プリキュア ドリームスターズ Ver.0.9 -Quartet Branche- カルテット




 ふいに、足元が揺れた。
「エコー!」
 キュアエコーが巨大な狛犬を必死で止めている。その腕も足も震えていた。
「プリキュア ミュージック・ロンド!」
 キュアリズムが振り下ろしたベルティエから光のリングが飛んだ。それはブーメランのように狛犬の顔面をかすめていった。狛犬は、怯えたような声を上げると慌てて引っ込んだ。まるで猫のように自分の鼻先をさすっている。
「エコー、手伝って!」
「はい」
 キュアリズムはキュアエコーの手を握った。そして確信した。できる。
 キュアエコーが真剣な瞳を向ける。この、熱くて強い思い。それは彼女たちプリキュアが等しく持っているものだ。
「私たちの『光』であの繭を壊すの」
「それは、どうやって」
「わたしに合わせて――あっ!」
 狛犬が突っ込んできた。ふたりはそれを避けるように後ろにジャンプした。着地。カッ、カッ、カッと靴音が響いた。キュアリズムが、まるで狙いをつけるように狛犬へ鋭い視線を投げた。
 合わせろ、と言われただけだ。キュアエコーには何をどうすれぱいいのかわからない。
 だが、強くつないだ手から、力が伝わって来る。それはキュアエコーの中の光を呼び起こし、増大させる。同じことがキュアリズムの中でも起こっている。
 ふたりは、違う。キュアリズムが、キュアメロディ、キュアビート、キュアミューズとするのと同じ技を繰り出すことはできない。
 だが、ふたりは同じプリキュアだ。それは決定的な問題にはならない。
 つまり、新しいことができる。
「行くわよ!」
「はい!」
 つないだ手から、小さな、しかし純白に輝く光の輪が生まれた。それは二人の前で回転しながら大きくなり、光を強めていく。
 輪の成長が止まる。しかし回転速度ばますます上がり、巻き込まれた空気が風になって、キュアエコーとキュアリズムの長い髪を暴れさせた。
 光の輪が辺りを照らす。強すぎる光に風景が白く染まった。
「プリキュア ハートフル・ハーモニー!」
 それははじかれたように飛び出すと、二つの繭に向かって行った。白い風景が切り出されて移動していく。リングは繭を中に取り込むと天に向かって上昇を始めた。繭は花びらのようにリングの中で回っていたが、突然、弾けた。
「…」
「え」
「どういうことだ」
「なんだ、これぇ!」
 当のキュアエコーとキュアリズムがあっけにとられている。エンエンは何も言えない。グレルの大きな声の後、烏天狗の悲鳴が響いた。
 眉が割れ、その中から飛び出したのは、雪城ほのかと美翔舞ではなかった。
 パラシュー卜でもつけているかのようにゆっくりと降り立つふたり。
「ありがとう、エコー」
「ありがとう、リズム」
「えーーーー!!」
 烏天狗がまた悲鳴を上げる。
「変身できないんじゃなかったのか!」
 キュアホワイ卜が静かに笑った。
「そんなことは言っていない筈よ」
「だって。
 だって!」
「世界に光がある限り、私たちはいつでも現れるわ」
「ホワイト! イーグレッ卜!」
 パートナーがいなければ変身できないはずのキュアホワイ卜とキュアイーグレッ卜が目の前にいる。烏天狗だけではない。誰もが驚いていた。
 キュエコーとキュアリズムの、新しい光が奇跡を起こしたのだ。
 四人が並んだ。
「繭の中でいろいろ考えてわかったわ。
 何もかもこの烏天狗の仕業なのよ」
 キュアホワイトが言った。
「何もかもは言い過ぎだろ!」
 烏天狗の抗議を相手にしない。
「どういうつもりか知らないけど、烏天狗は『白いもの』をコレクションしようと考えた。
 まずは雪」
「そうか。
 だから今年の冬は雪が少なくて暖かったんですね」
 キュアイーグレッ卜も、すべてを理解したようだった。
「桜が咲かなかったのもそのせい」
 桜だけではない。春に咲く花は、一定の寒さを経験しなければ花をつけられない。烏天狗が雪を奪ったおかげで気温が十分に下がらず、桜は蕾を成長させることができなかったのだ。
「そんなの僕の知ったことじゃない!」
「自然のリズムを壊すなんて、絶対に許せない!」
 キュアリズムが激しく指を差して責め立てる。
「行くわよ、みんな!」
「はいっ!」
「光の使者、キュアホワイ卜!」
「煌めく銀の翼、キュアイーグレッ卜!」
「爪弾くはたおやかな調べ、キュアリズム!」
「思いよ届け、キュアエコー!」
「こ、こ、こ、狛犬!」
 烏天狗は狛犬のお尻を蹴りつけた。狛犬は、四人の白いプリキュアから発せられる、彼らにとっては不快極まりない光に毛を逆立てて唸り声を上げた。
「はぁぁぁぁ――」
 プリキュアの体から光が滲みだす。それは陽炎のようにゆらゆらと上昇すると、辺りを包み込んだ。
 やがて、四人の中央に集まり始める。プリキュアたちが指差す先の一点に凝集した白い光は、さっきとは逆に、どんどん小さくなっていく。グレルとエンエンは眩しさに小さな手をかざした。
 次の瞬間。
「プリキュア ホワイ卜・レインボー!!」
 光の点が爆発した。その、光の爆風は、彼女たちが広げた手に従い、狛犬と烏天狗に殺到する。
 烏天狗は慌てて狛犬の体の下に潜り込んだ。
「うわぁぁ、ぁぁぁ、ぁぁ!」
 それは爆発であると同時に吹雪でもあった。光の吹雪は、狛犬と烏天狗の力を奪っていく。狛犬も、その下に隠れた烏天狗もまばゆい吹雪の中でガタガタと体を震わせていた。
 永遠に続くかと思われた光の吹雪がふっと消える。そこにいたのは、小さな二匹の狛犬と、その下でぐったりしている烏天狗だった。
 キュアイーグレッ卜が小さく息を吐き、キュアリズムと微笑みあった。グレルとエンエンがキュアエコーに駆け寄る。
「すごいミポ!」
「びっくりしたチョピ!」
 と、キュアホワイ卜が足場を固めた。
「お前たち…」
 烏天狗が体を起こそうとしている。なかなか起き上がれないのは狛犬が上に載っているせいだと気付くと、乱暴にそれをどけた。狛犬はその陰に隠れるように身を縮めている。
「お前たちなんか…。
 あっちへ行けーっ!」
 烏天狗は怒りに任せて、どこから取リ出したのか大きな扇を振った。その息も絶え絶えの様子とは裏腹に強い風が吹き荒れる。プリキュアたちの体が浮いた。
「あっ」
「グレル! エンエン!」
 キュアエコーがグレルとエンエンを抱きかかえる。そしてキュアホワイ卜達もお互いに手をつないだ。
「みんな、しっかり!」
「手を放さないで!」



最終更新:2017年08月15日 07:57