巡る季節と少女達~ピーチとパッションのサンタクロース大作戦~/一路◆51rtpjrRzY




プロローグ***



 ―――あなたは、サンタクロースを信じますか?


「パッション、準備は出来た?」
「ええ…後は服だけだけど……けどピーチ、本当にするの?何かちょっと恥ずかしいような……」
「ダメダメ。こーゆーのは気分から作ってかないと……そーしないと余計恥ずかしいよ?さあ脱いで脱いで!」
「ちょ、ちょっと!ひ、一人で脱げるから!……取りあえずそういうものなのね……せ、精一杯頑張るわ……」
「……と、いいみたいだね。じゃあパッション、こっちに来て……」
「あ、あんまり見ないで……や、やっぱり少しまだ……」
「へへ、可愛いよ。隠さないで全部見せて……」
「あ、ぴ、ピーチ……だ、駄目……」


「―――うん!どこからどう見ても立派なサンタさんだよ!よーし!じゃあ皆に幸せゲットしてもらいにしゅっぱーつ!!」


1***


 部屋を満たす赤い光で千香は目を覚ました。
 内容は覚えていないものの、それまで見ていた楽しい夢の続きに戻りたくて、薄く開きかけた瞼をもう一度閉じる。

「……えーと、靴下靴下……あ、あったあった」
「千香ちゃんは何が欲しいのかしら?」
「んーとねぇ…『サンタさんへ。プリキュアになりたいです』……だって」

 再び夢に落ちかけた千香の耳に、小声で話す会話が入り込んでくる。
 それによって今度こそ千香は完全に目を覚ました。

「誰!?ど、どろぼーさん!?」

 ベッドからガバっと上体を起こした千香。
 その目に映る、カーテンの隙間から差し込んだ月の光に浮かぶシルエットは―――。

「!あ、キュアピーチとキュアパッション!!」
「わ!!ち、千香ちゃん!しー!しー!」
「ち、違うわ!わ、私達はピーチとパッションじゃなくてそ、その……さ、サン……」
「サン?……キュアサンシャインには見えないけど……」
「それも違うよ!ほら、よく見て!」

 ドアの横にある照明のスイッチがパチン、と音を立てて、部屋がいきなり明るくなる。
 眩しさに細められた千香の目に飛び込んできた二人の姿、それは……。

「―――キュアピーチとキュアパッション!」
「だから違うってば!ホラホラ!」
「ぴ、ピーチとパッションとは明らかに違うところが何箇所かあるでしょ!?ね!?」
「え~?間違い探し~?」

 千香は面倒そうにそう言うと、目の前に立つ二人の少女をまじまじと見つめた。
 ……えーと、二人ともよく見ると赤くて白いふわふわの付いた帽子とジャケット、それにミニスカートで……。
 もしかして、と閃いた千香はおずおずと尋ねる。

「サンタ……クロース……?」
「そ、そうよね!そう見えるでしょ?!」
「ピンポーン!千香ちゃん大せいか~い!!」

 千香の言葉に、我が意を得たり、とばかりに喜ぶ二人の少女。
 まあどう見ても千香からしたらサンタのコスプレをしているだけのピーチとパッションでしかないのだったが―――

「そ、それでね、あたし達、いつも良い子にしてる千香ちゃんにプレゼント持ってきたんだよ~。ね?パ……さ、サンタ二号?」
「に、二ご……そ、そうね、い、一号。ち、千香ちゃんはぷ、プリキュアになりたいんだったかしら?」
「え!サンタさんお願い叶えてくれるの!?ありがとう、サンタさん!!千香サンタさんだ~い好き!!」

 ―――現金なもので、プレゼントがもらえるとなった途端に二人をサンタクロース扱いしだす。

「ちょっと待ってね~…えーとプリキュアプリキュア……」
「確か用意してたわよね……」

 揃って互いの持った白い大きな袋をゴソゴソと探り出す二人の少女。と、同時に目的のものを探し当てたらしく、サッと千香の前にそれが出される。

「はい!キュアピーチ変身セットだよ~!」
「キュアパッション変身セットよ!」

 ん?と、お互いの差し出したものとその顔を見比べるサンタ少女達。
 その顔には笑みを浮かべてはいるものの、どこかぎこちない雰囲気で。

「ちょ、ちょっと二号……ここはやっぱり主人公のピーチ変身セットでしょ~!?」
「い、一号こそよく考えて見たら……?クリスマスなんだし、赤い服のパッションの方がそれらしいでしょう?」

 何やらバチバチと視線をぶつけ合いながら、二人ともお互いのプレゼントを押しのけるようにして千香へと差し出してくる。

「ね!?千香ちゃんはピーチの方がいいでしょ!?なんたってカッコイイもん!」
「ぱ、パッションだって素敵よね?頭に付いた羽飾りもお洒落だし!」
「え~?でもピーチの方が千香ちゃんには似合ってるって!スカートも短くて動きやすいしさー!」
「ふ、冬なのにピーチの格好なんてしてたら風邪引いちゃうでしょ!パッションならスカートも長いし、ストッキングだって―――」

 必死にお互いのプレゼントをアピールする二人に対して、千香は少しガッカリしたような表情を浮かべると、言いにくそうに口を開いた。

「あの…サンタさん……あたし『キュアミューズ変身セット』が欲しいんだけど……ホラ、小学生プリキュアだから千香にはピッタリかなって……」

 その言葉に途端に凍りつく二人の少女。

「あ……あはは……そ、そうだよね。ち、千香ちゃん小学生だもんね」
「あ、で、でもそれはよ、用意してないから……そ、その……」

 サンタ一号と二号はそっとお互いのプレゼントを千香の枕元に置き、そそくさとベッドから離れた。

「ぱ、パッションもいいよ~、千香ちゃん!あたしは好きだな~、は、ハハ……」
「ぴ、ピーチも可愛いと思うわ!わ、私も大好きよ!」

 カッ、と再び赤い光が部屋を染め始めると、少女達は千香に慌て気味に手を振り出す。

「じゃ、じゃあね!メリー・クリスマス!!」
「よ、良い子にしててね、千香ちゃん!」

 一瞬にして姿を消した二人を、ポカンとした表情で見送ると、千香は小さく呟いた。


「……何がしたかったんだろう……キュアピーチとキュアパッション……」


2***


「はあ…疲れた……」

 自室のベッドに倒れこむと、知念ミユキは枕に顔を埋め、ため息をついた。
 クリスマス、そして年末という事でテレビ番組の企画や収録が12月は目白押し。
 師走、とはよく言ったもので、クローバーのダンスの師匠であるミユキも働きづくめで身体を休める暇もない。

「…せっかくの聖夜だっていうのにね……」

 世間では今頃恋人達がイチャイチャしてるっていうのに……あたしは……。
 その己の想像に、ミユキはもう一度大きく溜息をつく。
 と、その刹那、突然部屋が赤い光で埋められる。

「き、きゃッ!!な、何?!」

 驚きに見開かれたミユキの目の前に現れたのは勿論……。

「……あれ?ミユキさんもう帰ってたんだー。メリー・クリスマス!」
「こんばんわ、ミユキさん」
「あなた達……どうしたの?」

 サンタ少女一号はコホン、と一つ咳払いすると。

「んっと、先に言っておきますけど、あたし達はサンタクロースです」
「み、ミユキさんはよ、良い子にしてたかしら?」
「良い子って……二号、そこはあたし達より年上なんだし、良い大人って言わなきゃ!」
「あ、そ、そうなの?えーと、いい大人が何してるのかしら?」
「ち、違う違う!」

 二人の掛け合いに突っ込む事もせず、ミユキはフッと自嘲気味な笑みを浮かべる。

「ホント……いい大人が何をしてるのかしらね……」
「あれ?み、ミユキさん?」
「ど、どうかしました?」

 いつもとは違うミユキの疲れたような様子に、サンタ少女達は心配そうな声を掛けた。

「どうしたも何もないわ……サンタなら今日が何の日か勿論知ってるわよね……」
「は、はあ…」
「クリスマス……ですよね?」
「……そう……聖夜よ、聖夜……」

 ムクリ、とベッドから身を起こすと、ミユキは俯きがちにボソッと漏らす。
 その手は固く握り締められ、何かをこらえるかのようにワナワナと震えていた。

「聖夜ってどんな物か知ってる……?世の中では恋人同士で甘い甘い甘い甘いあま~~い夜を過ごすのよ……。現にナナとレイカは収録が終わった後、浮かれた様子で二人仲良く夜の街に消えていったわ……」

 口惜しげにトリニティの残り二人の名前を口にすると、ミユキは勢いよく顔を上げる。

「なのにあたしは一人、部屋でグッタリしてるだけ!!何なの?!大輔や父さん達だって『今日はクリスマスイブだから』って仕事のあるあたしを置いて皆で食事行っちゃうし!」
「え、えーと……」
「た、大変ですね……」

 大声で愚痴るミユキに対して、どう反応していいか分らないサンタ少女達は、適当に相槌を打つだけしか出来ない。
 そんなこともお構いなく、ミユキの声は更に大きくなっていく。

「あたしは『愛』が欲しいのよ!この疲れきった体も気持ちも癒してくれるような『愛情』が!!あなた達に分かる!?いつも仲良く―――」

 矛先が自分達に向きそうになって、事情も飲み込めぬままに慌てた一号が、ミユキを落ち着けようと彼女の肩に手を置いた。

「ま、まあまあ……そ、その……ミユキさんはとりあえず『愛』が欲しいんですね?」
「『愛』って…ど、どうするの?一号……流石にそんな物用意してないし……」
「んーと……パッショ…じゃない、二号、ちょっと耳貸して」

 コソコソと耳打ちをすると、サンタ少女二号が顔を真っ赤に染めた。

「ちょっ……そ、そんな事……」
「しょーがないじゃん……ミユキさんのリクエストだし……それじゃ行くよ?」

 す、とサンタ少女二号の首筋に手を回すと、一号はゆっくりと顔を近づけていく。
 ギュッと目を閉じ、口元を閉ざした二号に、ニコッと笑いかけると、一号はその唇をもう片方の手で優しく撫でる。

「……力、抜いて……大丈夫、恥ずかしくなんてないよ……ホラ……いつもみたいに……」
「で、でも……ひ、人前でこ、こんな……」
「たまにはいいじゃない、こういうのも……案外癖になっちゃうかも……」
「な、何言って―――!」

 照れた否定の言葉に開かれたその口に、一号は唇を被せた。
 ちゅ、くちゅ…と唾液と舌を絡める音を、殊更大きく響かせようとするかのような大胆なディープキス。
 強ばっていたサンタ少女二号の身体から、だんだんと力が抜けていくのが見て取れる。

「ん……どう?気分出てきた?」
「……ばかぁ……」

 力のない、陶酔したかのような悪態をつく二号。
 それ楽しむように淫靡に微笑むと、一号は更に―――

「……ちょっと待って」

 ミユキの不機嫌そうな声がサンタ少女達の行為を押し留めた。

「は?ここからがいい所なんですけど……?」
「あ……な、何かお気に障りました……?」

 キョトンとした様子の二人の少女に、ミユキは感情を押し殺したかのような低い声で問い掛ける。

「……一応聞いておくけど、それはどういうつもりなのかしら?」
「え…?だってミユキさんが『愛』が欲しい、って言ったので……恥ずかしいのも我慢して……」
「そうそう!で、どうですかあ、ミユキさん。あたし達の『愛』で癒されました~?」
「そう……そうね。でも、あたしが言ったのはそういう意味じゃないのよ?」

 こめかみに青筋を浮かべながらも、ニッコリと満面の笑みで、ミユキはドアを指差した。


「出てけ―――――――――!!!!!!!!」 


3***



「――――二人っきり、だね。美希ちゃん……」

 そう言って山吹祈里は隣に座る蒼乃美希の肩に軽く頭を預けた。
 美希の部屋―――彼女の母親のレミは美容師のクリスマスパーティに出かけて、明日まで帰って来ない。 
 祈里の方はといえば、明日のクリスマスパーティの準備があるから、と外泊許可を得てここにやって来ている。
 聖夜―――しかも二人で過ごす初めての夜、というのも重なって、ロマンチックこの上ない―――のだが。

「そそそ、そうね……ふ、二人っきりなんて初めてだから、そ、その……な、なんていうか……」

 肝心の美希の方はといえばずっとこんな調子。
 その緊張と狼狽ぶりが肩から伝わってくるようで、祈里は軽く溜息をついた。

「もう……いつも通りにしてていいのよ?変に強ばったりしないで……」
「あ、あたしはべ、別にいいい、いつもと変わらないわよ?ぶ、ブッキーこそ……その……」

 普段ならおしとやかで清楚なイメージの服装の多い祈里だったが、今日は何故かミニのスカート。そこから伸びた黒いストッキングを穿いた脚が艶かしい。
 上半身も大きめで襟口が緩やかなセーターを着て、肩まで露出してしまいそうだった。
 らしくもなく化粧もぴっちりとキメているようで、果実のように瑞々しく唇が濡れ光っている。
 これでは美希ならずとも、その色香に狼狽えてしまっても仕方がないとも言えるだろう。

「ブッキーこそ……何?」
「あのその……そ、そんな格好だと……その……」
「ふふ……目のやり場に困っちゃう?」

 幼い顔に不釣合な、小悪魔的ともいえる笑みを浮かべると、祈里は美希の頬に両手を添えた。

「ね、見て?美希ちゃんの為に今日はお洒落してきたんだから……目を逸らさないで……」
「ぶ、ブッキー……」
「美希ちゃん……」

 二人の視線が絡み合うと、その顔が距離を縮め、そして――――……

「やっほー!メリー・クリスマース!!!」
「メリー・クリスマス!」

 赤い光が部屋に溢れ、場にそぐわない明るい声が響いた。
 途端に美希と祈里はバッと身体を離す。

「あれ?ブッキーもいるんだ。手間が省けて良かった」
「?どうしたの?二人とも?顔が真っ赤だけど………」
「う、うるさいわね!!そ、それより何よ、二人してその格好は!?」
「何って……見れば分かるでしょ?サンタだよ、サ・ン・タ。かーいーでしょー?」

 美希の前でくるり、とスカートを翻し一回転してみせるサンタ一号。
 その様子には目もくれずに、美希は不機嫌さを隠そうともせず、サンタ二号に問い掛けた。

「……パッション……なんでアンタがいてピーチのこういう行動止められなかったの?しかも一緒になってその格好……」
「あ…そ、その……あんまり見ないで美希……恥ずかしいから……」

 モジモジするサンタ少女二号に、今度は一号が声を掛けた。

「もー!成りきらなきゃダメでしょ?パ……じゃなくて二号!あたし達はサンタクロースなんだから!」
「サンタクロース……ねえ……。で、サンタって事は何かあたし達にくれるワケ?」
「もっちろん!サンタさんは良い子にプレゼントを配ってあげるんだよー!」
「……プレゼントじゃなくて、ピーチには少しは気を配って欲しいわね……」

 呆れたようにこめかみに指を当て首を振ると、美希はサンタ一号に向き直った。
 どうやらこの茶番に付き合わない限りピーチ…もとい、一号が満足しないという事は、長年の経験で熟知しているらしい。

「それで、何をプレゼントしてくれるのかしら?」
「んーとねえ、リクエストは?って言いたい所だけど、美希たんの欲しいものはちゃんと用意してきたんだ~。ちょっと待っててね」

 ガサゴソと手にした袋を漁るサンタ一号。
 やがて一冊のミニアルバムを手に取ると、美希へと差し出した。

「あったあった、コレコレ。ハイ、ブッキーの隠し撮り生写真集だよ~!」

 ゴン!と音高く美希のゲンコツがサンタ一号の頭を直撃する。

「いった~!!な、何で殴るの?!」
「だ、誰がいつそれを欲しがったっていうのよ!!」

 チラチラと祈里の様子を気にしながらも美希はサンタ少女一号を叱りつける。

「ちぇ~、美希たんなら絶対欲しがると思ったのにな~」
「と、時と場所考えて出しなさいよね!!……そ、その……い、いらないとは言ってないけど……」
「フン、だ。いいよ、他にもあるから。えーと……」

 痛たたた…と頭を摩りながら、一号は再び袋に手を突っ込んだ。

「ハイこれ!ブッキーの生下着~!」

 再びゴン!!と美希の拳がサンタ一号の頭を襲った。

「最近ブッキーが下着がなくなるって言ってたのはピーチの仕業だったの!?」
「イタタ……あ、あたしはただ美希たんの笑顔が見たくてつい……」
「誰がそういうのプレゼントされて喜ぶって!?」
「じゃあいいよ、他にもあるし……」
「あ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ、その……い、いらないとは……まだ……、と、というかブッキーに返してあげなさい!!」

 と、止めかけた美希の手が宙で止まる。
 生写真に生下着……これ以上のものがあるとは思えないけど……もし止めなかったら次はピーチ、何を出すつもりかしら……。
 ゴクリ、と生唾を飲み込む美希。
 ―――もしかしてブッキーの××××とか……ううん、それとも×××××……ま、まさか××××××××―――――!!!
 悶々と脳内に妄想を溢れさせる美希の前に、サンタ少女一号が頬を赤く染め、伏し目がちに『それ』を差し出す。

「これ……あたしの恥ずかしい生写真と生下着……へ、変な事に使わないでよね!」

 ゴヅン!!!!!!!!!

「絶対にいらないわよ、そんな物!!!!」

 立ち上がって本気の拳を少女の頭に叩き込み、ハアハアと肩で息をする美希。
 一号はう~……と呻きながら頭を押さえて、彼女の足元にうずくまっている。

「~~~ッ!!全力で殴ったでしょ、美希たん!!人が恥ずかしいの我慢して用意して来たのに!!」
「本当に恥ずかしいなら最初からそんな物用意して来ないで!大体、あたしがなんでピーチの写真やパンツ欲しがると思ったのよ!!」
「は!?お宝物だよ!?ホラホラ!あたしだって涙を飲んで美希たんの為に、お気に入りのを何枚かチョイスして―――――」
「!!人の顔にパンツを押し付けないで!!!」

 呆れながらも、ギャーギャーと騒々しい二人のやり取りを見つめるサンタ少女二号。
 その目がふ、と無言で傍らに佇む祈里へと向けられる。

「……そういえばまだブッキーの欲しい物聞いてなかったわね?色々用意してきたから言ってみて」
「!!そだ!何でも言って!プレゼントするから!!」

 美希から逃げるようにして、一号も祈里の傍に座りこんだ。

「……わたしの欲しいもの……?」

 祈里がボソッっと呟く。
 普段と声のトーンもさして変わっていないというのに、湧き上がる『黒い何か』を押さえ込んでいるようなその雰囲気に、一号と二号の全身が一気に総毛立つ。


「…………わたしはただ、美希ちゃんと二人きりの静かな聖夜が欲しいわ……」


 その台詞が終わるやいなや、慌てたように美希の部屋が再び赤く光った。


エピローグ***


「ふ~、怖かった……何されるかと思ったよ……」
「その人が欲しがるものをプレゼントするのってなかなか大変なのね……」
「ん~…結局一つも成功しなかったもんね~……」
「サンタさんって偉大なのね……勉強になったわ……」
「ん?何これ?あたしの枕元に何か……プレゼント?」
「え?――――ラブ!私の部屋の枕元にも置いてあったわ!」
「わ!これあたしが前から欲しかったダンスシューズ!!」
「私のは暖かそうな赤いセーターが入ってるわ……デザインが私の好みの……」
「ね!これって……」
「まさか……」
「「本当のサンタさん!?」」


 桃園家の二階を見上げる一人の人物―――その身には赤い衣装に帽子を被り、大きな袋を担いでいる。

「良い子、とは言い切れないけど、まあ皆に何かしてあげたいって心構えは認めてあげないとね」

 ラブの部屋から聞こえる喜びの声に、その男―――サンタクロースは満足そうに笑って袋を担ぎ直した。
 そしてくるりと向きを変えると、月の光に浮かぶ家並みを手を庇にして眺める。

「さて、お次はどこにプレゼント持ってけば良かったかな……まったくサンタは忙しいや。クローバータウンには良い子が多いからねえ」

 誰ともなしに呟いて、その場を立ち去ろうとするサンタクロース。
 ―――と、その足を止め、再び彼はラブの部屋を見上げた。

「……おっと、忘れてた。メリー・クリスマス、お嬢ちゃん達」

 ニカッと笑って、夜だというのにかけているサングラスの位置を直すと、サンタは今度こそ聖夜の中へと歩み去って行った。


 ―――あなたは、サンタクロースを信じますか?  




最終更新:2013年02月15日 23:47