プリキュア ドリームスターズ Ver.0.9 -Quartet Branche- ほのか




《ほのか?》
「遅いよ、なぎさ。
 私、もう神社に着いちゃった」
《ごめーん。
 あゆみちゃんから電話があってさ》
「あゆみさん?
 元気だった?」
《うん。お花見、楽しみにしてるって》
「よかった。
 じゃ、私が一人で下見しておくわね」
《怒んないでよ。急いで行くからさ》
「はいはい」
 雪城ほのかはその木を見上げた。大きく枝を広げた桜の木。まだ蕾だが、これが咲いたら壮観だろう。みんな喜んでくれるに違いない。
 だが、ここまで見事だと花見客も多いかもしれない。何か別の楽しみ方も考えておいた方がいいだろうか、とほのかは辺りを見回した。
「先にお参りしておこうかな」
 なぎさを待っていたらいつになるかわからない。そう言えば、どこにいるか聞かなかったな、と思いながら、ほのかは賽銭箱に五円玉を投げ入れて手を合わせた。
〈間違いないな〉
 ほのかは少し顔を上げた。今の声は?
〈そうだ。間違いない〉
「ほのか…嫌な気配がするミポ…」
「うん…!」
 ほのかは身構えた。狛犬が動いたような気がする。
〈あ、気づいた〉
〈お前が下手なんだよ〉
「あなた方、何者?」
 石にしか見えなかった二体の狛犬が鮮やかな黒に変わった。
「ほのか!」
「まさか、ザケンナー」
〈ざけんなー?〉
〈知らんなー!〉
 二体の狛犬が大きく口を開けた。
〈アーッ!〉
〈ウンッ!〉
「あっ」
 風が起こった。台風のようだった。胸元のスカーフがバタバタと音を立てる。ミップルのコミューンも激しく揺れた。ほのかは本能的に体を低くしたが、靴はじわじわと地面を削って行った。
「く…あぁっ!」
 ほのかの足は、ついに地面を離れた。高く巻き上げられたその体は、青い空に突然現れた「扉」に吸い込まれて行った。
 やがてあたりは、そんな強風が吹き荒れたとは信じられないほどの静けさを取り戻す。タッタッタ、と聞こえてくるのは石段を上がって来る美墨なぎさの靴音だった。
 だが、そこで待っているはずの ほのかの姿はなかった。鞄だけが落ちている。
「ほのか…?」



最終更新:2017年08月15日 07:45