『冷たいアイスの溶かし方(後編)』/猫塚◆GKWyxD2gYE




 まだ発育途中。制服に浅いカーブを描いて、ようやく自己主張を始めたばかりの胸のふくらみ。
 その幼げな丸みに沿わせた手の平を、ゆっくりと上下に滑らせる。
 夏服の薄い生地の下 ――― ブラジャーの手触りを通して、やわらかな肉感が伝わってくる。
「ん・・・、ンッ・・・」
 くすぐったさをこらえる六花が、わずかに身じろぎ。
「ごめん、くすぐったかった?」
「平気・・・、気にしないで」
「うん、じゃあ、もう少しだけ・・・・・・」
 思春期の胸のなめらかな曲線を、マナの手の平が優しく撫でさする。
 発育途中の小ぶりなサイズのふくらみは、肉付きに関しては物足りなくとも、瑞々しい張りのあるやわらかさが、マナの手をよろこばせる。

「六花の胸のカタチ、綺麗だね」
 ささやきながら、右手の親指の付け根辺りに、ぐっ、とチカラを込めてみる。一瞬押さえつけられた胸の丸みは、柔らかな弾力を持って、ふよっ・・・とマナの手の平を押し返してきた。
「・・・・・・きもちいいよ、六花の胸」
「そ、そう? マナの好きなだけ、さわってくれてかまわないから」
 マナの右手に添えられた両手は、恥ずかしさのあまり、今にも震えだしそう。
 六花は、優しく胸を撫でる手の動きにひどく敏感になっていた。服越しなのにもかかわらず、白い肌が甘美なこそばゆさで蕩かされてゆく。
(やだっ・・・)
 大好きな相手が目の前にいるのに、少しだけ、いやらしい気分になってしまった。
 こんな気持ちを、マナに見透かされたらと思うと ――― 。
「あっっ・・・」
 胸のふくらみを撫で上げてきた手の動きに、六花の背筋が、びくっ、と小さく跳ねて弓反った。
 その反応にマナの手が止まる。・・・・・・が、すぐに再開。さっきまでよりも大胆な手付きで、初々しい胸のふくらみを愛でてくる。
「うっ・・・、あっ、・・・あぁっ、うっ・・・・・・ン゛ッ・・・」
 六花の押し殺した声が、体育館のステージ裏にこぼれる。
 五本の指を広げた手の平が、夏服に浮かび上がる胸の丸みにかろうじて触れているような状態のまま、さわさわと円を描くようにすべり、時折、そのなだらかなふくらみを手の平で優しく押しつぶして上下にマッサージ。
 マナの手の平へ柔らかに跳ね返る胸の弾力。それを、つっ・・・と、くぼませて遊ぶ細い指先。
 まるで、六花をさらにいやらしい気分にさせるための場所を探して触診しているみたいだ。
(駄目っ、マナのさわり方、きもちよすぎて変になっちゃう・・・・・・)
 夏服越しの感触。少女の淡い胸のふくらみへ、マナが指先や手の平を何度もすべらせて、その瑞々しい肌の張りを味わってくる。逆に、そんな彼女の指使いや撫で方を、六花は自分の小ぶりな胸のふくらみで味わいつつ、ひそかに興奮を覚えていた。
「んっ、ふっ・・・あっ、うぅ・・・・・・」
 喘ぎ声を抑えて悶える六花の上半身は、いつのまにか熱く火照っていた。

(マナ、大好き)
 胸の丸みを愛撫する手付きが、徐々になめらかさを増してくる。それをもっと深く感じようと、うっとり両目を閉じていた六花の上半身が、突如、ビクッ!と『く』の字に折れた。
 なだらかな胸のふくらみのてっぺん。そこをマナの指が強めに、ツツっ・・・と擦ったのだ。
「やっ、やだっ、マナっ・・・」
 服の生地とブラジャー越しだったが、感度の高い胸の先っぽは、陶然としたうずきに一瞬支配されてしまった。マナの指が離れた今も、ムズムズと余韻を残している気持ちよさがたまらない。
「・・・・・・おやおや六花、そんなに気持ちよかったのかい?」
 と、からかうみたいなマナのささやき。
 そして、右手の指先をこまかく動かして、胸先を集中的にまさぐってきた。
「ひっ! ちょっ・・・コラっ、マナっ、ホントにやめっ・・・きゃっ! やっ・・・、駄目って!」
 ソファーの上で騒ぎながら抵抗する六花。
 マナが自分のくちびるの前に左手の人差し指を立てて『しーっ』と、さらにその視線が意味ありげに体育館のほうへと向いた。
 ・・・・・・理解できた六花は、押し黙るしかなかった。
 まだ体育館のほうから、しゃべり声が聞こえてくる。合唱部の女子たちは、完全に歓談モードへと入ってしまったらしい。
 向こうの声が聞こえるというコトは、当然こちらの声も、下手をすれば ――― 。
「気付かれたら、誰かこっちに来ちゃうかもしれないよ? だから、なるべく静かにね、六花」
 そう言ったマナが、左手も伸ばしてきた。
「だ・・・だめよっ、マナ・・・」と、抑え気味の声で言って、首を横に振る六花。ならば・・・と、マナは笑顔を浮かべて策略を行使。
「六花、本当に愛してる」
「な、なによ、いきなり・・・・・・」
「愛してるよ、六花。だから、さわらせて?」
「だから・・・じゃないでしょっ。さわらせませんっ」
「ふーん、じゃあ、これでも?」
 六花の胸から右手を離したマナが、今思いついた手品を試してみる。
「六花、今から手品するから。見ててね」

 マナが上向けた自分の左手に、そっと右手の平を被せた。
 六花の視線がそこへ向いているのを確認してから、そぉーっと右手を持ち上げた。
 ・・・・・・もちろん、上向けた左手には何も乗っていない。
 怪訝な目でマナを見上げてくる六花に、マナがニコッと笑ってみせた。
「六花になら見えるはずだよ。ねっ? よく見て」
「何も無いじゃない」
「そんなことないよ。ほら、そろそろ見えてきたんじゃない?」
 マナの右手が、左手の上で、六花に向かってパカッと何か開けるような動きをしてみせた。さすがに六花にもピンときた。
「給料3ヶ月分?」
 六花がたずねたのは、マナの左手に乗せられた『見えないリングケース』の中身の値段だ。
 ふふっ、と笑うマナ。
 彼女の勝ちだった。
「・・・・・・分かったわよ。さっ、その指輪、はめさせて」
 ツンとした態度で、六花が左手を ――― ほっそりとした薬指をマナへと差し出した。
 マナが『見えないリングケース』から取り出した『見えない婚約指輪』を持ち、六花の左手を自分の左手でそっと支えながら、少女の薬指へ恭しく指輪を通していく。
(わたしとマナ、二人だけの記憶にしか残らない婚約指輪・・・か)
 最初の白いハンカチをハト代わりに使った手品よりも、断然いい。
 物質的には何も無いのに、薬指の第二関節と第三関節の間に、ジンッ・・・と心地良い熱のようなものが生まれている。六花が、その薬指を見せ付けるように顔の隣まで持ち上げて、
「綺麗な指輪ね。ありがとう、マナっ」
 と、純真な笑顔をマナへと送った。
 そして、すーっと息を吐き、腰の横に下ろした両手で、ソファーのクッションをきゅっと掴む。
 マナの目線が下がる。
 それを追った六花が、侵入を阻止するために両太ももでずっと挟んでいたマナの左脚を解放してやった。
「いい? マナ、先に言っておくけど、先っぽばっかりイジメちゃ駄目よ」
「分かってるってば。六花、愛してる」
「あー、もお、ハイハイ」

 マナの右手と左手が、それぞれ左右の胸のふくらみへ、やんわりと触れてくる。
 夏服越しに感じるくすぐったさ。
「んっ・・・」
 ぴくっ、と片目をつむりかけた六花が、ソファーのクッションを強めに掴む。
 なだらかな曲線のカタチに沿って、マナがゆっくりと愛撫の手付きをすべらせてきた。
「あっ、うぅ・・・うっ、ん・・・・・・」
「六花の胸って、将来大きくなったら色々できそう」
「色々って・・・、何を想像してるのよ。マナ、いやらしい」
「ふふっ」
「あ、あぁっ、ちょっと、マナっ・・・」
 ふくらみかけの胸を撫でまわしているマナの両手が、左右別々の動きで二つの丸みをまさぐり始めた。どちらの胸のほうが感じやすいか、実験するみたいに。
「あっ、そんな風に・・・さわられたら・・・・・・くすぐったっ、うっ・・・」
 ソファーの背もたれに強く背中を押しつけて、胸のこそばゆさに仰け反ろうとする上半身の動きを抑える。
 ・・・・・・しかし、声と表情にどうしても出てしまう興奮の色までは抑えられない。
「いやらしいのは、あたしじゃなくて、六花のほうなんじゃないかな?」
「 ――― わたしをいやらしくしているのはマナじゃないっ!」
 しっとりと潤んだ切れ長の目で、マナを『キッ』と睨みつけた。
 あはは・・・とバツが悪そうな笑みを洩らしたマナが、そんな彼女の顔に見入る。
(勝気な六花の顔もいいなぁ・・・)
 母親譲りの知的な容貌をクールな表情で整えて、涼やかにしている時も綺麗だけど、今、こうして感情をむき出しにしている時の顔も素敵だった。恥じらいに染まりながらも、気持ちよさに流されまいと必死で抗う表情。正直、マナは好きだ。
(けど、どこまで頑張れるかな、六花)
 左右の手の平で包んだ瑞々しい肉感を愉しみつつ、夏服に隠された胸のなだらかな曲線を指先でなぞり上げる。肌を這うマナの手の平や指に、柔らかく跳ね返ってくる肉の弾力。きもちよくて、何度さわっても飽きがこない。
 両胸を愛撫されている六花が、顔を上気させて喘ぐ。
 くすぐったそうにしている六花を見ると、もっといじめたくなる。

 夏服の薄い生地の上に、フワッ・・・と、かろうじて乗せられた程度の指先を、すーーっ・・・と胸の丸みに沿って走らせる。もちろん、左右の手はそれぞれ別の動きで。
「んっ、マナ、何がしたいのよ、もぉ・・・・・・」
 さっきまでとは違う微妙なくすぐったさに、六花は焦(じ)れたみたいな表情。
 マナは、あえて時間をかけて、そういうまさぐり方を続けた。
(も・・・もおっ、マナったらぁっ)
 早く、気持ちよく ――― なりたい。
「あん・・・、もう、いい加減にしてよぉ・・・・・・」
 切なげな声をこぼして、六花がキュッと左右の太ももをきつく閉じた。
 まだそこに残っていたマナの左脚を再び挟んで ――― 大好きな人の脚を太ももで抱きしめるみたいに。
 気持ちよくしてほしいという、おねだりの仕草。
 それが効いたのか、マナの手が、六花の胸へグッと密着。少し強めのマッサージを思わす愛撫によって、小ぶりな二つのふくらみが、軟らかに何度もカタチを崩した。
「ああっ・・・あああ、マナぁ・・・、それ・・・気持ちいいからぁ・・・」
 白い柔肌が、マナの指先や手の平の感触に悦びを求めてしまう。
 悶えながら熱い息を吐く六花に顔を近づけて、マナが興奮のにじんだ声でたずねる。
「六花ぁ、もっと気持ちのイイこと、してほしいんじゃない? ほらぁ」
 夏服の上から胸の丸みの頂点を、指でカリカリと引っかくように・・・・・・。
 両胸の先っぽを責められる六花が、「ふあっ・・・」と、チカラの抜けた声を洩らした。
 相変わらず、夏服の薄い生地とブラジャーの防御力は役に立たない。マナの指の動きに、感度の高い胸の先端は、ムズムズとたまらなくうずいてしまう。
「あ゛ああぁ・・・、マナ、あまり・・・激しく指・・・動かさないで・・・・・・」
 大きな声 ――― 出ちゃう。
「そうだねぇ、六花・・・、何をされてもガマンしないと」
 意地悪く微笑むマナの両手が、夏服とブラジャー越しに、ツンとこわばっている胸先を強引につまみ上げようとしてくる。
「ひっ、ああ・・・、マナ、こらっ、やめ・・・あ゛あっ・・・」
 ただでさえくすぐったくて敏感になっているのに、そんなことをされたら ――― 。
「あはっっ・・・、やっ、ダメっ、恥ずかしいよぉ、マナぁ・・・」
 胸先の幼い突起に、恍惚とした痺れが走る。
 自分の指でもそんな風に触ったことがないのに、いきなり他人の指でなんて・・・・・・。まだ中学生の少女に耐えられるはずもなかった。
「駄目・・・、マナ、あああ・・・、ひっ、ああ・・・っ」
 胸の先端をまさぐっていた人差し指と親指が、夏服とブラジャーごと感度の高い先っぽを搾り上げるように、キュウッと、きつめにつまんできた。
( ――― 痛ぁっっ!!)
 一瞬、六花の背中がソファーの背もたれに激しくぶつかって悶えた。服の上から電気を流されたみたいな刺激。六花が眉間に悩ましいシワを刻んで喘ぐ。しかし、痛みがジンジンとした疼きに置き換わってくると、六花は身体を熱くするほどの興奮を覚え始めた。
「はぁっ、あっ・・・はぁ・・・、これ・・・すごい・・・・・・いい」
 倒錯的な官能の体験 ――― 六花の知識に無かった甘美な蜜を、感じやすい胸の先っぽで味わってしまったのだ。
 けれど、服と下着を間に挟んでいるせいか、少し感触がもどかしかった気がする。胸先を酔わせる疼きも、なんだか物足りない。
(でも、もしさっきのが直接、何も無い状態でだったら・・・・・・すごく痛いかも・・・・・・)
 ――― でも・・・。
 ――― ゾクッ。
(マナにそういうコトされるのって、ちょっと、期待・・・しちゃうっていうか・・・・・・)
 六花が「・・・ん゛ッ」と鼻にかかった声を洩らした。
 マナの指でいじめられている両胸の先っぽが、さらにムズムズしてきた。

「六花・・・」
 マナの声に視線を上げる六花。マナが注意を向けているほうへ意識を持っていく。
 体育館に居残っていた合唱部の女子たちの声が全く聞こえてこない。物音もしない。
 ようやく帰ってくれたらしい。
「マナ・・・」
 六花の心臓が、はっきりと興奮の鼓動を奏でる。
 今は、本当に、やっと ――― マナと二人きり。

 がばっ ――― 。

 我慢なんて出来なかった。マナの背中に両腕を回して、思いっきり抱きつく。
 ソファーに倒れこみそうになったマナが、とっさに背もたれに左手を着いた。
「六花!?」
「・・・・・・・・・・・・」
 顔を見られるのが恥ずかしくて伏せてしまうけれど、この昂った感情は、もうごまかせない。
 二人っきりになったと思った途端に、気が付いた。
 自分の大切なところが、マナを欲しがっている。
「・・・・・・マナ、いやらしくて・・・ゴメン。わたし、体の奥がすごく疼いて・・・・・・」
「痛いの?」
「ううん、その・・・マナに、撫でてもらいたくて・・・・・・、ス・・・、スカートの奥 ――― 」
「赤ちゃんを産む所?」
 マナの口から、いきなりそんな言葉が出てきたものだから六花は驚いてしまった。しかしまあ、中学三年生にもなれば知ってても普通かな、と思い直し、キュッと彼女の背中を抱きしめた。
「熱く疼いちゃってるの・・・・・・、お願い」
 あとはもう、マナに全部任せようと思った。
 スカートをまさぐり上げた右手が、その生地の下に潜って、六花の太ももを撫でながら這い登っていき、ショーツのサイドを軽く指先でずらす。
 六花はくすぐったくて、マナに抱きついたまま何度も身震いして喘いだ。
 学校でこんな事するなんて絶対に間違っている。それでも ―――――― 。

 その時、唐突に体育館のほうから聞こえてきた声が、二人の睦み事にストップをかけた。

「こらーっ、レジーナ、待つケルーっ、今日はボクと一緒に帰るケルーっ」
「イーヤッ! 今日はマナと一緒に帰る気分なの!」
 六花とマナが顔を見合わせる。
 ラケルとレジーナだ。非常にマズイ。
「ほら、誰もいないケル。これ以上探しても無駄ケル。もうマナは帰ったケル」
「 ――― ねえ、ラケルぅ、体育館の裏って、なんか部屋なかった?」

「・・・・・・逃げるよっ、六花っ」
 小声で告げたマナが、六花の手を引いて立ち上がらせようとする。
 しかし、六花は「待って」と制止して、マナの顔を申し訳なさそうに見上げた。
「腰が抜けちゃって、立てないんですけどぉ~~」
「・・・えーーっ」

 レジーナとラケルが騒がしくステージ裏へとやってきた。
 大道具等に興味を持てないレジーナは、つまらなさそうに一瞥しただけでマナがいないことを確認して、ラケルのことなどほったらかして帰ろうとする。それが気に入らないのか、ラケルが非難の言葉を並べながらレジーナを追いかけて去っていく。

 ――― 壁際から少し離されて置かれたクラシック調のソファーの後ろ。
 中学生の少女二人なら、横になればかろうじて身を隠せる程度の大きさだったのが幸いだ。
(マナ・・・っ)
 マナに抱きしめられた姿勢で床に転がり、ソファーの陰に隠れて息を殺し、なんとかラケルとレジーナをやり過ごした。それはいいのだが。
(どうして、わたしにキスしてるのよっ、もおっ!)
 しっとりと湿りを帯びた、やわらかなくちびる同士の重なり合い。
 息を潜めるために口をふさぐ必要があったとか、そんな理由だろうか。だからといって、キスは無いと思う。大好きな相手との、ファーストキスなのに。
 しかし、ソファーの後ろに隠れ、床の上に転がった状態でしているマナとのキスが、六花の心臓を甘く蕩かしているのも事実だ。
(まあ、もしかしたらラケルたちが戻ってくるかもしれないし、念のため、もう少しこのままで・・・・・・)
 くちづけのやわらかなぬくもりに、心を溶かす。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

 帰り道。
 二人は手を繋いで歩いていた。
 ・・・・・・手は繋がっているのに、体同士の距離は遠い。周りに人がいないのをいいコトに、六花がマナから出来るだけ離れようとしているのだ。 
「あの~~、六花さん?」
「・・・・・・・・・・・・」
「もしかして、とっさにしちゃったキスの事でしょうかぁ?」
 六花の態度の原因を探ろうとしてくるマナに、チラッとクールな視線を向けて、
「キス?」
 と聞き返した。そして、わざと数秒の間(ま)を置いてから答えた。
「あれ、ただのスキンシップでしょ」
 ・・・・・・気持ちよかったとはいえ、人生で一度きりしかないファーストキスをあんな形でおこなったのは許せない。マナに対する冷淡な距離の取り方は、しばらく止みそうにない。
 隣でマナが困っているのが気配で分かったが、六花は何も言わなかった。ちょっとした罰のつもりだ。
「あー、ところで六花さ~ん」
 またマナが話しかけてきたけれど無視。手を繋いだまま歩き続ける。
 マナが、たたっ・・・と距離を詰めてきて、内緒話をする時みたいに、片手を口もとの隣に立てて訊ねてきた。
「まだ、熱く疼いちゃってます?」
「・・・っっ!」
 あの時はラケルたちが来たせいでうやむやになってしまったし、そのあとも何かをする雰囲気には戻れなかったため、マナと一緒にこうして帰ることにしたのだが・・・。
「な、なに馬鹿な事言ってるのよっ」
 と、六花が顔を赤らめて怒ってみせる。
 しかし、マナはイタズラを成功させた子供みたいに微笑んで、言葉を続けた。
「今夜、六花の家にお泊まりして慰めてあげてもいいけど・・・、うーん、どうしよっかなぁ?」
「マナの好きにすればいいじゃないっ!」
 六花がマナの手を強引にほどいた。そして、マナを置き去りにして走り出す。
 カーッと紅潮した自分の顔を、こんな所でマナに見られるのが恥ずかしかったのだ。
 表情に浮かんでいるのが、怒りだけならかまわない。
 けど、それ以上に嬉しくて、だらしなくニヤニヤと顔が緩みかけているのが分かっていたから。

(何が幸せの王子よっ! マナったら悪い魔法使いじゃない!!)
 まったく・・・・・・、マナがこの胸にかけた魔法のせいで、
 今夜、彼女が部屋に来てくれるまで、六花の心臓はドキドキしっぱなしだ。

(おわり)