「2連敗」/◆BVjx9JFTno




「馬鹿っ!もう知らない!」


あたしはそう言って通話を切り、
携帯の電源も切った。


電話の先にいる先輩の後ろから
話しかけている女の子の声を、
あたしは聞き逃さなかった。


先輩の言い訳に加えて、その女の子まで
電話に登場して、ひと騒ぎ。



やっぱり、遠距離だと
心まで離れてしまうのかな。







授業もほとんど耳に入らないまま、
昼休みに学校を抜けた。


公園のベンチで、給食のパンを鳩にあげながら
何を考えるでもなく、惚けていた。



遠くに、下校の声が聞こえる。
授業も終わったようだ。



「ここにいたのね...」


後ろから声が聞こえた。
びっくりして振り返ると、せつなちゃんの姿があった。



「急にいなくなるから、みんな心配してたわ」


せつなちゃんが横に座る。


「...ひとり?」
「ラブはまだ、その辺を探してるわ」



せつなちゃんが、少し
あたしの近くに寄る。



「何か...あったの?」
「...」



言い出しにくくて、
気まずい沈黙が流れる。




二学期になって転入してきたせつなちゃんは、
またたく間にクラスの人気者になった。


清楚な雰囲気で可愛いし、頭もすごく良い。
教科書が丸ごと頭に入っているようだ。


おまけに、運動神経の良さはクラスでもピカイチ。
クラスマッチのバレーボール代表に選ばれるなんて、
当たり前に近かった。


男子との練習試合では、男子顔負けの
強烈なスパイクを何度も決めていた。


せつなちゃんが前衛に来たときは、男子は
防戦一方だった。



あたし達女子から見ても、憧れのタイプ。



でも、あまりに万能だから、何だか
遠い人に感じていた。



別の世界の人みたいに。






「...あたし、振られちゃったみたい」


胸が、きゅんと詰まる。


「彼氏が、別の女の人と付き合ってたの」
「そう...」



「あたしが好きだった人が、
 あたしを好きじゃなくなってて...」



言葉にすればするほど、悲しくて、
自分が情けなくなる。



「それも知らずに、楽しそうに電話かけて...
 あたし、何だかバカみたい...」


涙がこぼれてきた。



せつなちゃんに見られたくなくて、
顔を両手で覆った。







頭に、手が回された。


暖かくて、やわらかい感触の中に
ゆっくりと引き込まれた。



どうなっているのか、わからなかった。
覆っている手をどける。


せつなちゃんに、頭を抱かれている。



「せつな...ちゃん?」


「泣くのは、恥ずかしいことじゃないわ...」



せつなちゃんの手が、
あたしの頭をそっと撫でる。



遠い存在じゃなくて、
とっても近くにいた。


そして、とっても暖かい。



ぴんと張っていた心の糸が、
ゆっくりと緩む。



しばらく、せつなちゃんの胸に
頭を預けたまま、声を上げずに泣いた。


せつなちゃんは、
ずっと頭を撫で続けてくれている。






どのくらいそうしていただろうか、
ようやく、涙が止まった。


せつなちゃんの、
胸の鼓動が聞こえる。


暖かい感触。
やわらかい感触。
いい匂い。


だんだんと、暖かさが
胸のドキドキに変わる。


あれっ...
あたし、失恋したばっかりじゃなかったっけ...?




頭を起こす。
せつなちゃんと目があった。


吸い込まれそうな大きな瞳に、
胸が音を立てて鳴る。



「落ち着いた?」
「うん...でも、どうして...」


「私が、いつもこうしてもらっていたから...」



せつなちゃんの微笑みが、
とってもまぶしく見えた。


胸の鼓動が、さらに速くなる。



せつなちゃんをこうやって抱きしめて
くれる人って、どんな人なんだろう。







「あ!いたいた!由美ーっ!」


ひときわ大きな声が響き、
ラブがこっちに走ってきた。


「心配したんだよ!何かあったら相談してよぉ」
あたしの手を取り、顔を近づけてくるラブ。



「ごめんね。ちょっと色々あって...
 でも、せつなちゃんと話してたらすっきりしちゃった」


「そっかあ、良かったね!あたしも悩んでるとき、
 せつなと話すと癒されるんだ」


「ラブも悩むことあるの?」
「えー、何それー」


ふくれっ面のラブを見て、せつなちゃんとあたしは
一緒に笑った。



「由美、気晴らしにドーナツ食べに行こうよ!」
「うん!」



ラブが走り出す。



せつなちゃんの横をすりぬけるラブの手が、
ちょっとだけ、せつなちゃんの手に触れた。


ほんの一瞬だったけど、お互いの
指先が絡んだのを見た。


それは、まるでお互いの想いを
確認し合うかのような、艶めかしい絡み方。



なるほど、ね...。



あたしは何だか、もう一回
失恋したような、妙な気分になった。