プリキュア ドリームスターズ Ver.0.9 -Quartet Branche- 狛犬




「おぉ…」
 グレルが思わず声を上げる。エンエンも、首が痛くなるのではないかと思われるほど見上げていた。
 近所の神社に立っている桜の木。一足早く花をつけている。
「あの花も頑張ってるんだね」
 口の悪いグレルも頷いた。エンエンもうれしそうだった。
「でも、あゆみ、先にお花見しちゃっていいのか? みんなで見るんだろ?」
「大丈夫だよ。ほのかさんたちも下見してるんだし」
「そうか。でもこれくらいにしておこうぜ」
「みんなと一緒がいいよね」
 あゆみは小さく笑った。グレルとエンエンがこんなに義理堅いとは。それだけ、プリキュアや妖精たちに会えるのが楽しみだということだろうか。
「じゃ、帰ろうか」
「おう。
 …?」
 一緒に歩きだしたが、グレルは時折、後ろを振り向いた。
「どうしたの、グレル」
 エンエンが言う。グレルが首をかしげているので、エンエンも後ろを振り向いた。別に変なものはない。狛犬がいるだけだ。
「なんか気配がするんだよな…」
「なぁに、グレルはお侍さんになったの?」
「なぁ、あゆみ。
 狛犬って黒いのもいるのか?」
「うーん、石の種類に寄るんじゃないかな。大体は灰色だと思うけど、黒いのもあったりするかも」
「そうか…」
「地面に置いてあったりする?」
 エンエンも狛犬が気になるらしい。
「どうだろう。普通は台の上にいると思うよ」
「ふぅん…」
「動いたりするか?」
「まさか、石の彫刻だよ」
「でもさ」
 一体、どうしたというのだ。あゆみは振り返った。
「…」
 グレルとエンエンが言ったとおりだ。
 黒光りする狛犬が地面の上にチョコンと座っている。
「なんだろう…」
〈キュアエコーだな〉
 あゆみは伸ばしかけた手を止めた。グレルが腰の剣を抜く。エンエンも身構えた。
「あなたは」
〈烏天狗様の命令で、お前をさらいにきた〉
 体を起こす あゆみ。この狛犬は一体、何を言っている? いや、これはきっと狛犬ではない。
〈烏天狗様は、白いプリキュアをコレクションしている。
 キュアホワイト、キュアイーグレットはゲットした。次はお前だ〉
「なんですって?!」
〈来てもらうぞ!〉
 黄狗が口を開ける。
〈アーッ!〉
 猛烈な風が起こった。胸元のリボンが暴れる。
「グレル! エンエン!」
「あゆみ!」
「あゆみちゃん!」
 三人を手をつないだ。
〈あゆみ!〉
「フーちゃん、お願い!」
 三角形の中心で光が破裂する。
 淡いクリーム色のツインテール、白いドレス。キュアエコーだ。
〈え?!
 変身できるなんて聞いてないぞ!!〉
「ホワイトとイーグレットを返して!」
 強い風に腕で顔をかばいながらキュアエコーは叫んだ。
〈やなこった!
 あ、痛!〉
 エンエンが投げた石が当たり、黄狗は情けない声を上げた。
「エコー、こいつ、弱っちぃぞ。やっちまえ!」
 キュアエコーは、両足に力を入れた。
「プリキュア ハートフル・エコー!」
 真っ直ぐに天に届く光が嵐を止めた。
〈えっ?
 えぇっ?!〉
 黄狗はさらにうろたえている。
「さぁ、ホワイトとイーグレットを――」
〈おぼえてろー!〉
 黄狗は小走りになったかと思うとやがて土煙を上げて走り去った。
「逃げるな!」
「逃げ足早いね…」
 なんだったんだ、と思う。
「エコー、あいつ、プリキュアをコレクションしてるって」
 我に返る。あれは確かにそう言っていた。
「助けに行こうよ!」
 キュアエコーが頷く。
「その前に。
 奏ちゃんに連絡してみる」
 コレクションの対象は「白いプリキュア」らしい。キュアホワイトとキュアイーグレットはすでに「烏天狗」の手に落ちている。
 もう一人の「白いプリキュア」、キュアリズムのことが心配だった。



最終更新:2017年08月15日 07:52