【コタツムリ】/恵千果◆EeRc0idolE




木枯らしが肌を掠め、ヒリヒリとした寒さを感じる日々がやって来た。


「今日は寒いね~」
「そうね、昨日よりも寒くなって来た気がするわ」


ラブとせつなは、学校帰りの道を歩いていた。


「こんな寒い日はアレに入りたくなるなあ~」
「…アレ?アレってなぁに?」
「ふっふっふ。帰ってからのお楽しみ!今日辺り、お母さん、出してる気がするんだ」
「何よ、ラブったら!勿体つけずに教えなさいよ!」
「秘密、ヒミツ~」
「コラ!待ちなさい」
「待たないよ~っだ」


 *****


「お母さんただいま~」
「お帰りなさい!ちょうど良かった。貴女たち、ちょっと居間に来て見て!」
出迎えたあゆみが、嬉しそうにふたりを居間に連れていく。
そこには、朝とは違う風景が拡がっていた。


「わあ~やったあ!」


喜んでいるラブに対し、せつなの顔はキョトンとしていたのだが、初めて見るモノへの好奇心も少しずつ湧いてくる。


なぁにコレ。まるで、布団とテーブルを足したような…





「これはね、コタツっていうんだよ!」
「コタツ…?」


せつなは怖ず怖ずと近づき、そっと触れてみる。
昼間あゆみによって天日に干された布団は、ふかふかでお日様のにおいがした。


そっと布団をめくってみる。
ほわあん…
コタツの中から、温められた空気が洩れ、せつなの頬をくすぐる。


「こうやって使うんだよ」


ラブが布団の中に脚を入れる。


それを見て、せつなも同じようにしてみると、なんともいえず脚が温かい。


「コタツって…素敵なモノなのね」
「でしょ?幸せゲットだよ!」


破顔したラブにつられて、せつなまで笑顔になる。
こうしてせつなは、初めての秋に、コタツと出会ったのだった。


 *****


「夕御飯出来たわよー…ありゃ、ふたりとも寝ちゃってる。やれやれ、まったくしょうがないわね」


居間には、コタツに首まで入り込み、寄り添うように眠るふたりの姿があった。


「ただいま~。おっ!今年はうちのコタツムリは二匹に増えたな!」


「そうね」


眠るふたりを、微笑みながら見守る桃園夫婦。
窓の外には中に入れない木枯らしが、枯れ葉をいつまでも舞い踊らせていた。
最終更新:2013年02月16日 11:50