二人ぼっちのクリスマスイブ~たまには、こんな聖なる夜~/一路◆51rtpjrRzY




 照明を落とし、キャンドルを灯した薄暗い部屋の隅には、色とりどりのオーナメントに飾り立てられた小さなツリー。
 いちごと生クリームでデコレーションされたケーキを中央に、テーブルの上にはチキンやジュース、それとノンアルコールのシャンパンが置かれて、お揃いのグラスが二つ。
 それを手に取り、お互いにちょっと傾け、縁をカチン!と合わせて、乾杯。
 今この部屋にはあたし達二人だけ……そう、こう言ってしまえば理想に描いた通りなのよ……ロマンチックこの上ないものね。
 ただ一つだけ、問題なのは――……。
 あたしの気持ちも知らないように、パパパーン!!と部屋に派手に響き渡る音と、舞い散る紙テープ。

「メリークリスマス!美希たん!!」

 クラッカーを手にした彼女はそう言って、にへー、と笑った。
 ……そう、唯一にして最大の問題は、あたしが今一緒にいるのは、夢見てた甘い想像とは違って、山吹祈里―――ブッキーじゃなく、彼女―――桃園ラブだって事だ。
 あたしは笑顔のラブに言葉を返す代わりに、ノンアルコールシャンパンの注がれたグラスを口もつけずにテーブルに置いて、肩を落とし、溜息を一つついた。
 今日は十二月二十四日、つまり、恋人たちが愛を確かめ合う、聖夜であるところのクリスマスイブ。本当なら、ブッキーと一緒にムードのある素敵なお店で祝うはずが、生憎とここはラブの部屋。

「もー!なんか暗いよ、美希たん!ホラホラ、メリクリメリクリ!」
「……あのね、厳密にはメリークリスマスはまだ早いでしょ?今日はイブなんだし」
「チェ、ノリが悪いんだからー。ホラ、せっかくのイブなんだから、笑顔で、ね!?」

 両手の人差し指で、自分の唇の両端を持ち上げるラブ。あたしはそんな彼女を横目に、もう一度大きく、憂鬱な吐息をつく。
 笑える訳ないじゃない………そりゃノリも悪くなろうってもんでしょ………。
 だって、あたしが綿密に計画していたクリスマスイブの予定が、全部おジャンになっちゃったんだから。
 ―――どうしてこうなってしまったのか―――それは、イブ直前、先週の金曜日に遡る。

「美希ちゃん……その……く、クリスマスイブの事なんだけどね……」

 今年最後のダンスレッスンの後、ラブ達と分かれて、ドーナツカフェでテーブルを挟み、二人でお茶をしていた時、俯き加減にブッキーは小声で話し出した。

「あ、イブ?そうね、忘れてた……もう来週だもの……今年はどうしようか……」

 あたしは迷ってるふうに彼女にそう返した……けど、それはとぼけてみただけで、本当はもう、先月のうちから計画を立てていた。
 ブッキーへのプレゼントはどうしようか、今年はちょっと奮発して、大人っぽく、洒落たお店でお祝いするっていうのも……などと、話題のデートスポット特集やらを雑誌で必死にチェックして、既に全ては支度済み。その日の為のあたし自身の準備にも抜かりはなく、着ていく服やアクセサリー、さらには少しだけ背伸びした下着まで用意して―――あ、ご、ゴホン!!ほ、ホラ、やっぱり何事もあたしらしく「完璧!」でないとね!!
 その為に、幾つか入っていたモデルの仕事まで必死に頭を下げて後日に回してもらい、冬休みには海外でも一緒に、というママと和希の誘いを断り……どれだけ苦労し、かつ涙を飲んだことか……。
 でも全てはブッキーと一緒に過ごす聖夜の為だもの。そう考えたら、これくらいの事は、ね。

「……あ、まだ何も考えてなかった?」
「んー、そうねー」

 素知らぬ顔で湯気の立つ紅茶のカップを口に運ぶ。ふふふ……こういうのもやっぱり恋の駆け引きには必要よね。ポーカーフェイスってやつ。
 あたしはいざ当日になって、驚きで一瞬目を丸くしたあと、見る見るうちに満面の笑顔になって胸に飛び込んでくるブッキーの姿を想像し、思わず口元を緩めてしまいそうになる……っと、ダメダメ、あくまでも気付かれないようにしないと……。
 あたしがそんな事を考えていると、目の前に座ったブッキーは、なぜかホッとしたように笑顔を浮かべた。

「―――良かった……実はね、心配してたの。もし美希ちゃんが何かイブに計画してたら申し訳無いな、って」
「―――え?」
「二十四日は、どうしてもお父さんの病院の手伝いをしなくちゃいけなくなっちゃって……お正月も近いし、駆け込み需要、って訳でもないんだけど、診察の予約がいっぱい入ってて………」

 ちょ、ちょっと待って……そ、それじゃああたしの予約したお店や、プレゼントや、下着なんかは―――。
 あまりのショックに声も出ないあたしを他所に、ブッキーは優しい声で。

「じゃあ、今年のイブは別行動だけど、わたしの事は気にしないで、いっぱい楽しんでね?」

 ―――と、あたしにとってあまりに残酷な言葉を投げつけたのだった。



「美希たーん!おーい、人の話聞いてるー?」

 ラブの声で、ふと我に帰り、ち、ちゃんと聞いてるわよ!と返事をして、慌ててセーターの袖で目を擦る……い、いけないいけない……回想してただけなのに、な、涙が出そうになってるじゃない!!こんなのラブに気付かれたら、なんて言ってからかわれるか、分かったもんじゃないわ……。
 ……それにしたって、ラブは何ともないの?あなただって、本当なら今日は……。

「―――で、なんの話だったっけ?」
「ちょっとー、やっぱり聞いてなかったんじゃなーい!ヒドイよ、ずっと上の空でさー……クリスマスイブって言っても、取り立てて何かする事って思いつかないね、って言ったの!!」
「あ……んー、言われてみればそうね……お正月みたいに、カルタや福笑い、羽根付き凧揚げ、なんて定番の遊びもないし……」
「……でしょー?んふふ、でね、あたし、今日はちょっとしたものを用意してあるんだー」

 怪しげな含み笑いをして、ラブはベッドの下から何やら大きな箱を取り出してきた。

「ジャジャーン!!これね、ツイスターゲーム、って言うんだって!!親密度を上げるのにはちょうどいい、ってミユキさんに聞いて、借りてきましたー!!これであたしと美希たんで、身体を密着させて、息を荒くしてくんずほぐれつしながら―――」

 その台詞を最後まで言わせず、あたしはゴツン!!とラブの頭にゲンコツをうち下ろした。

「し、しないわよ!そんなゲーム!!何考えてるの!!」
「い、イタタタ……い、いいじゃん、美希たんとの仲を深めるのに……こんなのせつなが居る時は出来ないんだからさー……」

 ……全然いつもと変わってないじゃない……あたしと同じように、ラブもパートナーがいなくて寂しがってるとばかり思ってたのに……。
 そう、ラブも今日は、本来ならせつなと一緒に過ごしていた筈だった。けど、なんでもラビリンスの復興が手間取ってて、せっかくのお休みが延期されちゃったんだって。
 それで、予定が無くなってしまったあたしに、暇なら一緒にどう?と言ってきて……まあ、あたしも一人で暗くクリスマスをやるよりは、とラブの申し出を受けたんだけど……。

「あのね……せつながいなきゃいいってもんじゃないでしょ?常識的に考えなさい」
「考えてるよー。やっぱホラ、クリスマスイブって、世間的にもイチャイチャして過ごすイメージあるっしょ?だからあたしと美希たんで―――」
「誰とでもいちゃいちゃすりゃいいってもんじゃないでしょ?そういうのは恋人同士とか、夫婦とか、そういうカップル同士でやるもので、あたしとラブは単なる友人関係に過ぎないの」
「えー……なんとかそこを乗り越えてさ、肉体関け――」
「……いい加減にしないと、せつなに言いつけるわよ!?」

 それを聞いた途端、興奮気味にテーブルへと身を乗り出していたラブが、む~、と不服そうに唸り声を上げて、座っていたクッションへと崩れ落ちる。
 全く。誘われたのがあたしで良かったわよ。これが他の女の子だったら今頃どうなってた事だか。
 ラブは意気消沈したかの様に、自分のグラスにシャンパンを注ぎ込んだ。あたしはたしなめるような強い口調で、そんな彼女に話し掛ける。

「他に何かないの?せめてクリスマスに相応しいイベントは?」
「……じゃあさ、ベッドで、登山して道に迷って裸で暖め合うって設定で、クリスマス遭難ゴッコ、なんてのは―――」
「クリスマス、って付けただけじゃないの!!」

 ……あたしの握ったゲンコツが、再びラブの頭部を直撃する。
 全く……!この子に取っては聖夜が性夜でしかないの!?そのうち天罰が下るわよ!?
 ラブは頭を撫で、恨めしげな声を上げつつ、グラスに入ったシャンパンをちびちびと舐めるように啜った。

「う~……ヒドイなあ、もう……だって、やっぱりクリスマスって言えばそういうもんでしょ!?」
「本当に怒られるわよ!?色んな人に!!」
「それなら、美希たんなら何かある?クリスマスにする事って何か……?」
「え!?あ、あたし!?そ、そうねえ……」

 隠し芸、とか?……んー、それじゃ忘年会みたいよね……。何かクリスマスに関して、そういう話ってあったかな……。
 頭の中にある、クリスマスにまつわるイメージを総動員して考える……クリスマスクリスマス……確か外国じゃ主の誕生を模した劇とかやったりするんじゃなかったかな……けど、日本じゃそういう光景も見かけないし……恋人や家族と過ごすもの、って言われてるけど……。
 そこまで考えたとき、ふと頭の中を過ぎるものがあった。

「あ……」
「お、ナニナニ?何か定番の遊びとか思いついたの、美希たん?」
「ううん、別に遊びとかゲームとかいうんじゃないんだけど……」

 あたしが思い浮かべたのは、子供の頃に読んだ、クリスマスにまつわる童話の内容だった。



「……ホラ、聞いたことない?クリスマスに、愛し合ってるんだけど、貧しい夫婦が、お互いにプレゼントを贈り合うっていうお話……」
「あ!それなんか知ってる!あれでしょ?旦那さんは懐中時計をすごく大事にしてて、んで、奥さんの方は美しい髪の毛を大事にしてるっていう―――」

 そう、ラブの言う通り、お互いにお互いの大事にしてるものがあって、それに似合う物を贈ろうと、夫は自分の自慢の懐中時計を、妻の方はつややかな長い髪をそれぞれ売り払って、長い髪に合う櫛と、懐中時計の鎖を贈り合うっていう、暖かいお話。
 その不器用な擦れ違いに、ちょっともどかしささえ感じるんだけど、お互いに何を失っても相手の事を思うっていうその一途さが、あたしは大好きだった。

「……いいお話だよね、アレ。何回も読み直したっけなー」
「ラブも?あたしもあのお話は好きよ。何ていうか、理想のクリスマス、って感じで……」
「理想のクリスマス、かあ……」

 ラブはポツリとそう漏らすと、手にしたシャンパンのグラスをグイと飲み干す……まるで何かを誤魔化すみたいに、一気に。

「ぷはー。んー、でも、そのお話から今学ぶべきなのは、やっぱクリスマスって言えば何を置いてもプレゼント交換がメイン、ってとこなのかな?」
「何それ……台無しじゃない。……でも、クリスマスはプレゼント交換っていうのは、避けては通れないのかもね」
「んじゃさ、取り敢えずプレゼントと行きましょうかー。まだ日にち的には早いんだけど……」

 再びベッドの下をごそごそしだしたラブに、そうね、と軽く相槌を返し、あたしも持ってきたバッグの中へと手を入れる。
 互いに背中にプレゼントを隠して、クッションに座り直すと、ラブが軽くウインクしてきた。

「ほんじゃ、ちょっぴり時間の押してる、前倒しのクリスマスってことで……」
「なんか聖夜の有り難味がなくなる言い方ね、それ……」
「まあまあ……じゃ、せーの―――」

 ハイ!という掛け声でプレゼントの袋を前に出すラブ。あたしもそれに合わせて、綺麗に包装されたプレゼントの小さな包みを差し出す。

「メリークリスマス、ラブ」
「メリークリスマス、美希たん……ね、さっそく開けていい?」
「勿論……じゃあ、あたしも……」

 ラブのくれたプレゼントに掛けられた黄色いリボンを解き、ラッピングを丁寧に剥がす……ラブはといえば、あたしのプレゼントのラッピングをお構いなしでバリバリ破いてるけどね……あ~あ、せっかくの赤いリボンが……。

「……ね、ねえ、美希たん……これ、あたしには早すぎない、かな……?」

 プレゼントの箱を開けたラブは、戸惑いの表情をあたしに向ける。
 彼女の手にあったのは、あたしがあげたプレゼント―――鮮やかな赤い色の口紅――だった。

「そうね……ラブにはもっと淡いピンクとかの方がいいかも……もしラブがそれ塗ってたら、大人の真似した、おままごと中の小学生、って感じだしね」
「ヒッド―!!じゃあなんで―――」
「せつなに似合いそうでしょ、それ?」

 あ!と声を上げて、俯き加減に考え込み、やがて顔を上げると、ラブは嬉しそうな表情を見せた。

「うん!きっと似合うと思う……ありがとう、美希たん!!じゃあさ、あたしのも開けてみてよ!」
「はいはい、えっと……」

 ラブに促され、袋を開けたあたしの目に飛び込んできたのは、レモンイエローの……。

「……ちょっとラブ、こ、これは何よ……?」
「えへへー、さっすが幼馴染み!考える事は一緒だよね!」
「一緒って……あんたねえ……」

 袋に入っていたのは、レモンイエローの……少し過激なランジェリーだった。
 べ、べ、べ、ベビードール、っていうんだっけ、これ……う、うわ……す、スケスケじゃないの……。もしこんなのブッキーが着てたら―――。

「美希たん、ヨダレヨダレ!」
「ヨダレなんか垂らしてないわよ、バカ!!」

 思わず顔を熱くしながら、ラブをぶつフリ。なぜかラブも顔を赤くしてて、キャッキャとおどけた様にベッドの上に退避した。
 それからお互いに顔を見合わせ、プッ、と吹き出す。

「あはは……なんだかなー。これじゃあの童話とおんなじだね」
「ふふ、本当ね……お互いに今ここにいない人の為のプレゼント、なんて……」

 二人でしばし笑いあった後、可笑しくて涙が滲んだ目を指で拭いながら顔を上げると、ベッドに胡座をかき、赤くなった顔に優しい表情を浮かべたラブと目が合った。

「……良かった……やーっと笑ってくれたねー、美希たん」
「え……?ラブ、あなた……」

 ―――もしかして、あたしの事ずっと心配して―――?

「あ!!美希たん、あれ―――」

 私の疑問の声を妨げるように、彼女は窓にかかったカーテンの隙間を指差した。釣られてあたしもそちらに目をやると、チラチラと白いものが見える。



「―――いつの間に……」

 立ち上がって窓を開け、ベランダに出ると、まるでクリスマスケーキをデコレーションするように、四葉町に雪が降り積もっていた。
 尚もハラハラと雪の舞い散る冬の夜空を見上げて、思わず興奮して振り返る。

「ね、ラブ、雪よ、ホラ!」

 きっとラブならはしゃぎまくるだろうな、と振り向いたあたしの目に飛び込んできたのは、予想に反して、力なくベッドに横たわる彼女の姿だった。

「!!どうしたの!?」
「………」

 返事も返さないラブのただならぬ様子に、慌ててベッドに駆け寄る―――息も荒いし、顔も真っ赤……まさかこの子、風邪でも引いたんじゃ―――。
 不安になるあたしのもとに届く、ラブのピンクの唇から漂うほのかな香り。これって……。
 テーブルの上にあったノンアルコールシャンパンの瓶を手に取り、ラベルをチェック―――やっぱり……ラブったら未成年でも大丈夫だよー、なんて言ってたけど、しっかりと微アルコールって書いてあるじゃない……。
 途端に気が抜けて、はあ、と座り込み、ベッドにもたれ掛かる。全く……心配して損しちゃった。

「……な……ぁ……」

 お酒の匂いと共に、ラブの口から呟きが漏れた。
 どんな夢見てるんだろう、と、彼女の顔を覗く。変な寝言だったら、後でからかってやろうかな。
 などと考えていたものの、ラブの顔に浮かんだ表情を見て、ハッとする。

「……つなぁ……せつな……」

 さっきまでの明るい様子とは真逆に、彼女は切な気に眉をひそめ、目尻から一筋の涙を零していた。
 それを見た途端、あたしの胸がきゅんと苦しくなる。
 バカだな、あたし……そうだよね……淋しいのは、ラブだって一緒なのに……。
 それなのに、ラブはあたしに気を遣って、一生懸命明るく振舞ってたんだ。本当は、今みたいに泣き出したいくらいだったろうに……。

「……ごめんね、ラブ。色々気がついてあげられなくて……それと……ありがとう……」

 ベッドに腰掛け、安心させるように指でなるべく優しくラブの髪を梳き、何気なく窓の外を見る。
 ―――ホワイトクリスマス、か。
 もしもブッキーと一緒だったなら、それはそれは素敵なものだったんだろうけど……でも、たまにはこういうクリスマスイブも悪くないかもしれない。
 ―――あの童話みたいに、あたしの事を思いやってくれる、優しくて、気兼ねなく接することが出来る、大切な人……幼馴染みの友人と―――親友と過ごす聖夜っていうのも。
 と、唐突に、白に染められていた窓の外が赤い光に包まれた。な、何!?あ、まさかこの光って……!?
 カラカラ、とサッシが開き、サンタクロースに扮した少女と、トナカイの格好をした少女が……あたしとラブが、何よりも望んでいた二人の少女が顔を出した。

「ちょっと早いけど、メリークリスマス、美希」
「メリークリスマス、美希ちゃん!」
「せ、せつな?ぶ、ブッキーまで!?」

 驚いて二の句も繋げないあたしに、せつなサンタは軽く肩を竦めると、にこっと笑ってみせた。

「ウエスターとサウラーがね、こっちでは今日は大事な人と過ごす日だって聞いたから、自分達に任せて、お前は四葉町に行けって……強引にね」
「わたしも、お父さんとお母さんがね、今日はもういいから、クリスマスを楽しんできなさいって……そしたら、せつなちゃんから連絡があって、わたしの家に前に使ったサンタさんとトナカイさんの衣装があったから、二人をびっくりさせよう、って……」

 トナカイブッキーはぺロッと可愛らしく舌を出して、はにかんだように微笑んだ。
 あまりの嬉しさから、今にもブッキーを抱きしめてあげたいところだったけど、あたしはそれをグっと堪え、寝ているラブを軽く揺さぶる。
 あたしの事を思ってくれてた親友を差し置いて、自分だけ幸せに浸るなんて出来ないものね。

「ラブ!起きて!ホラ、本当にサンタさんが来たのよ!」
「………うにゃ……う~ん……邪魔しないでよぉ……」
「え!?な、何!?ちょっと!!」

 いきなりラブの両手があたしの首に回され、ぎゅっと引っ張られる。
 突然すぎて姿勢を保つ事も出来ず、あたしはそのままラブに覆いかぶさるような形になってしまった。

「…つなぁ……んにゃ……大好きだよぉ……もう離さないから……」
「こ、こら!やめなさいってば!!ふ、二人が見て―――ムグッ!!」

 皆まで言えずに、柔らかな感触に塞がれるあたしの唇。
 あまりの衝撃に狼狽えながらも、無我夢中でラブの手を振りほどき、あたしは身体を起こした。いいい今のって……まさか……き、き、キ……!?
 唇を押さえるあたしの耳に、そのパニックすら吹き飛ぶような、冬の夜より冷たい声が響く。

「……美希ちゃん……一体どういう事なの……?今、確かにキス―――……?」
「ななな、何の事!?みみみ、見間違えよ!!ブッキー!!あ、あはは……」
「ラブ、今私が邪魔って言った……?……美希……私達がいない間、何があったのか、詳しく聞かせてもらないかしら……?」
「ちちち、違うの!せつな、ラブが言ってるのはそういう意味じゃなくて―――」

 感情を押さえた声とは裏腹に、二人の周りは、地獄の業火もかくやと言わんばかりの、怒りの熱気が渦巻いていた。
 ラブと過ごす、こんなイブも悪くない、なんて―――さっきそう思ったのは撤回しよう……。
 あたしは迫りくる二人に怯えながらも、必死にラブの身体を両手で揺さぶっていた。

「ちょっとラブ!!起きて!!お願いだから、二人に説明を―――!!」
「うにゃうにゃ……サイコーのクリスマスイブ……ゲットだよー……」

 冗談じゃないわ、こんな、こんなクリスマスイブなんて、あたしはもう二度と、金輪際、未来永劫―――………。

 (お断りよ!!!!)

 あたしの悲痛な心の叫びをも白く覆い隠すように、聖夜の四葉町に、しんしんと静かに雪は降り続けたのだった。



最終更新:2013年02月15日 23:58