「甘い痛みと独占欲」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY




「おかあさん……」


ベッドの中で、せつなは呟く。ふふっ…と頬が弛む。


「おかあさん………」



もう一度呟き、その言葉が形取る唇の動きをそっと指でなぞる。



(……くすぐったい………)



唇も胸の中も何だかくすぐったい。
そしてほんわりと温かい。


今日、生まれて初めて口にした言葉。
口の中ですうっと淡くほどけて、胸の中に何時までも消えない温もりを
残してくれている。



(…いいな。ラブは……。)



ちょっぴりラブが羨ましくなる。
ラブは物心付くずっと前から、あの温かな言葉を口にしていたんだ。
おかあさん。そう呼んで、あの優しい腕に抱かれて育ってきた。



(だから、ラブもあんなに温かいのかしら……?)



せつなは腕を交差させ自分を抱き締める。
胸の温もりを逃すまいとするように。
この温もりをずっと大事に抱き続けていれば……



(私も、ラブみたいに温かくなれるかしら?)



「せつなぁ……、いい?」



カラリ、とベランダからラブが入って来た。



「…どしたの?」


「あのね……一緒に寝たいなぁって…。」



枕を抱いて照れたように微笑むラブ。
どうしたんだろう?
せつなはそっとベッドの端に寄り、ラブの為のスペースを空ける。



「えへへ…お邪魔しまーす……。」



ラブが潜り込んで来ると、ふわり、とせつなの大好きな匂いが体を包む。
嬉しくなったせつなは、ラブの胸元に頭を擦り付ける。
そんなせつなの甘えた仕草をラブは笑わない。
優しく抱き締め、頭を撫でてくれる。



「ラブ……。」


「なあに?せつな。」



何でもない。
ただ、呼んでみただけ。



せつなは気が付いた。
ラブ、そう呼ぶとさっきと同じくらい温かくなっている自分に。
でも、おかあさん、とはちょっと違う。
胸の奥の柔らかい部分をきゅっと掴まれるような、微かな痛み。
ちょっぴり痛いのに不思議と辛いと感じない。
悲しくないのに泣きたいような、甘い疼痛。



ふふ……、くすぐったい。


これが、幸せって事なのかしら。



………
……………



「おかあさん」、今日、せつなは初めてそう呼んだ。
お母さんは、嬉しそうに少し涙ぐんであたしとせつなを両腕に抱き締めた。



あたし、ちょっぴりヤキモチ感じちゃった。
お母さんと、せつなの両方に。



せつなを抱き締めてるお母さんを見て、
あたしだけのお母さんじゃなくなっちゃった…って。


お母さんに抱き締められて、はにかんでるせつなを見て、
せつなを抱っこするのはあたしの役目なのに……って。



何となく淋しくなって、せつなの部屋を訪ねた。



ベッドに入ると、せつなは甘えたように擦り寄ってくる。



「…ラブ……。」


「なあに?せつな。」


「……何でもない。」



そう言って、あたしの胸のあたりで頭をもぞもぞさせてる。
ちっちゃな子供みたいな仕草を見せるせつなが可愛くて、
あたしは頭を撫でて、頬擦りする。



せつな。そう名前を呼ぶと、その音はキャンディみたいに甘く舌の上を転がる。
そして、胸の中がきゅうんと狭くなったように、少し苦しい。
でもこの頃気が付いた。
胸の中が狭くなったんじゃなくて、せつなでいっぱいになってたんだって。
名前を呼ぶ度に胸にせつなが溢れていく。



(せつなとなら、お母さんを半分こしてもいいかな…。)



その代わり、せつなは全部あたしのものだもんね。



「…せつな?」



もう眠った?



心地よい寝息を感じながら、せつなも自分と同じように思ってくれてるのかな?
と、思ってみる。
だから時々意味もなく、あたしの名前呼ぶのかな?



せつなはだんだん 家族になってきてくれてる。
嬉しくて、少し淋しい。
あたしだけの、特別なせつなも欲しいって思うのはワガママかな?



せつなの可愛い寝顔。お母さんにだって見せたくないって、少し思う。



せつなの幸せの中で、あたしの事、ちょっぴり特別扱いして欲しいな。



せつなの一番でいたいから。