「without you」/◆BVjx9JFTno




「ふぅー、食べ過ぎたよー!」


ベッドに転がり、お腹を撫でる。


「もう、すぐ寝ると消化に悪いわよ」


せつなが、微笑みながら
ベッドに腰を下ろす。


ダンス大会優勝のお祝いで、お母さんが
たくさんのごちそうを作ってくれた。


「おいしかったねー!」
「ええ、すごくおいしかったわ」


曇りのない、せつなの瞳。


せつなは、自分の幸せを
見つけた。


それを叶えるために、
もうすぐ旅立つ。




「せつな、耳かきしてあげるよ!」


あたしの耳かきは、家族にも好評。
せつなも、お気に入り。


膝に、せつなの頭をのせる。


奥まで行かないように、
軽く耳かきを走らせる。



「気持ちいい...」


しばらくすると、せつなが
寝息を立て始めた。



反対側、
出来なくなっちゃった。



しばらく、せつなの
髪を撫でる。



頑張ってね、せつな。


あたし、応援してるからね。




色んなことが、あった。



幸せが訪れると、
占ってもらった。



幸せのもとを、
ふたりで選んだ。


ふたつのことを叶えようとしていた
あたしを、心配してくれた。


心配してくれた本人が、
どんどん、やつれていった。



闘っていた、相手だった。



ほんとうの姿を、取り戻せるように
思いのたけを、ぶつけた。



いなくなった悲しみと、
また会えた喜び。




一緒に、ダンスをした。


学校に行った。


旅行にも行った。



だんだんと増える、
穏やかな、笑顔。


いつしか、ほんとうの
家族のように、結びついた。



そして、自分で、
自分の幸せを見つけた。



「せつなの幸せって、何?」


今なら、答えられるよね。



髪に指を入れ、
ゆっくり梳く。



少しだけ、せつなの
輪郭が、かすんだ。




どのくらい経っただろう。


せつなが頭を持ち上げた。


「ごめんなさい、つい気持ち良くて...」



感覚が無くなっていた足に、
血がめぐり出す。


痒いような、くすぐったいような感覚に
一生懸命耐える。



「どしたの?」
「あ、足がしびれちゃって...」


鈍い動きでベッドに這い上がるあたしを見て、
せつなが珍しく、いたずらっぽい笑みを浮かべる。


「ひっ...!」


痺れている足を、つつかれる。


全身に、しびれが回る。


「ちょっ!タンマ!今だめ!」


懸命に逃げるが、うまく動けない。



せつなは、くすくす笑いながら、
容赦なく両手で足をくすぐる。


「あははは!まいった!せつな!許して!」


しばらく、せつなに追い回されて
ベッドの上を転げ回った。




足のしびれがおさまってきたころ、
ふっと、せつなが覆い被さってきた。


少しひんやりとした、せつなのほおが
あたしのほおに当てられる。



お互い、身動ぎひとつ
しなくなった。


急に、部屋の音が消えた。



窓の外で、
強い風が吹いている。


春が近い。



風の音と、ふたりの
息づかいだけ。



せつなが、時々頭を少し動かして
ほおをかすかに押しつけてくる。



あたしも、せつなのほおの感触を
確かめるように、軽く、すり寄せる。



精一杯、頑張るわ。


応援してるからね。



口から出る言葉は、これからも
同じだろう。



ほおを通して伝わるのは、
もうひとつの思い。



あたし達は、しばらくの間、
口に出せない思いを伝えあった。