「雨中に秘める」/SABI




むきだしになった肩を湿った風が撫で、目が覚めた。


辺りは暗いから、多分まだ夜明け前。
開いた窓から風がカーテンを揺らし、雨の匂いを運んでくる。
どんよりしていた天気は明け方近くになって、雨に変わったらしい。


窓を閉めなきゃと思うけど、人肌であたたまった布団から離れ難い。
顔を壁側に向けると、隣に寝ているせつなは最後に見た時と同じ、
両腕を枕にしてうつ伏せ寝の状態だけど、位置は明らかに奥の方へ寄っている。
その姿勢のまま平行移動したみたいだけど、夜中の間にあたしが隅へと追いやってしまったようだ。


視線を感じたのか、背中が震えせつなが目を覚ます。


「せつな、起きた?」
「う・・・ん・・起きてる」


だけど、言葉ほど頭は覚醒してないらしく、目は瞑ったままだ。


「今・・・何時?」
「何時か分からないけど・・・まだ寝てていいよ」


目は閉じながらも唇が笑みを形作っている、幸せそうなせつなの横顔に口付ける。
半ば眠っているせつなが、あたしの首に腕を絡ませてキスに応える。


このまま何もしなければ、数分後には再び夢の中へと戻るのだろうけど。


「・・窓・・開いて・・・なかっ・・た?」
「うん。でも、大丈夫。雨降っているから」



せつなが閉じていた目を開く。目が開いたもののまだ眠そうだ。


「雨音で聞こえないから?・・・・でも、雨、上がっているじゃない」


せつなの指摘通り、さっきの雨は通り雨だったようで、既に止んでいる。


「声、出さなきゃいいじゃん。それか・・・・自分で窓、閉めたら?」


あたしが反論すると、せつなは黙ってしまう。
せつなが窓を閉めるためには、あたしに跨ってベッドを下りるしかない。


少し逡巡した後、窓を閉めなくても声を出さなければいいという結論に達したらしい。
あたしの首に絡ませた腕を引き寄せ、あたしの唇に口付ける。


体勢を入れかえてキスの主導権を奪い、唇を重ね合わせるだけの軽いキスを繰り返す。
あたしの挑発的な言葉とは正反対の、優しい愛撫にせつなは戸惑ったみたいだけど、
身体に触れたりキスしたことで弾んでいたせつなの呼吸が、ゆっくりと正常に戻る。


胸に置いた手の掌を、触ってと言わんばかりに尖がって主張してくるけど、
胸全体を包み込むように、手を置いているだけ。もう一方の手は寝乱れたせつなの髪を撫で梳かす。
息遣いが元通りになると、唇を押しつけるだけのキスから、せつなの下唇を唇で挟んで、舌先で舐める。
呼吸が平静に戻るまで、その状態のままで愛撫を止め、その愛撫に慣れてくると、次の段階へと進める。


唇を離すと同時に、胸の先端を人差し指と中指の間に挟み、痛くない程度に引っ張る。
快感からというより、驚きの方が大きいのかもしれないけど、
せつなの唇からはため息とも喘ぎともつかぬ声が漏れ、部屋全体に響く。


恨みがましくあたしを見上げてくるけど、その瞳は欲望で潤んでちっとも迫力がない。


「ここで止める?せつな、さっきから眠そうだし」


首を横に振って、せつなが否定する。
あたしだってここでやめるつもりはないけど。


「じゃあ、続ける?」


今度は首を縦に動かし、小さく頷く。
あたしとしては声に出して欲しかったのだけど、
認めたのだからと一応納得し、続きを再開する。


指だけだった胸の愛撫に、唇と舌も加える。
肌の色とほとんど見分けがつかないくらい、薄い桃色の部分に。
あたしの指と唇の愛撫を受け、ほんのり赤く色づく。


一度、唇から漏れた声はとめどなく溢れ、あたしが触れる度、違う音色を奏でる。
せつなしか知らないから、他の人はどうなのか分からないけど、
自制心が強いからか、せつなが声を出すことなんて滅多にない。


「せつな、声出てるよ」


あたしの声を聞いたせつなが息を止め、声を出すまいと必死に耐える。
せつなは頭が良いのだし、ちょっと考えれば分かると思うのだけど、
息を止めても、溜めた息はいつかは出さなきゃいけないし、溜めた分だけ吐く時に大きく音が出る。
正常な判断が出来ないほどせつなが陶酔し、しかも、あたしがそうしたんだってことに喜びを覚える。


尖った先端を唇で挟んで、さっきと同じように軽く引っ張る。
手は胸を離れて、腋から横腹へ移動し、更に身体の中心へと。


声を出せないからか、感じやすくなっているらしく、どこを触れてもいつもより反応が鋭い。
口に手を当てて声を出さないようにしているけど、それでは足らなくなったのか、
手を口に含んで指を噛み、声を堰き止めようとしている。


せつなの手を掴んで頭の横に置き、手首を押さえて両手の自由を奪う。
これで、せつなの手が傷つくことはなくなったけど、
自分の両手も塞がれてしまって、唇しか自由にならない。


身体を起こして、せつなの唇に口付け、手首を押さえていた手を指に絡ませる。


窓からは雨の音が聞こえる。
いつの間にか止んでいた雨が、再び降り出していた。



雨は降り続ける。全てを覆い隠すように。




最終更新:2013年02月16日 17:16