「昼下がり」/◆BVjx9JFTno




ごまめ。
数の子。
黒豆。


お膳の中には、変わった名前の
食べ物が、たくさん入っている。


煮物の仕込みや、お膳への
盛りつけは、ラブと私で手伝った。


「あぁーやっぱり正月はこれだなぁ!」


お父さんが満面の笑みで、
お雑煮のお餅を伸ばす。


家族で、のんびりお正月。


座卓を囲み、みんなで
おせち料理をつまむ。


お屠蘇という、薬酒を
縁起物として、いただく。


薬っぽさが少しあるが、
甘い味で、おいしい。


でも、さっきから何か
視界が回っている感じがする。




目が覚めた。
天井が見える。


テレビの音が、小さく
聞こえている。


少し、眠ってしまったようだ。


体に、何かが
掛かっている。


毛布。


眠った私に、いつの間にか
掛けてくれていた。


思いやりに、心が
暖かくなる。




暖かな気持ち。


初めて知ったのは、
あの夏の夜。


囲んだテーブルから
立ち上る湯気。


湯気の向こうから
見える、笑顔。


私のすぐ横で、
輝く笑顔。



おいしいと、思える。


笑顔に、なれる。


受け入れてくれる。


乾き、行き場を失っていた
心に、光が届く。




次の瞬間、目にしたのは
人々の幸せが、奪われる光景。


それは、今まで
私がしてきた光景。


足が、すくむ。


逃げまどう人々。
笑顔を失う、人々。


懸命に闘う、ピーチ。




私が、得たもの。


みんなが、望んでいるもの。


幸せを奪う権利なんて、
誰にも無い。


私の心に届いた光が、
力となって満ちる。



私が、幸せを守る。



少し前までは、触れることすら
出来なかった、リンクルン。


しっかりと、握る。


まばゆいほどの、赤い光に
包まれる。


私は、この生き方を選ぶ。




体を起こす。


寝息が、交錯している。
みんな寝てしまっているようだ。


お母さんだけ、
毛布がかかっていない。



ありがとう。



自分の毛布を、お母さんに
そっと掛ける。


お父さんの毛布も、
少し直す。


ラブの毛布を直そうとしたとき、
ラブの目がぱちりと開いた。


「あ...あたしったらつい寝ちゃった」
「私も、さっきまで眠ってたわ」



「んふふー、良かった」
「どしたの?」


「せつなの顔に、幸せって書いてるよ」
「えっ?」


解ってはいたが、反射的に
自分の顔を撫でてしまった。


「...ええ、とっても幸せよ」




いつの間にか、ピルンとアカルンが
飛び出し、くるくると回っている。



ラブの横に、寝転がる。


「何だか、眠くって...」
「お屠蘇が回ったのかもね」


ラブが、自分の毛布を半分、
私に掛けてくれた。


私は、天井付近で遊んでいる
ピルンとアカルンを眺めながら、
ラブの寝息に、耳を傾けた。



家族が居て、
みんなでおしゃべりをして、
おいしいご飯を食べて。



お正月は、幸せを確かめられる
素敵な行事。
最終更新:2013年02月12日 15:48