いっしょに年越し/◆BVjx9JFTno




深夜だというのに、昼間の
商店街並に、人が多い。


「これって、日本の伝統なの?」
「そうだよ!こうやって年を越すの!」


この世界に来て、
はじめての年越し。


家族で、神社に
詣でている。



一般の参拝客も、除夜の鐘を
鳴らせるとのことで、列に並ぶ。


鳴らしている人を見る。
結構、力がいりそうだ。


「一緒に鳴らそうよ!」
「ええ、頑張るわ」


鐘楼に上がる。


合掌し、心を落ち着ける。


綱を、ラブと私で持つ。


「2回、準備するからね」
「ええ、わかったわ」


「はいっ」


合図で、同時に綱を引く。
少しだけ。


撞き棒が、定位置より
少し前に戻る。



「はいっ」


さっきよりも少し後ろに、
綱を引く。


撞き棒が、鐘の手前まで戻る。


「はいっ!」


思い切り、綱を引く。
反動で戻った撞き棒が、
鐘を打ち鳴らす。



体が震えるような、
音と振動。



轟音と振動がおさまるにつれ、
澄んだ余韻が、体の奥まで届く。







余韻と共に、
思い出す。



訓練と派兵。


憎悪と敵意。


使命と相反する心。


迷いと痛み。


死と、生。



余韻が消えるように、
その映像は消える。



そして、あらためて
感じる。



この世界の、暖かな光。


みんなの、笑顔。



東せつなとして、
新しい年を迎える。



大事な、友達がいて、


大切な、家族がいて、


大切な人が、すぐ近くにいる。



東せつなって、
そんな、幸せな人。







家への帰り道は、ところどころ
凍結している。


コートのすき間から、寒さが
入り込んでくるようだ。



「ちょっと、寒いわね...」


お母さんが、体をかるく
ふるわせた。



お父さんが、お母さんの手を取り
自分のコートのポケットに、
そのまま入れた。


「ちょっ!...子供の前...」
「でも、暖かいよ?」


「もう...さっきの御神酒で酔っちゃったの?」


後ろから見ていても、
お母さんの顔が、湯気が出そうに
真っ赤になっているのがわかる。







「えへへ、真似しちゃお」


ラブが私の手をとり、
上着のポケットに入れた。


「ひゃっ...!」


ポケットの中で、指を絡める
つなぎ方に変わった。


ぎゅっと、握られる。


手のひらと、指の間から
ラブの体温が、伝わる。



さっきまでの寒さを、
感じない。


ほおと、耳が熱い。



私の顔も、多分
お母さんと同じだろう。



「今年も、楽しいこといっぱいしようね!」
「ええ!よろしくね」



家まで、お互いに
手を握り合いながら歩いた。