「夕焼けの帰り道」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY




「せつなぁ、お待たせ!」


ラブが慌ただしく駆け寄って来る。
忘れ物を教室に取りに戻っていたのだ。
よくある事。始めのうちはせつなも付き合って一緒に戻っていた。
しかしあまりに頻繁なので、この頃はせつなは先にゆっくり行く。
大抵、大急ぎで往復してきたラブは校門の辺りで追い付く、と言う寸法だ。



「寒っ……!」
ラブがコートの襟を掻き合わせる。もう木枯らしの季節だ。



「マフラーもしてくればよかった。」
「さすがにまだ早いでしょ。それに……」
「??」
「また忘れ物、増えるだけじゃない?」



ラブはぷぅと子供のようにほっぺを膨らませている。


「まだそんなに寒くないじゃない。」
せつなはまだ制服のブレザーだけだ。
少し肌寒い気がするけど、歩けば温まるし。



「ラブは寒がりなの?」
「そーだよ。暑いのはヘーキなんだけどなぁ。」



いつもの帰り道。他愛ないお喋り。
学校で皆でワイワイするのも楽しい。
美希やブッキーと四人で過ごすのも大好き。
おじ様やおば様と家で過ごす時間もとても幸せ。
でも、ラブと二人きりで歩くこの時間はせつなのお気に入りだった。




「……ふわあ~…。」
「…ラブ?」



ラブが鼻をひくひくさせながらフラフラと、ある店先に吸い込まれて行く。



(??お肉屋さん?……今日、買い物の予定なんかあったかしら?)



「エッヘッへ~…!」
満面の笑みを浮かべるラブの手には揚げ立てのコロッケが一つ。



「もう!ラブったら。」
「だあってぇ……。あんまりイイニオイでさぁ!」



確かに、言われてみれば辺りには香ばしい脂の匂い。



「昨日もドーナツ買ってたじゃない。お小遣い、無くなっちゃうわよ。」
それに、もうすぐ夕御飯なのに。
ラブはそう無駄遣いするタイプではないが、事が食べ物になると
理性が働かなくなるらしい。
まぁ、それが無駄遣いで無くてなんなのだと言われればそれまでだが。
一つ一つは少額でもあまりに頻繁だから、結局いつも金欠でぴーぴー言う羽目になる。



「ちょっと。ラブ、聞いてる?」
お小言モードに入ったせつなを気にする風もなく、ラブはコロッケと同じくらい
ホクホクした笑顔を浮かべている。
いつもせつなはこのシアワセ顔で何も言えなくなるのだ。




「ハイ!」
「……!!」
「半分こね!」
「…あ………ありがと…。」



どーいたしまして!
ニヘへ!といつもの笑い声。



ラブは右手、せつなは左手でコロッケをかじりながら歩く。
カラッと揚がった衣が歯の間でカリカリと砕ける。
ポテトが甘く舌の上で蕩ける。
前に家で作ったコロッケは、もっとホクホクして塩味がしたっけ。
どっちも美味しいけど、こんなに味が違うの、どして?




「ラブ、足りないんじゃない?」
「んー?いいの。半分こするともっと美味しいよねぇ。」
「……。」
「それに沢山あるものじゃなくって、少ないものを分け合うのが
愛ってもんなのよ。」
「……なにそれ?」



口の回りに衣のクズを付けたまま、真面目な顔をするラブが可笑しくて。



「……?!」



そっと手が握られる。
そのまま繋いだ手はラブのコートのポケットへ。
ポケットの中で、ラブはせつなの手を指をしっかり絡め直す。



繋いだ手から熱が伝わる。頬と耳が熱くなる。



「あったかいね。」
「………うん。」
「おいしかったね。」
「………うん。」
「でも、せつなの作ったコロッケはもっとおいしーよ。」
「……明日、……作る。」
「えへへ、やったぁ!」




幸せゲットだね!
そう言うラブの横顔もほっぺがピンクに染まっている。



二人の影が夕焼けに長く伸びる。
もうすぐ家。でも、もう少しだけ………。



ゆっくり、ゆっくり、歩く。
最終更新:2013年02月12日 17:16