『氷解』/黒ブキ◆lg0Ts41PPY




1


夕陽で赤く染まった室内に湿った荒い息遣いと濡れた音が響く。
ごく普通の居心地の良さそうなリビング。けど、その真ん中に据えられた
ソファーの上ではとても普通とは言えない光景か繰り広げられていた。
絡み合うのは二人の少女。一人は着衣をこれでもかと言わんばかりに乱され、
喘ぎながら咽び泣いている。
その上に全裸の少女が覆い被さり、下になった少女の全身をまさぐっている。


せつなが着ていたのは生成りのシャツワンピース。そのボタンを腹まで外され
胸元も露にはだけられ、白いブラはずり上げられ乳房を剥き出しにされている。
スカートは腰の上までたくしあげられ、片方の足をソファーの背に、もう片方は
床に落とされこれ以上は無理なくらい足を開げさせられている。
ラブはその足の間に顔を埋め、無心に舌を使う。
ピチャピチャと犬が水を舐める様な音をたて、ガクガクと腰を震わせる
せつなを押さえ付けながら攻め立てる。


「はあっ……はあっ…、ふぅっ…んん!」
ラブの舌が動く度に足首に下着が絡んだままの足がピクピクと揺れる。
せつなはラブの湿ったままの髪を力無く引っ張りながら、
ただひたすら気の狂いそうな性感に耐えていた。



2


ラビリンスにいた頃のせつなは、最前線で働く為の戦闘要員だった。
幼い頃から己を律し、鍛え、学び、一切の欲望を排除した生活を送っていた。
性的な知識が無いわけではないが、それは人間の体の構造を学ぶ上での
一行程であり、生殖の為のものであり、まだ年若く、しかも戦士として
いつ出撃命令が出るか分からない自分には無縁のものだった。
仮に後に遺伝子を残す為に妊娠・出産を命じられる事はあったとしても
そんな事はその時になればお膳立てが整っているはずで、自分はただ
言われた通りにするだけの事だった。


だから何も知らなかった。他人の手が、唇が触れるとどうなってしまうのか。
真摯な眼で見つめられ、抱きすくめられたら動けなくなってしまう事を。
ラブの冷えきった唇に自分の唇を塞がれた時、せつなは反射的に
相手をはね除けそうになった。
でも、ラブの眼を見てしまった。ほんの数センチ先にあるラブの瞳。
鏡の様に静かなのに、その奥に狂おしい程の思いを押し込めていた。
どんなに欲しても与えられない。身を捩る程に渇望しても
決して自分には手に入らない。
苦しくて苦しくて、だからそんな思いは最初から感じて無いんだ、そんなもの
欲しがる自分なんて存在しないんだと自分を騙し。
けど時折暴れ出す心を御し切れなくて…。



そう、かつての自分だ。



逃げちゃいけない。そう思った。ここで少しでも拒否する仕草を見せれば
ラブの心には取り返しのつかないヒビが入ってしまう。
体から一切の力が抜けた。
(ラブ…大丈夫よ…。)
貴女は私とは違う。どんな闇と向き合っても染まってしまったりしない。
それに、ちゃんと伝えなければならない。




貴女が心から望んでいるモノ。それは決して手の届かないモノではないのだ…と言う事を。




3


ラブは無抵抗なせつなの体を恣に貪る。まだ14歳の少女に愛撫の仕方など
分かるはずもない。
ただ同じ体を持った同性。どこをどうすればどんなふうに感じるかは分かる。
慣れないうちは敏感な部分への強い刺激は快感より苦痛の方が大きいと言う事も。
ラブはわざと敏感な部分を執拗にいじくり、弄ぶ。
せつなの反応を見れば、乏しい自慰の経験しかない自分よりも遥かに
性的な経験がないように感じられる。
もしかしたら、一度も自分で触れた事すらないのかも知れないと思った。


乳首に歯を立てる度に大きく背を反らせ、陰核の柔皮を無理やり捲り
中の突起を強く吸えば、啜り泣きどころではない悲鳴に近い泣き声をあげる。
ぴったりと閉じた膣に無理やり二本の指を捻り込む。指を押し出そうとするかのように
きつくすぼまった肉が蠕動する。


「あっ…あっ…あぁっ。……いっ…つぅ……。」
指が深く埋まって行くにつれ、せつなはか細く泣き、目尻に涙が溜まっていく。
(痛いんだろうな。)
ラブはそう思いながらも指を根元まで納め、内壁を広げるようにグニグニと
動かす。
ラブ自身も自分を慰める時に、こんなに深く指を入れた事はない。
せつなにとってもこの行為が苦痛でしかない事くらいわかる。
唇を抉じ開けるように舌で口腔内を蹂躙する。柔らかな下唇に
歯を立てると、ラブの中に鉄の香りが滲む。
指で中を犯しながら、膨れた外側の突起を捏ねる。
せつなの体が跳ね、塞いだ唇の隙間からくぐもった呻き声が漏れる。


「…ぅふ……んぅっ…んくっ…」
せつなの痙攣がある程度治まると、ラブは唇を解放し、ゆっくりと指を引き抜いた。
ぬらぬらと光る指を見ると体液に薄赤い色が混じり、下敷き
になっているワンピースにも同じ色の染みが出来ている。
それが破瓜の血になるのか、それとも乱暴な挿入で粘膜が傷付けられて
出たのかはわからない。
でも、相当苦しい思いをさせただろう事は想像が付く。


(こう言うのでも処女を奪っちゃった事になるのかな……)
ラブは暗い喜びを感じている自分に苦笑した。


せつなはここまでされても抵抗の片鱗すら見せない。
『イヤ。』『やめて。』と無意識に口をついて出そうな言葉すら口にしない。
ただ、涙を流しながら責め苦のようなラブの愛撫に打ち震えている。



4


「どうして?」


せつなは最初、自分が無意識に言ってしまったのかと思った。
でも、その言葉を発したのはラブの方。
霞む眼をそろそろと上げるとラブが見下ろしていた。


「ねぇ、どうして、せつな?嫌じゃないの?嫌でしょ?こんなの。」
確かにせつなならラブを跳ね返す事くらい訳はない。
プリキュア状態ならともかく、生身なら身体能力も体力も
せつなの方が遥かに勝っている。
(あたし、同情されてるの?可哀想って思われてる?)


もしそうなら惨め過ぎる。罵倒されても、軽蔑されても仕方がない。
でも憐れまれるのは嫌だ。どこまでも自分本位だとは分かってる。
それでも……


「それともなに?せつな、こう言うの好きなの?気持ちよくなっちゃったの?」
恐らくラブは下卑た笑いを浮かべたつもりだったんだろう。
でも、せつなには、それは泣きたいのを堪えて顔をくしゃくしゃにしてる
小さな子供にしか見えなくて…。



「だって、ラブが泣いてるから。」



いつか、どこかで聞いたような台詞だ。あなたの心が泣き叫んでる……。
辛くて、苦しくて、どうしようもない……いっそすべてを壊してしまいたい程に。



「…なに?……それ。」
やっぱり同情されてるの?ラブが本当に泣きそうになった時、
「泣かないで……。」
ラブの頭はせつなの胸に抱き込まれた。



「私…ラブが好きよ…。」



私は、上手く伝えられるだろうか……。


5


ラブはせつなの胸に顔を埋めたまま、動けない。
せつなの言った言葉…。
『好きよ』確かにせつなはそう言った。反射的に心が歓喜に震える。
ずっとずっと、欲しくて堪らなかったことば。


でも……、それは……。



「…違うでしょ?違うよ!!せつなが言ってるのと、あたしのは……!」
全然違うんだよ。
分かってた。今のせつなはあたしの言う事なら何でも聞きかねない。
どんな事でも、ラブが望むなら…と。
でも、そんなものは違う。欲しかったものじゃない。
ここまで酷い事をして、それなのにせつなは好きと言ってくれて。
でも、違う。どこまで自分勝手なんだと思う。
せつなの身も心もこれ以上無いほど傷付けて、それでも満足できない。


一体、どうなれば満足なんだろう。



「…そうね。違うのかも知れない。」
頭の上から柔らかい声が降ってくる。
さっきの自分の言葉への返事。違うと言ったのは自分なのに
ずきりと痛みが走る。
一瞬、体を強張らせたラブの髪をせつなは優しく撫でる。


「でも、…私、分からないんだもの。……だって、」
誰かを大切に思ったのも、誰かに大切にされたのも、誰かを好きになったのも、
ラブが初めてだから。


私には何もなかった。守りたいものも、愛しいものも。
空っぽの心。『メビウス』と言う偶像にその空白を埋める事を求め、
渇いてひび割れた水差しに、溜まるはずもない水を注ぎ続けていた。


メビウス様の為に
メビウス様の為に
メビウス様の為に



ラブと出逢い、ラブと触れ合い、いつの間にかひび割れは消えていた。
少しずつ、心に溜まっていく何か。
それが何なのか、今も表す言葉を私は持たない。
でも、これだけは分かる。こんな気持ちはラブに対してしか生まれない。
盲目的に誓っていた忠誠とは違う。
ただ依存の対象が代わっただけだと言われるかも知れない。
そうかも知れない。もしそう言われても、私には明確な反論は出来ないかも知れない。


でも私はもう決めてる。ラブしかいらない。


この先、例えどんな出会いがあってもラブ以上に大切な人は出来ない。
ラブが最初で最後の、一番大切で愛しい人。


仲間、家族、友達…。今の私には大好きな人が沢山できた。
決してラブ以外の人がどうでもいいわけじゃない。
その人達を守る為にも、私は命懸けになれる。


でも、その人達全てを合わせても、ラブ一人にはかなわない。


6


せつなは拙くことばを綴る。
どう言えば分かってもらえる?
どうすれば伝わるんだろう。



ラブには知られてはいけないと思ってた。友達でいなきゃ。家族にならなきゃ。
ラブがいないとダメだと思われたくない。ラブに依存しきってると思われたくない。
ラブにはラブの世界があるんだから、邪魔しちゃいけない。
自分だけ、見て欲しいなんて、絶対に、言えない……。
だって重すぎるもの。人ひとりの心を丸ごと被せられるなんて。
ラブは分かってない。どんなに私がラブを好きか。
ラブが想像するよりも、ずっと、ずっと…。



隠しちゃいけなかったのかな。鈍い私はラブが追いつめられてるのに
ちっとも気付かなかった。
いつもラブは自分の事より、人の事で怒って、泣いて。
昔からそうだったって聞いてる。



だから、ラブは多分泣いてしまうだろう。
せつなに酷い事をした。
せつなを傷付けた。
そして、それ以上に自分を傷付けてしまうかもしれない。
ごめんね、ラブ。本当にごめん。



……もどかしい……。
どんなことばでも伝えきれる気がしない。私のことばはどうしてこんなに拙いんだろう。



せつなは全身で強く強く、ラブを抱き締める。
極度の緊張と過度な刺激に晒された体はミシミシと軋み、力が入らない。
それでも強く。ラブを丸ごと体の中に包み込めるように。



「分かってないのはラブの方なんだからね!」


last


「……っう…うわ、うわああああーーん!!」
ラブは突然、子供のように声をあげて泣き始めた。
「…っごめ……ごめっ…なさっ…!…… ごめんっ…なさ…い!
ひっく…ぅえ、せっ…、せつなっ…せつなぁ……せつな………」
「うん……、ラブ…」
「ホ…っトに……ホントに、ごめんなさい!」
「……うん……」



優しく優しく頭を撫でられ、きつく体を抱き締められ、どのくらい泣いただろう。
涙と共に凍えた塊が溶け出していく。冷えきった体をせつなが暖めてくれる。
溶け出した塊も全部は無くならないかも知れない。
一度向き合ってしまった剥き出しの欲望は、
そうそう簡単には自分を解放してくれないかも知れない。
でも、きっと大丈夫。せつながいるもの。
醜い欲望も身勝手な独占欲も全部はせつなが受け止め、洗い流してくれた。
ごめんなさい、せつな。謝っても傷付けてしまった事は取り返せない。
でも、もう傷付けたりしないから。あたしもせつなを丸ごと包み込みたいから。



身を起こしたせつなは、少し震える唇で羽根のように軽くて優しいキスをくれた。


「ラブは、言ってくれないの?」
「……?」
「私はちゃんと言ったのに。ラブは言ってくれない、どして?」
「……あ………」
いたずらっぽく微笑むせつな。言われてやっと気がついた。
あたし、一度もちゃんと言ってないや。
あたしは一つ大きく深呼吸して…




「あたしは、せつなが大好きです。世界で、一番、せつなが好き。」



今度はあたしからキスを送る。できる限り優しく、でも、
せつながくれたキスよりはちょっぴり深く。



ラせ1-46は、おまけです
最終更新:2013年02月16日 01:36