【異分子】/恵千果◆EeRc0idolE




「せつなちゃーん、ちょっと洗濯もの取り込んでくれないかしら」
「はーい、お母さん」
そう答えながら、私は読みかけの本を置いて立ち上がり、自室を出て階下へと降りる。


私がラブの家にお世話になり始めてから、ずいぶんたった。ラブはいそいそと私のことを構ってくれるし、お母さんやお父さんは娘の様に優しく接してくれている。相変わらずの日々。


でも、こんなにも穏やかな日常のなかで、ふとした拍子に浮かび上がる感情がある。波のない凪いだ海が急に時化た時のような…これが不安というものなのだろうか。


「せつなぁ」
名前を呼ばれて、洗濯ものをたたんでいた手が止まる。
笑顔のラブがリビングに入って来て、横に座る。たたむのを手伝いながら、こう切り出した。


「せつな、どうかした?」
「…かなわないわね、ラブには。隠したっていつもお見通しなんだから」
ラブはまっすぐに私を見つめている。
「何考えてたの?」


ラブに不安を吐き出すのは心苦しいけれど、ラブだからこそ、言えるのかもしれない。
「私ね、今とっても幸せなの。でも、幸せ過ぎて時々不安になるみたい。
時々ね、まだ全然この世界に馴染めてないって感じる瞬間があって、すごく怖くなるの…。
この世界から受け入れられていないんじゃないかって。ねぇラブ、私、本当にここにいていいの?」


「当たり前じゃない!」ラブは声を荒げた。
「せつな、アタシの家族や美希タンやブッキーはちゃんとせつなを受け入れてる。それに…」
ラブの両腕が伸ばされ、強く抱きしめられた。ラブの温もりが私を包む。
「例えこの世界がせつなを受け入れなくても、アタシがせつなの居場所になるから」


「ラブ…ありがと」
嬉しかった。さっきまでの漠然とした不安を、ラブの言葉が消し去ってくれたみたい。
「やだなぁー泣かないでよ、せつな。アタシ、せつなの笑った顔が大好きなんだから」
「私もなりたい、私もラブの居場所になりたい」
「…もうなってるよ」
ラブは照れながら、そっとキスをくれた。
最終更新:2013年02月16日 11:39