【ただいま】/恵千果◆EeRc0idolE




「ただいまー」
「お帰りなさいラブ!」


 あゆみに頼まれて、お使いに行っていたラブが帰宅した。帰って来るなり、こたつに潜り込む。


「外スッゴク寒かったー!ああ~ぬくぬくする~。やっぱりおこたって最高!幸せゲットだよ!」


 こたつに肩まで潜ったラブの頬に、少しずつ赤みがさしてきた。外は相当寒かったのだろう。
 あゆみを手伝い夕食を作っていたせつなは、そんなラブの様子に気が気でない。


「お母さん、ラブったらあんなに寒がって…風邪引かないかしら?何か温かい飲み物でも飲ませた方がいい?」


「ふふふっ」


 堪えきれずにあゆみが笑い出す。


「お、お母さん!何で笑うの?私何か変なこと言った?」


「ごめんごめん、だってね…ラブを心配し過ぎて、焦ってるせっちゃんがあんまり可愛いんですもの」


「もう、お母さんったら!」


 頬をプウッと膨らませて、せつなは怒る。否、正確には怒った“フリ”をする。
 本当は怒ってなどいないのだから。今ではじゃれ合ったり出来るくらい、本当の親子のように接することが自然になったふたり。
 こたつに潜りながら、そんなふたりを微笑ましく思い、ラブは思わず嬉し笑いを漏らす。


「くふふっ」


「ああっ!ラブまで笑ったわね!」


「しまったー、ごめんせつな!」


 慌ててこたつの中に潜り込むラブ。
 しかし、せつながそれを見逃す訳もなく。


「コラ!逃げるなんて卑怯よ!出て来なさい!」


「いやー許してー!お母さん助けてー!」


 こたつから這い出したラブを羽交い締めにするせつな。何を思いついたのかニヤリと笑い、ラブの脇腹に手を伸ばし、おもむろにくすぐり始めた。


「ごめんって!せつな!許してってば、ぶっは!わはは!やめ!くすぐったい!ギブ!ギブ!」


「はい、せっちゃんの勝ち。ふたりとも御飯よ。ラブは手洗った?うがいもまだでしょ。はい、くすぐったせっちゃんも一緒に、洗面所へレッツゴー!急いでね」


「はーい」





 あゆみに言われた通りに素直に洗面所に行き、手洗い、うがいをするふたり。


「さ、出来た。行きましょラブ」


 せつながラブの手を握り、ダイニングキッチンへと誘うが、ラブはそんな彼女の手を強く引っ張り返して抱きしめる。


「ラブ?」


「まだしてもらってないよ…お帰りなさいのキス」


 耳元で甘い声で囁かれ、みるみる顔が赤くなるせつな。


「だって…お母さんの前じゃ出来ないでしょ?」


「だったら…今してよ」


「んもぅ…ラブったらしょうがないんだから」


 ちゅっ。軽く口づける。


「さ、お母さんが待って…んん!」


 身体が熱くなる。奥から奥から熱が溢れ出し、頭の芯が痺れ、何も考えられなくなり、そして…唇が離された。


「さ、お母さんが待ってるから行こうね、せつな!」


「……そんなキスするなんてズルい!」


「……欲しくなっちゃった?」


 意地悪な質問だが、せつなは頷くことしかできない。
 そんなせつなを、ラブもまた欲しがっている。


「わかってる。今夜行くから……開けといてね、ベランダの鍵」


「きっとよ……」


 答えるかわりに、ラブはもう一度強く口づける。


「ふたりともーお味噌汁冷めちゃうわよー」


「はーーーい。―――行こ」


「うん」


 恋人にしか見せない表情を脱ぎ捨てると、ふたりは甘い空気が漂ったままの洗面所を後にした。
 真夜中の逢瀬に、心を躍らせながら。



会話9は、その後の美希とせつなの会話です
最終更新:2013年02月16日 12:19