プリキュア ドリームスターズ Ver.0.9 -Quartet Branche- 烏天狗




「あれぇ?」
 それは、妙に高い声を上げた。
 青白い顔。
 ギョロリと大きな目。
 そして、高い鼻。
 辺りは雪が積もっている。だが、積もっているのはその区画だけだった。直径 5m ほどの円の外側には明るい緑色の芝が広がっている。
「…。
 あなたは、誰」
 その雪に体を横たえていた ほのかが目を覚ます。ほのかは、自分の体をさするより先に、舞を揺り起こした。ふたりは、それを睨みつけた。
「僕は、烏天狗」
「烏天狗…?」
 本で見た「烏天狗」とは違うような気がする。だが、本人がそう言っているのだから、そうなのだろう。それに、後ろに黒い体を横たえているのは、あの狛犬だ。自分たちに害を加えるものであることは間違いがない。
「そぉんな怖い顔しないでよぉ」
 烏天狗は体をくねらせながら言った。
「僕は、きれいなものや、可愛いものが大好きなんだ。
 今はね、白いものがマイブーム」
 本を取り出す烏天狗。
「それでぇ、これを参考にしてみたんだ」
「それは…」
 烏天狗が手にしているのは「プリキュア教科書」だった。
「君は、雪城ほのか、キュアホワイトでしょ?」
 ほのかは無言で睨み返した。
「で、君は美翔舞、キュアイーグレット」
 舞の瞳にも同じ敵意がこもっている。
「でもおかしいなぁ、白くないんだよなぁ。これじゃコレクションの意味がないよ…」
「コレクション?」
「そういうこと…」
「せっかく、君たちのために雪を用意したんだよ。
 白い雪の絨毯の上に白いプリキュアが勢揃いしたらきっときれいだろうなぁ…。
 って思ったのに。
 なんで白くないの?!」
(プリキュアをコレクション?)
「ねぇ、変身してよ。
 白いプリキュアに」
(ふざけないで)
 ほのかと舞は知らずに手をつないでいた。変身できるものならしたい、という気持ちがそうさせたのかもしれない。
 お互いの手からは、暖かさと強さが伝わってくるが、それはそれぞれのパートナーとは違うものだった。プリキュアになるには、ほのかには なぎさ、舞には咲が必要だった。
「早く変身してってばぁ!」
 烏天狗は地団太を踏んだ。
「誰があなたなんかのために変身してあげるものですか」
「え?」
「そんなことしたって、あなたを喜ばせるだけだわ。お断りよ」
「意地悪だなぁ、もう」
 プリキュアの癖に、とぶつぶつ言う烏天狗。
「あれ」
 振り向く。
「ひょっとして、ふたり一緒じゃないと変身できない、とか」
 握り合った手に一瞬、力がこもる。
「キュアホワイトにはキュアブラック、キュアイーグレットにはキュアブルーム。
 お友達がいないとだめ?」
「どうかしらね」
「教えるわけないじゃない」
「ですよねー」
 烏天狗はプリキュア教科書をパラパラともてあそんだ。
「呼んでみたらわかるかもしれないわよ」
 ほのかが言った。舞は、意外な言葉にちらりとほのかを見た。だが、その意味はすぐに分かった。
「うーん。
 黒とか紫をここに入れるのは本意じゃないんだけど、君たちが白いプリキュアになるためにはそれが必要だって言うんなら、しょうがないのかもしれないなぁ」
 烏天狗は後ろの狛犬を起こした。
「お前たち、ちょっとさっきの世界に行って――」
(かかった)
 ほのかが呟く。
「とか言うとでも思ったぁ?!」
 突然、振り向く烏天狗。
 その手を振ると、烏の翼で風を巻き起こす。
「人を騙そうとする子にはお仕置きだ!」
 さっきの狛犬のものとはけた違いの嵐が吹き荒れる。それは足元の雪を巻き込んで吹雪となった。ほのかと舞は、息もできずにいたが、やがて風は起きたときと同じように唐突に収まった。
 そこには、二つの白い繭が横たわっていた。
「そこでおねんねしてなさい」
 烏天狗はまたプリキュア教科書を開いた。
「相棒がいないと変身できないんだとすると、面倒くさいなぁ。
 でも、諦めるのも嫌だし。
 とりあえず、集めるだけ集めるか」
 ページをめくる手を止める。烏天狗は、あるページを狛犬に示した。
「今度は、これを持って来て。
 あ、黄狗一人でいいよ。向こうは変身できないんだから」
 黄狗が姿を消した。
「これは、なかなかのレアアイテムだよ」
 烏天狗が舌なめずりをして笑った。