サンタとサンタのクリスマス( 陽の章 )/一六◆6/pMjwqUTk




 あれは中学三年生の、二学期になって少し経った頃のことだったっけ。

 ほら、あの年の初めに、世界中が巻き込まれたっていう大変な一日があったでしょう?
 辺りが急に真っ暗になって、何だか得体のしれない、とても怖い感じがして、そして……その後のことはよく覚えていないし、どれくらい時間が経ったのかもよく分からないんだけど、何かがパァッと弾けたような気がしたと思ったら、いつもの明るさが戻っていて。
 風もないのに辺り一面に花びらが舞っていて、その向こうには大きな虹がかかってて……。まるで夢の中にいるみたいな綺麗な景色だったけど、何だか悲しくて、切なくて、気が付いたら涙が流れてたの。
 全てが元通りになったわけじゃない。何か大切なものがなくなって、何かがまるっきり前とは違ってしまったって、そう感じてたんだよね。現にあの日以来、リコちゃんとことはちゃんとは、離れ離れになっちゃったんだもの。

 でも最初はね、リコちゃんたちのこと以外、具体的なことには何も気付いていなかったの。夏休みが終わった頃からかな、ほかにも居なくなった人たちがいるのかもって思い始めたのは。
 かなが――時々はわたしも一緒に目撃してた、箒に乗った魔法つかいとか。学校に居るって噂になった、幸せを呼ぶ妖精とか。それに、クリスマスにいつもプレゼントを届けてくれたサンタさんも、居なくなった人たちの中に入ってるんじゃないかって、何となくそんな気がした。

 わたしたちの生活に、直接は関係ないかもしれない。居なくなったものは仕方ないって、諦めるしかないのかもしれない。
 でもね。かなじゃないけど、わたしは確かにその人たちを見たし、出会ったんだよね。
 サンタさんには会っていないけど、子供の頃にサンタさんを待ってドキドキしたり、プレゼントを貰ってとっても嬉しかったりした気持ちは、わたしの中にちゃんとある。そう思ったら、子供たちがプレゼントを貰えなくなって、サンタさんもだんだん忘れられてしまうのが――クリスマスが、わたしたちの知ってるクリスマスじゃなくなってしまうのが、何だか凄く悲しくて。

 何がきっかけだったか忘れたけど、みらいと一度、そんな話をしたことがあったんだ。
 その頃のみらいは、普段は前と同じように明るくて、いつも笑顔で……。だからついそんな話をしちゃったんだけど、話し始めてから正直わたし、しまった、って思ったの。
 最初は笑顔で頷きながら話をしていたみらいが、だんだん口数が少なくなって、口元は笑っているんだけど、何かを我慢しているみたいにうつむいて……。それに気付いてから、急いで話題を変えて、もうこの話をするのはやめようって思った。
 だけどね。それから数日経ったある朝、みらいが……。



     サンタとサンタのクリスマス( 陽の章 )



「まゆみ! 見て見て、これ!」
 教室に入るや否や、みらいは鞄も置かずに長瀬まゆみの席に突進した。そのあまりの勢いに、当のまゆみが驚いたように顔を上げる。
 三年生の教室は、三階の東向きにある。窓から差し込んでいるのは、まだ夏の名残りを感じさせるような朝日にしては強い日差し。だから窓際に立ったみらいの顔は陰になっているはずなのに、何だか最近には珍しいくらい明るく輝いているように、まゆみの目には映った。

「何? どうしたの? みらい」
「ほら、これ。ここ、ここ!」
 みらいが大事そうに胸に抱えて来た物を、まゆみの机の上に広げる。
 それは、昨日発売されたばかりの旅行雑誌。まゆみは知らないことだが、みらいは最近、世界の様々な国について書かれている本や雑誌をよく読むようになっていた。

「何これ……“フィンランド特集”? きれいな景色ね。で、これがどうかしたの?」
 みらいが指さす写真を眺めたまゆみが、ますます不思議そうに首を傾げる。だが、写真の下の解説を読んだ途端、彼女の表情が変わった。
「え? ……サンタクロース村?」

「サンタクロース!?」

 突然、第三の声が響いて、今度はみらいとまゆみが驚いて顔を上げる。
 いつの間にかみらいの向かい側に立って、至近距離から雑誌を覗き込んでいたのは、勝木かな。まゆみの親友で、去年の今頃は躍起になって魔法使いを探し回っていた少女だ。

「朝日奈さん! サンタクロースが居るって、この雑誌に書いてあったの? どこに居るの? もしかして、写真が載ってるとか!?」
「ちょ、ちょっと、かな!」
 今にも食いつかんばかりの勢いで雑誌をめくろうとするかなを、まゆみが慌てて止める。

 まゆみとかなは、二年生に引き続きみらいと同じクラスだが、こんな場面は久しぶりだ。ようやく我に返ったかなと、安心したように息をつくまゆみ。それを見ながら、みらいの顔に一瞬だけ、寂しそうな影が浮かぶ。が、すぐに元の笑顔に戻ると、彼女は改めて“フィンランド特集”と書かれたページの小さな写真の下を指差した。
「サンタさんは写っていないけど、ほら、ここ見て。フィンランドには今も“サンタクロース村”っていう村があるんだよ! と、言うことは……」

――ナシマホウ界にも、有名なサンタがフィンランドにいる。

 昨年のクリスマスに、あの世界で聞いた声が蘇る。が、その言葉を口には出さず、みらいは二人の顔を交互に見ながら言葉を続けた。
「もしかしたらサンタさんだって、一人くらいはまだこっちに居るのかもしれない。だからわたし、手紙を書いてみようと思って」

「え? “こっちに居る”ってどういうこと? それに、一人くらいは、って……」
「え……サンタさんに手紙を書いて、それでどうするつもりなの? みらい」
 かなのいぶかし気な声と、まゆみの不思議そうな声がうまい具合に重なった。それに内心ホッとしながら、みらいがもう一度二人の顔を見回す。
「もしかしたらサンタさん、一人じゃ世界中の子供たちにプレゼントが配り切れなくて、困っているのかもしれないでしょう? だから、わたしたちがサンタさんのお手伝いをして、プレゼントを配りたいです、って」

「え~! わたしたちが、サンタさん!?」
「素敵!」
 戸惑った声を上げるまゆみの隣で、かなが両手の拳を握って力強く叫ぶ。それを見て嬉しそうに微笑んだみらいは、しかしすぐ、ちょっと困ったような顔で下を向いた。そしてそれを誤魔化すように、今度はエヘヘ……と頭をかいてみせる。
「あ、でも……もしもサンタさんが居なかったら、その時は……」
 が、その言葉を言い終わらないうちに、みらいは目を丸くした。かながみらいの手を、パシン、と音がするほどの勢いで握ったのだ。

「そんなこと、手紙を書く前から考えちゃダメよ! まずはサンタさんが居るって信じることが大事なんだから」
「勝木さん……」
 かなは少し不安そうな顔で、中空を見つめながら言葉を繋ぐ。
「今はみんな、サンタさんが居るって信じてる。でも、もし今年のクリスマスにサンタさんが来られなかったら? このままずっと、サンタさんが来ないクリスマスが続いたら? そうしたら、いつか全ての子供たちが、サンタさんなんか信じなくなるかもしれない」
 そう言って、かなはみらいの顔を見つめ、子供の様に激しくかぶりを振った。
「わたしはそんなの嫌! これからも、子供たちがサンタさんにプレゼントを貰って、みんなが笑顔になれるクリスマスを過ごしたいもの。朝日奈さんだってそう思ったから、手紙を書こうとしているんでしょう?」

 ポカンとしてかなを見つめていたみらいの目が、もう一度強い光を帯びる。うん、としっかりと頷いてから、みらいはかなの手をギュッと握り返した。
 二人の様子を黙って見ていたまゆみがニコリと笑って、握られた二人の手に自分の手を重ねる。
「そうだね。わたしだって、ずっと今までみたいなクリスマスが続いて欲しい。だから今年はみんなで一緒に、サンタさんやろう!」
 三人が、うん、と頷き合ったところで、まゆみがまた少し不思議そうな顔をして、極めて現実的な疑問を口にした。

「ところで、フィンランドって何語なんだっけ。相手がサンタさんだから、日本語でも大丈夫なの?」
「サンタクロース村の人が、全員サンタさんかどうか分からないし……。英語を話せる人が多い国だ、ってこの雑誌に書いてあったから、頑張って英語で書いてみるよ」
「え……英語!?」
 今度は台詞と、少々腰が引けた口調までもがぴたりと重なった二人の声に、みらいが明るく、うん、と頷く。そしてもう一度雑誌に目を落とすと、自分に言い聞かせるようにこう付け足した。
「上手く書けるか自信無いけど、何か出来ることがあるなら、わたしも頑張りたいもん」
 かなとまゆみは一瞬顔を見合わせてから、柔らかな笑顔をみらいへと向けた。



     ☆


 私服に着替え、勉強机のスタンドを点けると、母と祖母の話し声が小さく聞こえた。二人とも、きっと店に居るのだろう。
 みらいは口元だけで小さく微笑むと、鞄の中からあの雑誌と筆箱を取り出した。

「聞いてたよね? 勝木さんとまゆみが、一緒にサンタさんやってくれるって」
 そう言いながら雑誌をめくって、くっきりと折り目のついたそのページをもう一度眺める。
「この記事を見つけた時も嬉しかったけど、やっぱり応援してくれる人が居るって、心強いね」
 雑誌を閉じて机の端に寄せ、今度は英語の辞書を手に取る。その時ふっと、頬が緩んだ。
「英語で書くなんて言ったら、なんでわざわざ? って言われるかな。でもね」
 ノートを取り出して机に広げ、その真っ白なページを、じっと見つめる。
「手紙を書こうって思いついた時、嬉しかったんだ。何より、わたしも一緒に頑張れるんだ、って思ったから。だってきっと、今頃……」
 そこで初めて、みらいは机の隅に座っているぬいぐるみのモフルンに目を向けた。

「強い想いを込めて願えば、奇跡は起こる。そう信じてるけど……わたしだって、何かしたい。こんなことをしても何の足しにもならないかもしれないけど、でも……頑張りたいんだ」
 みらいの表情が、ぐにゃりと歪んだ。もう動くことも喋ることもないモフルンは、そんなみらいを愛くるしい表情で見つめている。
 乱暴に涙を拭いたみらいは、そのつぶらな瞳に小さく笑いかけてから、よし、と気合いを入れて鉛筆を握り締めた。
「見ててね、モフルン」
 そしてみらいは、時折うんうんと唸りながら、辞書を引き引き、ノートに英文を書き始めた。

 それから一週間が過ぎた頃、みらいはようやく手紙を書き上げた。そして、かなとまゆみが調べて来てくれたサンタクロース村の住所に当てて、三人で祈りを込めて、その手紙を投函したのだった。


     ☆


 秋風と呼ぶには冷たい風が、クルクルと落ち葉を舞い上げる。通路の並木はすっかり色づいて美しい。が、その下を歩くまゆみとかなの表情は冴えなかった。
 やがて耐えられなくなったように、かなが口を開く。
「とうとう十一月になっちゃったね」
「うん……」
「朝日奈さん、もう一度手紙を送るつもりなのかなぁ」
「さぁ……」
 力の無い相槌に、かなが上目遣いにまゆみの顔を見てから、すぐに目をそらして長いため息をつく。
 二人の心を占めているのは、未だに返事の来ない、サンタクロースの手紙のこと。あの最初の手紙を出してから一カ月以上が過ぎて、気付けばクリスマスまでもう二カ月弱だ。

 最初の、というのは、あの手紙に続いてみらいは、二通目、三通目の手紙をサンタクロース村に送っていたからだった。
 もしかしたら郵便事故か何かで届いていないのかもしれない、と心配したみらいは、一度は母の今日子に、フィンランドに行きたいと頼み込んだ。だが、中学生のみらいにとってフィンランドは遠く、学校を休んで海外に行くというのは、さすがに母の許しは得られなかった。
 そこでみらいは仕方なく、しばらくしてから二通目の手紙を送った。さらにしばらくして三通目の手紙を送った頃には、街はハロウィンムード一色になっていた。

 ハロウィンが終わると同時に、世間は一斉にクリスマスの準備へと向かい始めた。
 ツリーもイルミネーションも、ケーキもご馳走のチキンも、いつもと同じ。だけど子供たちにとって一番肝心なことには、解決がついていない。このままでは、今年のクリスマスはどうなってしまうのか。

「あーあ、ここに……」
「こんなときに……」
 かなとまゆみが同時に何かを言いかけて、揃って口をつぐむ。
 頭に浮かんだのは同じ人物――人差し指をピンと立てて、得意げに微笑む少女の顔だ。だがその名前はどちらも口に出さずにまた黙って歩き始めた時、後ろから、おーい、と呼ぶ声が聞こえて、二人は、今度は一緒に勢いよく後ろを振り返った。

「来た! 来たよぉぉぉ!」
 上ずった声でそう叫びながら、みらいが走って来る。そして二人に駆け寄ると泣き笑いのような顔で、手に持っている封筒を差し出した。

「本当に、来たんだ……」
「なんて書いてあるの!?」
 かなの言葉で、みらいが封筒の中から大切そうに薄い便箋と、切り取られたノートのページを取り出す。
 便箋には力強い筆致の英文が書かれていて、行間には薄い鉛筆で、みらいの字で単語の意味が小さく書き込まれていた。食い入るようにそれを見つめる二人の隣で、みらいがノートの方を開いて読み始める。

「何度も手紙を送ってくれてありがとう。あなたからの全ての手紙を、とても嬉しく読みました。そして、返事が遅くなって本当にごめんなさい。実は、クリスマスにわたしを手伝いたいと言ってくれる人たちが……たくさんの人たちが、居ます。私は彼らからの手紙をたくさん受け取っていて、そのため返事が遅くなりました……」
「うわぁ、他にもみらいみたいに手紙を出した人が、たくさん居たんだ!」
「それで、続きは?」
 弾んだ声を上げるまゆみに頷いてから、かながそわそわと先を促す。

「あなたの強い想いは、私に大きな力を与えてくれました。サンタクロースが居るクリスマスを守りたいと言ってくれて嬉しかった。だから私も勇気と共に、行動しようと思います。近いうちに、私の想いを世界中の人たちに伝える予定です。ですから是非あなたに、私の手助けをしてほしい」
 そこまで読みあげてから、みらいは笑顔で二人の顔を見回すと、少し声を震わせながら、最後の言葉を口にした。
「感謝を込めて。サンタクロース」

「やった……やった、やったぁ! みらい、凄すぎ!」
「やっぱり信じて良かったね……朝日奈さん!」
 みらいに抱き着いて飛び跳ねるまゆみと、その隣で目を潤ませるかな。そんな二人の手をギュッと握りしめ、みらいは感極まった声で言った。
「本当に、二人のお蔭だよ。ありがとう! まゆみ……かな!」
 かなの目が大きく見開かれ、その頬がうっすらと赤く染まる。
「朝日奈さん……ううん、みらい! わたしの方こそ、ありがとう!」
「良かったね、みらい、かな」
 通学する他の生徒たちが不思議そうに通り過ぎる中、三人はしばらく手を取り合って、幸せの余韻を噛みしめていた。

 嬉しいニュースはさらに大きくはっきりとした形で、数日の後にやって来た。
 突然、全世界のテレビでニュース特番が組まれ、本物のサンタクロースが生番組でメッセージを発信したのだ。

「以前は私の他にもたくさんのサンタが居たが、今は遠くに離れてしまった。でも世界中の多くの人たちから、サンタクロースを失いたくないという、あたたかな声を頂いた。だから私も皆さんと一緒に、自分が出来ることを全力でやって、子供たちに笑顔を届けたい。あなたも仲間になってくれないだろうか。あなたの町のサンタクロースとして、子供たちに笑顔を届けてくれないだろうか」

 サンタクロースのメッセージは、あらゆる国で大きなニュースになった。そして、あれよあれよと言う間に世界各地にサンタクロースの事務局ができて、フィンランドのサンタクロース村には、膨大な量の手紙やメールが送られた。
 それらをどうやって捌いているのかは誰にも分からなかったが、見る見るうちにサンタクロースのネットワークが世界を繋ぎ、子供たちからサンタクロースに送られた手紙の中身が、各国の事務局へと送られていった。
 こうしてクリスマスには、トナカイの橇ならぬ自動車や自転車、場所によってはスノーモービルや水上バイクに乗ったサンタたちが、これだけは以前と変わらず鈴の音を響かせて、子供たちの元へと向かったのだ。

 そして津奈木町にも、サンタになりたいと願う人たちの事務局が、津奈木第一中学校に設立された。代表になったのは、みらいたちに頼まれて二つ返事で引き受けてくれた、数学の高木先生だ。
 老若男女たくさんのサンタたちに混じって、みらい、かな、まゆみ、それに大野壮太や並木ゆうとたちがサンタの衣装に身を包み、子供たちの居る家々を回った。

「サンタクロースって、大変だけどこんなに楽しいんだね」
 ゆうとが曇った眼鏡を拭きながら楽しそうに笑う隣で、壮太はサッカーで鍛えた足腰を生かして、大きな白い袋を軽々と運ぶ。
 まゆみはサンタの口真似をするたびに耳まで真っ赤になり、反対にかなはノリノリで、ホッホッホォ~、と腰に手を当てて笑った。

 そしてプレゼントを配った翌朝、みらいはサンタになったみんなを誘って、公園へと足を向けた。
「みて~。サンタさんにもらったの」
「あたしも~」
 幼い二人の女の子が、嬉しそうにプレゼントに貰った人形を見せ合っている。男の子たちも、サンタに貰ったらしい飛行機やロボットのおもちゃで、元気に遊び回っている。
 子供たちのそんな様子を見ながら、顔を見合わせて笑顔になる仲間たちの姿を、みらいも笑顔で眺めてから、そっと遠い空を見つめた。

 中学校を卒業してからも、このメンバーはクリスマスのたびに集まって、誰一人欠けることは無かった。そして、クリスマスにはみんなで集まってサンタになる――それはいつしかみらいたちの、大切な年中行事のひとつになっていった。



     ☆

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「まゆみ~! ここにあるプレゼントは、全部この袋に入れちゃっていいの?」
「うん! あ、だけど、持ち上げられないほどは入れちゃダメだよ、かな」
「そんなことしないよ~」
 大学生になった今も、あの頃と同じように仲良く笑い合う二人を見ながら、みらいが小さく微笑む。
 今日はクリスマス・イブ。例年通り、サンタたちはみんな、朝から子供たちにプレゼントを配る準備で大忙しだ。
 この津奈木第一中学校の体育館を開放してもらってプレゼントを仕分けし、袋に詰めていくのだが、毎年のことなので、みらいたちはもう手慣れたものだ。だが、今年はいつもの年とは違って嬉しい助っ人がやって来るとあって、みらいは勿論、仲間たちもみんなとても張り切っていた。

 この春、数年ぶりにナシマホウ界にやって来たリコとことは、それにジュンたちは、みらいとモフルンとの感動の再会の後、中学時代の仲間たちとも久しぶりの再会を果たした。ことはが余りにも変わっていないとみんな驚いていたが、すぐに懐かしい話に花が咲き、全員があっという間に中学時代に戻ったかのような、楽しい時間を過ごしたのだ。
 明日はそれ以来の再会となる。もっともみらいは、今年の夏休みはリコの休みに合わせて魔法界で過ごしたのだが、誰よりも再会を心待ちにしているのは、勿論みらいだった。

 夏休み、魔法学校のリコの部屋で、クリスマスの話題になった時のことを思い出す。四人で朝日奈家で一緒に過ごしていた頃の話をしている最中に、リコがこう切り出したのだ。
「そう言えば、ナシマホウ界のクリスマスって、今どうなっているの? みんなとっても心配していたんだけど」
 その言葉がきっかけになって、魔法界とナシマホウ界のクリスマスの話になった。離れている間にそれぞれに変化した、二つの世界のクリスマスの。
「よぉし。じゃあ今年は、両方のクリスマスに行ってみよう!」
 ことはが相変わらず元気いっぱいにそう叫んだが、今は二つの世界を行き来するのに、カタツムリニアで数日かかってしまう。
 そこで、今年はみんなでナシマホウ界のクリスマスに参加して、来年のクリスマスは魔法界で過ごそう、と約束したのだが。

(わたしの勘が正しければ、きっと……。リコにちゃんと見せられたらいいなぁ)

 手の中のプレゼントの包みに目をやって、みらいが楽しそうに微笑む。
「またリコちゃんやことはちゃんに会えるなんて、最高過ぎ!」
 プレゼントをせっせと袋に詰めながら、まゆみもみらいの顔を見て、ニコリと笑う。するとその隣から、かながふと思い出したように言った。
「あ、そう言えば、花海さんなら今朝見かけたけど?」

「え?」
 思いがけない言葉に、みらいが目をパチクリさせる。
 普段はナシマホウ界と魔法界の向こう側の、そのまた向こう側に居るということはは、春に再会した時も、そして夏に魔法界に行った時も、みらいとリコ、二人が揃うとどこからともなく現れた。
 リコたちは、夕方こちらに着くことになっている。だからみらいは、ことはもその頃に現れるものだとばかり思っていたのだが。

「はーちゃんを、どこで見かけたの? かな」
「通学路の並木のところで。凄く楽しそうに、スキップしながら歩いてたわ。声をかけようと思ったんだけど、見失っちゃって」
「え? あの道、一本道なのに?」
 今度はまゆみが不思議そうに問いかける。
「そうなの。それで、こっちに手伝いに来てくれたのかなぁって思ってたんだけど、そう言えば見かけてないわよね?」
「うん……」

 みらいがプレゼントを袋に入れるふりをして、斜め掛けにした鞄の中をこっそりと覗き込む。今は鞄の中に隠れているモフルンが、不思議そうな表情でみらいを見上げ、ふるふると首を横に振った。

(この世界に来ているのに、はーちゃんがわたしたちの前に姿を現さないなんて……)

「何かあったのかな」
 みらいが心配そうにポツリと呟いた、その時。
「みんな、久しぶり~! カタツムリニアが、やけに早く着いてさぁ。だから、手伝いに来たぜ」
「ちょっと、ジュン! カタ……か、片付けまで居られればいいんだけど、早く帰らないといけないかもしれないし」
 体育館の入り口から聞き慣れた声がして、四人の女性がこちらに近付いて来る。その姿を見て、みらいはぱぁっと顔を輝かせた。


~続く~