『雨音』/黒ブキ◆lg0Ts41PPY




耳を打つ雨の音でラブは目を覚ました。時計を見ると0時を少し回った所。
せつなの部屋へ行くつもりだったのに、つい眠ってしまったらしい。
ベランダへ出ると風向きのせいで少し顔に飛沫がかかる。
そのままそっとせつなの部屋へ滑り込む。



「…せつな、起きてる?」
ベッドの傍まで行き囁くように声をかけると、せつなは身を起こして
ラブの腹のあたりに顔を押し付けてくる。
「せつな…。」
髪を撫でるとラブの腰に腕を回したまま、せつなは顔を上げ、
潤んだ視線でキスをねだる。



体の奥から情欲が湧いてくる。唇を啄みながら自分もベッドに倒れる。
パジャマの裾から手を潜り込ませ、掌で乳房を包み込む。
せつなの肌はもう熱く火照っており、まだ触れてもいなかった
乳首が固く尖り、既にせつなの体は準備が整っている事を告げていた。




「…今日はエッチな方のせつななんだね。」
ラブはわざと少し笑いを含んだ声で囁く。
体の関係になって、もう随分たった。
せつなは未だに不慣れな処女のように恥じらい、
快感に呑まれるのを怖れるよう声を殺し、それでも堪えきれない
快感に押し流され、あられもない声をあげて、泣く。



でも時々、我を忘れてラブを求め、乱れる事がある。
(…ねぇ、ラブ…もっと…!お願い…足りないの……!
……もっと…お願いだから…!)
潤んだ瞳でねだられ、そんな時はラブもいつも以上に貪欲に、
どんな快感も逃がすまいとお互いに貪りあう。



今夜のせつなもそうだ。
ラブの問いには答えず、ただ体を擦り寄せ
愛撫の先を促す。



「いつも雨の日だね…。」



この頃気が付いた。せつなが乱れるのは、決まって今夜のような雨の夜。
激しく乱れ、甘い声でラブの耳を楽しませ、意識を失うかのように眠る。


まだ荒い息のせつなは目を伏せ、ラブの胸元に頭を寄せる。




「……眠るのが怖いの…。」


雨の夜は眠りに就くのが怖いのだ、とせつなは言う。



「…このまま目が覚めないんじゃないかと思うの…。
もし覚めても、そこはこの部屋じゃなくて、あの洋館だったら…。
私はイースのままで、今までの事が全部夢なんじゃないかって……」



そう思うと恐くて眠れない…。だから…他に何も考えられなくなるくらい、ラブでいっぱいになりたい。
これは夢じゃない。体中でラブを感じて、気絶するように眠って、
目が覚めてもラブが傍にいる。


そうして、やっと安心できる。夢じゃないって。




雨の中で、イースとしての最期を迎えた。
深い闇へ堕ちて行くような記憶は、いつも雨音と甦る。
生まれ変わった喜びと背中合わせに、いつまでも消える事はない。




「……ごめんなさい。」


胸元にせつなの涙を感じる。
せつなの闇は深く、重く、でも切り捨てる事はできない。
謝る必要なんかないのに…。もっと、求めてくれたっていいくらいなのに。




「せつな…愛してるからね。」
ラブは精一杯の愛しさを込めて囁く。
せつなの体が震え、しゃくり上げる声が聞こえる。



「せつなも、パッションも、………イースも……みんな、愛してるから。」




あたしは、ただ抱き締める事しかできない。
でも…、せつなを誰よりも誰よりも愛してるから。


だから、これからは我慢せずに泣いて欲しい。
いつか、あなたが闇の夢を見なくなる日まで。



最終更新:2013年02月12日 18:43