可愛い人/黒ブキ◆lg0Ts41PPY




「ゆり、可愛い……」

行為の前に、最中に、終わった後に、ももかは幾度となく繰り返し囁く。
時に笑みを含んで。時にからかうように。時に、恐くなるくらい真剣に。
抱き締め、愛撫し、見つめながら。耳元で熱い吐息と共に、ゆりの中に
注ぎ込まれる囁き。

どこが可愛いのだろう?と、ゆりは本気でわからない。
可愛いのはももかの方だろうに。
甘く匂い立つような愛らしい顔立ち。
少し高く、柔らかな心地好い声。
スラリと均整の取れた長身は周りをたじろがせるような華やかさで
他を圧倒しながらも、ふわりと軽やかな親しみやすさを矛盾する事なく合わせ持っている。
そんなももかが、何故こんなにも自分に執着するのかがゆりには不思議だった。

ゆり自身も自分の見た目が悪くない事は知っている。
幼い頃から容姿を褒められる事は珍しくなかったから。
しかしそれは、綺麗だとか整っているとか、その言葉の裏側には
どこか冷たく硬質なイメージが付きまとっているのを常に感じていた。
実際、可愛げの無さには自覚があった。
愛想笑いの一つも見せず、世間話に相槌さえうたなければ、
近寄り難く思われるのも必然だろう。
現に『可愛い』などと言う言葉は、ごく幼い頃を除いては母にすら殆ど言われた事がなかった。


「…ゆり、可愛い……」


唇を啄まれながら、甘い吐息と流し込まれる囁き。
それはゆりの胸の中で紅茶に落とした角砂糖が崩れていくように、
くすぐったい甘さとなってゆりの体を火照らせる。


「……どこが…」


可愛いのよ……?


思わず、聞くともなしに零れてしまった。
殆ど聞き取れないくらいの、拗ねたような睦言。


「だから、そう言うところも…」


一瞬、目を丸くしたももかは蕩けるような笑顔で口付けて来て。


「…んっ、……あぁっ、あ…ん…あっ…もも…かぁ…」
「んー……その声、大好き…」


もっと聞かせてよ。
絡め取った舌から顎、首筋、鎖骨、と唇を滑らせながら、
しなやかな指でゆりの胸の突起を尖らせていく。
指の腹で転がし、摘まんで意地悪く弄くってやると、ゆりの声は艶を増し、
白磁のような肌はとろりと蕩けてももかの肌にまとわり付く。


「可愛いよ、ゆり…。すごく、可愛い……」

「あっ、いやっ…あんっ、あっ、あっ、あっ、駄目…んんっ…んーっ…」


じっと見つめられながら、一番疼いていた部分に容赦の無い快感が襲って来る。
昂ってゆく有り様を余す所なく愛でられ、なぶられる。
ひりつくような羞恥も内側から融かされる快楽には成す術も無い。

「可愛い…ふふっ…気持ちいいの?」


体の中で蠢くももかの指。外側の小さな肉芽をも執拗に捏ね回されると、
抑えられないあられもない嬌声が響く。


「…どこが可愛いかって……?…教えないよ」


熱と快楽に溺れながら、潤んだ瞳に訝しげな色を乗せて意味を問うゆりに、
ももかはゆったりと微笑みだけを返す。


教えないよ………


「可愛い……」


その言葉が、ゆりを蕩けさせるのを知ってるのはあたしだけでいい。

絶対に、他の人には言わせない。

「ゆり。あたしだけ、見てて…」


ゆりは何も言わず、ももかの首を抱き寄せ、唇を求める。
理由なんて、どうでもいいのかも知れない。
ももかだけが、そう思ってくれる。その言葉をくれる。
それが、震えるほど嬉しいから。

「もっと、言って……」


切なく掠れる声に、ももかの胸が震える。
こんなゆりを見られるのは、自分だけなのだから。
ゆりの瞳の中に映っている自分の姿を確かめながら、
ももかは囁きと共にゆりの望む愉悦を与え続ける。


もっともっと、ゆりがあたしのモノになりますように。


ゆりの辛い事、悲しい事、すべてが流されるくらい、あたしでいっぱいになってくれますように。


あたしだけの可愛い人が、もう一人で涙を流す事がありませんように。