【確かな光】/恵千果◆EeRc0idolE




 この世界に、自分よりもずっとずっと大切な人がいる。それは、どれ程すごいことなんだろう。
 そんな人に出会えたわたしは、なんて幸せなんだろう。




 朝の光がカーテンの隙間からこぼれ落ちて、わたしを優しく起こした。
 薄暗い館での生活が長かったせいでまだ慣れないけれど、陽光の眩しさが嬉しいと思える。
 けれどまた、そんな風に感じる自分にも戸惑いを覚える。
 相反する感情の動きに立ちすくみ、ベッドの中で身動きが取れずにいた。


 コンコンコン。ノックが3つ。ラブだ。


「はい」
「おはようせつな。もう起きてたんだ」
「ついさっき起きたところよ」


 眩しい。ラブの笑顔からも柔らかな光がもれてくるよう。
 あなたって、まるで太陽みたい。


「ゆっくり眠れた?」
「ええ、ぐっすり。夢を見なかったのは久しぶりよ」
「夢?せつなはどんな夢をよく見るの?」
「……内緒。言わないわ」
「えー!せつなのケチー!教えてよ。あたしの夢も教えてあげるから」
「だめ」
「なんで!」
「……恥ずかしいから」


 言えないわ。だって、あなたの夢なんだもの。
 いつだって、夢に出て来るのは、あなたとわたしが楽しく過ごす場面ばかり。
 おしゃべりをしたり、ドーナツを食べたり、買い物をしたり。
 あまりにも楽しくて、目が醒めた時、目醒めたことを後悔して酷く虚しくなるほどに。


 急に黙り込んだわたしのすぐそばに腰をかけて、ラブは口を開いた。


「せつな、あたし……起きた時にね。全部夢だったらどうしようかと思ったの。せつながちゃんと居てくれるか、急に不安になっちゃって……。
 でもドアをノックして、せつなの声がして。姿が見えて。すごく嬉しかった」
「ラブ……。わたしもまだ、夢の中にいるのかしら。ラブの家にいて、ラブの隣の部屋で眠れて、それから……ラブが起こしに来てくれて。これが夢なら醒めなければいいのに」
「夢なんかじゃないよ!せつなはこれからこの家で、たくさんたくさんやることがあるの」
「なあに?何をすればいいの?」
「楽しいことをだよ!あたしと暮らしながら、楽しいことをたっくさん!」
「楽しい……こと……たくさん……」
「そう!楽しみにしててね!」


 いきなり、むぎゅっと強く抱き締められた。


「夢じゃない……ホンモノのせつなだ……」
「ラブ……」


 ラブの息づかいが耳元にかかり、こそばゆい。
 わたしも怖ず怖ずとラブの背中に腕をまわす。 強い力でしがみつくラブの背中をあやすようにそっと撫でると、強張っていたラブの身体から少しずつ力が抜けてゆく。


「……よろしくお願いします」
「そんな言い方、他人行儀だよ!」
「そうかしら」
「だってあたしたち、今日から家族なんだから!」


 家族。生まれて初めてできた、わたしの家族。この世で一番大切な人が、今、わたしを家族にしてくれた。
 目頭が熱くなり、視界がぼやける。わたしの眼からこぼれ落ちた雫をラブは指で拭うと、そのまま口元へ運び、ぺろりと舐めた。


「しょっぱいね」
「ラブったら!」
「だってもったいないもん。せつなの涙」
「どして?」
「だってキラキラしてる」


 キラキラしてるのはあなたよ、ラブ。こんなに眩しくわたしを照らしてる。
 その確かな煌めきで、わたしの未来を明るく射し示してくれている。
 あなたはわたしの光。今までも、これからも。
最終更新:2013年02月16日 12:47