「おうちでゆうごはん」/◆BVjx9JFTno




「タルト、シフォン、おいで!」


「おぉ、うまそうな匂いやなぁ」


タルトが、引き寄せられるように
入ってきた。


今日は、お父さんもお母さんも
お仕事先の集まりで、出かけている。


夕ご飯を、ラブと私で作った。
タルトとシフォンも、一緒に食べよう。


食卓から、湯気が
立ち上っている。


「ラブとせつなの、スペシャルシチューだよ!」


「わぁ、こらあったまりそうやな」
「キュアー!」


たまねぎ、にんじん、じゃがいも。
とり肉、ほたて貝、ブロッコリー。




「いただきまーす!」


いっせいにスプーンを口に運んだ。



「わぁ...」


ひと口食べて、私は思わず声をあげた。


すべての具が、やさしく煮えている。


じゃがいもは、口の中でほろっと崩れる。
にんじんの優しい甘みが染みる。


ほたて貝から出た出汁が、
シチューに溶け込んでいる。


「ピーチはん、パッションはん、
 こらうまいわ。最高ですやん」


タルトが目を輝かせている。


「はい、シフォンもどうぞ」


ラブがスプーンに息を吹きかけ、
シフォンに食べさせる。


「らぶ、おいしい!」


シフォンも上機嫌。




「何だか、はじめてせつなとレストランに
行ったときを思い出すね」


「ふふっ、あの時、ラブったら
 ここで食べてるみたいに、ご飯おかわりーって...」



はっとした。



あの時。


私は、初めて心から笑えた。


笑っている自分に、驚いた。


ラブは、わざと...。



雨の中の闘い。


覚悟をしていたものの、ピーチは
容赦のない拳、肘、足を飛ばしてきた。


ガードの上からでも、響いた。


痛みは、なぜか体ではなく
心に来た。



途中から、気づいた。


ピーチが、ラブが叩いているのは
私の体ではなく、私を取り囲んでいる殻。


一発ごとに、殻にひびが入る。



信じていいの?
この殻を、破ってもいいの?



ピーチに叩かれた殻が、
崩れ出す。


素直に、なっていい。
本当の、私でいい。



私は、自分で殻を破るべく、
渾身の力を込めた。


体が、赤い光に包まれる。


拳を出す。
ピーチの拳と、ぶつかる。


殻が、粉々に砕けた。




「ラブ...あの時って...」


「ん?...にはは...」


やっぱり。



あの時、私は初めて
自分から、足を踏み出した。


陽が、あたっている場所へ。


そこにあふれる、
まぶしいほどの笑顔。


固まっていた心は、ゆっくりと溶け、
涙となって流れ落ちた。



「ええなぁ、ワイもアズキーナはんと
 シチュー食べたいなぁ」


「今度、向こうにも持っていってあげようよ!」
「そやな、ドーナツも一緒にな」


強い風が吹き、窓ガラスが
音を立てた。


でも、みんなで囲む食卓は
とろけるように暖かい。



シチューに、少しだけ
塩味が混じった。