。笑い声の響き合うリビングルームの真ん中には、輝くクリスマスツリー。
 何もかもが楽しかった。女3人でおしゃべりしながらする後片付けまでもが楽しかった。
 思い出すだけで、自然に笑顔になっている。私の家族。この世にたったひとつの宝物。
 せつなは神を信じない。けれど、今日もこの部屋で、この家で、この家族とともに過ごせたことを、何かに向かって感謝をせずにはいられない。
 ありがとうと心の中でつぶやくせつなの耳に、ふいにコンコンとくぐもった音が聞こえた。ベランダに続く窓を控えめにノックする音だ。
 鍵を外し、カラカラとサッシを開ける。冷たい夜の空気とともに、ラブが入ってきた。


「う〜〜、寒い寒い」


 そう言いながら、せつなのベッドに当たり前のようにもぞもぞともぐり込む。


「またここで寝るの?」


 半ば呆れながら言うのは、喜びを隠すため。


「……ダメ?」
「ダメじゃないけど、サンタクロースのお爺さんがびっくりするわよ」


 冗談で言ったつもりだったのに、空気がピリッと変わるのに気づく。
 暗闇に慣れた目が、ラブの真剣な表情を捉えた。


「要らないよ、プレゼントなんて」
「……ラブ?」
「あたしには、せつなが居れば何も要らない」
「……冷えるからわたしも入るわね」


 照れをごまかすように、ベッドの空いたスペースにもぐると、ラブの身体にピッタリと身を寄せる。
 いつもより息づかいが速くなっているラブの、熱く火照った手をそっと握りしめる。
 夕べあんなに激しく愛されたのだから、また今夜も……と思うと、若干の疲労感がないと言えば嘘になる。
 けれど、愛する人に身も心も満たされる喜びに比べたら、幾晩続こうとも平気だとも思えた。


「今夜は何もしないから、」
「どして?」
「いや……、やっぱりするかも」
「どっちよ」
「せつなが嫌がるなら我慢する」
「嫌がるだなんて……」


 嫌がるそぶりを見せたとしても、それは羞恥心からくるもの。快楽に身を任せる自分が恥ずかしくて……。
 けれど、ラブが与えてくれるものは、いつだってどんなことだって受け止めたい。


「せつな、ありがとう」
「急に、なあに?」
「そばにいてくれて。ホントはね、不安なんだ。抱きしめて寝ないと居なくなっちゃいそうで」
「ずいぶん信用ないのね」
「違うよ。せつなはどこにも行かない。わかってる。だけど……」


 見つめてくるラブの視線に、溶かされそう。
 まだ触れられてさえいないのに、夕べのラブの指を思い出して身体の奥が疼き始める。


「どうしよう……やっぱりしたい」


 耳元で熱っぽく囁くラブの声に、身体中が反応する。
 どんどん膨らむ欲望を脇に押しとどめながら、これだけは言っておかなくてはと、残った理性が声になって出た。


「明日に響かないようにしてね」


 明日は美希とブッキーと合流し、四人でパジャマパーティーの予定があったから。
 けれど、ラブは悪戯っ子のような顔ですかさず答える。


「ごめん、約束出来そうにない」
「ラブったら!」
「嘘だよ」


 クスクスと笑いながら口づけられ、身体中にキスを落とされる。
 我慢なんて出来るはずないの、わかってるくせに。そう思うせつなですら、もう我慢はできそうにない。
 重なり合い混じり合うふたつの影。聖夜の長い夜は、たった今始まりを告げたばかりだった。
最終更新:2013年02月16日 13:17