「少しだけ遠く」/◆BVjx9JFTno




昼下がりの、
気持ちいい風。


子供たちが、ボールを手に
遊んでいる。



同時に背伸びをして、
お互いに、くすっと笑う。



「すごいよせつな!
 とっても気持ちいいよ!」


「嬉しいわ。
 ラブにそう言ってもらえると。」



せつなに連れてきてもらった、
復興中のラビリンス。



四つ葉町をモデルにした、
広い丘。



草の香りが、鼻をくすぐる。




「ねぇせつな、あの建物、何?」



穏やかな広場に似つかわしくない
無骨な建物。



その形は、あたし達がここで
闘っていた時に、よく見ていた形。



はずみで聞いたことを、
後悔した。



しばらく返事をしなかったせつなが、
ふっと顔を上げた。



「...行きましょ、ラブ」





胸の鼓動まで聞こえそうな、
静まりかえった空間。



冷え冷えとした空気。



「せつな、ここって...」



「訓練施設、だったの」



せつなが、壁を
見つめながら話す。



「私が四つ葉町に来る前、
 ここで訓練されたの」



壁に反射する声。




語られるのは、
せつなの、イースの、過去。



幹部兵士として派兵される前に、
徹底的に訓練されたこと。



脱落者は、次の日から
姿を見なくなったこと。



当たり前のように、
空席が増えていったこと。



この頃、デリートホールの存在を
知ったこと。



デリートホールの目の前で行われた、
直接の戦闘訓練。



自らの手で、何人も
落としたこと。



命が、軽い世界だった。



挙げ句の果てに、せつな自身も
一度、命を失った。




「ごめん、せつな...」



また、思い出させちゃった。


聞くんじゃ、なかった。



最低だ、あたし。




下を向いたあたしの手を、
せつなが握ってくる。



「大丈夫よ、ラブ」



顔を上げる。


目の前の、せつなの顔。



はっとした。



四つ葉町で時々見せていた、
後悔に揺れる瞳じゃない。



強く、優しい
瞳の光。



今までの、悔い。
今までの、悲しみ。



湖水のように、たたえたまま
それでも、強く光る決意。



全部飲み込んで、
前を向く。



みんなを、
必ず幸せにする。




「私、ここへ戻って、
 あらためて気づいたの」



「笑顔と、幸せにあふれた世界にすることが、
 私が出来る、たったひとつのことだって...」



「うん...」



「精一杯頑張るって、決めたの」



あたしなんかよりも、
ずっと大人だ。



ぎゅっと、手を握り返す。





手を繋いだまま、建物を出た。



「あっ!お姉ちゃんだ!」
「遊ぼ!遊ぼ!」



子供たちが、せつなの元に駈け寄る。



「いいわよ、何して遊ぼっか?」


離れたせつなの手は、
たちまち子供たちに取られる。



せつなはもう、ラビリンスに
しっかりと、足を着いている。



せつなの居場所は、
ここなんだ。




「お姉ちゃんも!」


あたしの手も、子供たちに取られる。


「よーし、あの丘の上まで競争だよ!」
「わーい!負けないよー!」



みんなで、いっせいに走る。



先を走る、せつなの後ろ姿。



遠くなる。




ふいに、
視界がかすんだ。



少し乱暴に、目をこする。



よかったね、せつな。



嬉し涙だと、
言い聞かせた。