僕を構成するひとかけら(後編)/そらまめ




日にすれば一日に満たないが、安静にしろと言われてほとんどを部屋かリビングで過ごした。本当は外に出て散歩にでも行きたかったが止められたため、代わりに本の虫となった。本は好きだし退屈ではないが、この家にはテレビ等の娯楽は無く外の情報が入ってこないのは不満ではある。そして相変わらず携帯は繋がらなかった。どうも自分が寝ている間に豪雨が来たらしく、その影響で電線が切れたんだとか。サウラーがそんなことを言っていた。
リビングで本を読んでいる横ではウエスターが腕立てを繰り返し、かれこれ数時間になる。一度いつまでやるのか聞いた時には「1000になったら辞める」と言っていたはずだが、カウントを聞いていると590と数えた次には491と言っていたのでもう永遠に終わらないと思う。指摘はしなかったが内心馬鹿だなあとは思った。

「そういえばサウラーはどこにいるの? 部屋?」

ちょっと前にリビングを出ていったきり帰ってこないサウラーに気付いた。部屋にいることも多いし別に気にする必要もないけど、飲みかけのコーヒーがなんとなくその存在を主張している。

「サウラーならプリキュアを倒しに行ったぞ」
「えっ?! ひとりで?! 私達行かなくていいの?」
「あいつ邪魔されるの嫌がるからなぁ…」
「嫌がるってでも相手は三人なのよ? 心配だわ…」
「心配ねぇ…あいつなら大丈夫だと思うけど」
「でも…やっぱり私も行くわ!」
「えっ…! いやほらでもお前まだ本調子じゃないしっ」

椅子から立ち上がってリビングを出ようとしたところで、慌てたようなウエスターが扉の前に立ちはだかった。

「どいてよ」
「ほらまた倒れたらあれだし昨日の今日だしっ」
「身体ならもうどこにも異常はないわ。それに一人で戦わせるなんてそんなの嫌だわ」
「でもな…」
「私達、仲間じゃないの…?」
「うっ…」

仲間という言葉にたじろぐウエスターは何かに悩んでいる様子。あともうひと押しだ。

「ねえウエスター、私一人で行くなんて言わないから。一緒にサウラーの所に行きましょう? もしダメそうならその時はすぐ帰るから」

出来る限りの弱気と上目遣いを駆使する。役者にでもなった気分だ。

「…ダメならほんとにすぐ帰るか?」
「ええ」
「ダダこねるならまた担いででも連れ帰るぞ」
「大丈夫。止められたら素直に帰るから」
「……わかった」
「ありがとうウエスター!」

必死の懇願に溜息をつきながら折れたウエスター

「お前のその眼は絶対折れないって決めた時の眼だからな」

苦笑いしながらそう言われた。それを共有できないことがもどかしい。

「くっ! はぁああっ!!」
「そんな攻撃が僕のナケワメーケに効くとでも思っているのか?」
「間を置かず来るなんてっ!!」
「あっちの作戦でしょそんなのっ 揺さぶられたら相手の思うつぼよっ!!」
「わかってるよっ!」

不発に終わった攻撃に一旦横並びになって態勢を立て直す。
せつながラビリンスの仲間として現れたことに動揺している今がチャンスとでも思っているのだろう。気持ちの整理を着けさせる猶予を与えない様にしているのが難なくわかる。
だが、こっちだっていつまでも嘆いていた訳じゃない。なんであってもせつなを信じると決めたから。撤退していった後話し合うまでもなくみんなの気持ちは一緒だった。急に倒れたこともそうだがあの時のせつなはいつもと違う気がした。でもそれだってきっと意味があるはず。どんな姿のせつなだって、自分達は信じている。仲間だから。
だから悲しいという感情より、絶対に取り戻すという意気込みでいっぱいだった。


「サウラー!!」
「…っ、イースっ…! どうして…なんで連れてきたんだウエスター」

やっぱり来た。前回もウエスターのことを心配している様子だったから、今のせつななら仲間と思っている人が一人で戦うのを黙っているわけがない。せつなは自分達の思っていた通り、仲間想いのせつなだ。

「すまんサウラー、でもイースがお前一人で戦ってるって知って嫌だっていうから…」
「それでのこのこ連れてきたのか…?」
「ごめんなさいサウラー、私が無理やり頼んだの。相手は三人なのよ? 一人でなんて心配で…」
「君は全く……本当に…調子が狂うよ」

睨み付けるサウラーは明らかに怒っていた。その反応をウエスターは予想していたようで特に驚く様子はない。仲裁に入ればあからさまな溜息をつかれる。最後の言葉は呟くように小さな声だった。

「来てしまったならしょうがない。くれぐれも僕の邪魔はしないでよ」
「わかってるわ」
「おう!」

「せつなをおおぉっ返せぇええーーー!!!」

敵に向き直った瞬間にピンクの少女が勢いよくこちらに飛びかかってくる。その攻撃に構えると、横に並んでいたはずのウエスターが飛び出し迎え撃った。全力の拳と拳がぶつかり周囲に爆風が巻き起こる。

「イースは渡さねぇえええっーーー!!!」
「どけえええええっ!!!」
「どかねぇええよぉおおおっ!」

巻きあがる土煙の中で、ぶつかり合う音が響き渡る。

「ウエスター…」
「さあ僕らも行くよ」
「ええ」

迫力ある戦いに圧倒されたがサウラーの言葉で気持ちを持ち直す。自分にできることをしなければ。サウラーに倣って自分も勢いよく地面を蹴った。

「はあっっ!!」
「…つっ! せつなちゃんっわたしのこと本当にわからないのっっ?」
「だからあなたたちのことなんて知らないって、言ってるじゃないっっ!!」

黄色の衣装を着た女の子と対する。ピンクの子と一緒で攻撃をしてこないことが気に掛かる。こちらの攻撃を受けている間も終始眉を下げ今にも泣きそうだ。

「…やっぱり洗脳とかされてるのかな…? うーん…だとしたら…」
「ぶつぶつと独り言なんて余裕ねっ」

何をしても防御を続ける彼女は、何かを考えているようで戦いに集中していないのがわかる。こっちは本気でやっているというのに舐められているように感じて少しイラッとする。もう一撃してやろうと足に力を入れ飛びかかった時、初めてあちらが行動した。なにか棒のようなものを手に持ちこちらに構えている。

「ごめんねせつなちゃん…ヒーリングプレアー・フレーッシュっっ!!」
「なっ…!?」

碌に回避も出来ず、棒から放たれる謎の光をもろに浴びてしまった。
そのまま地面に着地する。だがおかしい。敵の攻撃を受けたのに全く外傷が無い。思わず身体中を確認してしまった。

「何を、したの…?」
「せつなちゃん…わたしのこと、わかる…?」

気弱そうに棒を胸に抱き、恐る恐るといった感じに先ほどと同じ問いを繰り返す。

「何度聞かれても答えはさっきと一緒よ。知らないわ」
「そう…洗脳じゃ、ないんだね…」

肩を落とし悲しそうな表情。洗脳だとかよくわからないことを言っていたが、ダメージの無い攻撃といい思わず首を傾げた。何がしたいのかまるで理解できない。

「でもわたし、信じてるっ!」
「何を信じてるのかわからないけど、そんなんじゃ私は倒せないわよ」

眉が上がる。何かを決意した時の顔だ。こういう顔をする時の彼女は普段のほんわかとしているのとは対照的に意外と頑固で、誰が何と言おうと自分が信じる想いを貫き通すんだから厄介だ。思わず苦笑いする。

……え、なんでそんなこと、わかるんだ…自分が彼女に会ったのは二回目のはずなのに…
自分で自分の思考に驚き思わず彼女を見る。突然見られたからか目が合ったあちらは首を傾げている。つられてこっちも首を傾げる。しばらくお互い同じ格好をしていたが、はっとして顔を左右に振った。敵を前にして呆けるなんて命取りで戦士としては致命的だ。こんな体たらくでは――の期待に応えることなんてできない。

……誰の期待に応えないといけないんだ? ――って誰だ。自分は今自分の意思で戦っているはずなのに。なんだ? さっきからおかしい…自分の知らない感情がどこからか湧いてくるみたいだ。小骨が喉に詰まっているかのような違和感に思わず額に手を当てる。

「せつなちゃん大丈夫っ? どこか痛いのっ?」
「…敵の心配なんて余裕ね」
「せつなちゃんは敵じゃないもの。心配するのは当たり前だよ。仲間だからね」
「あなたたちってみんな同じこと言うのね。いくら否定してもまるで聞く耳持たないし」
「ピーチもベリーも、もちろんわたしも、みんな気持ちは一緒だから。信じてるから」
「だから…何を信じるって言うのよっ」
「せつなちゃんをだよ。どんなせつなちゃんだって、わたしたちは…」
「せつなせつなっていい加減にしてよっっ!!」

思わず叫んだ。

「私のこと知ったような口振りで勝手なこと言わないでっ!! みんなしてせつなだとかイースだとか言ってっ、せつなもイースも私じゃないっ、私は私よっ! ここにいるのも私の意思でいるんだからっ!! 私が頼まれたんだ! 私が!…だって…私が、イースじゃなくても行こうって、言ってくれて…」
「えっ…それって…」

イース。せつな。どちらの名前を口にする人もそこに確かに絆があって、繋がりが見て取れる。だけどその繋がりの糸の先に自分がいない。まるで除け者にされているみたいで、ひとりきりのような感じがして孤独だった。
一緒に戦おうと言われたことが嬉しかった。でも、それは自分がイースだからだってことも、イースとして戦ってきたこれまでを期待されてのことだってことも気付いていた。本当は全部わかっていた。
みんなせつなを、イースを必要としている。ならやっぱり、自分はここに居るべきじゃないのかもしれない。あの館にも、ラブの家にも居るべきではないのかもしれない。
自分は存在してはいけないのではないか。いや、存在するべきじゃないんだ。だってあそこにいることを許されるのは本物だけだから。
偽物は、消えてしまえばいい。

「あなたも、せつながいいのよね?」
「なに、言って…」
「こんな偽物なんかじゃなくて、本物が」
「待って。落ち着いて?」
「私が死ねば、イースもせつなも帰ってくるかもしれない」
「死ぬなんてそんなこと言わないでっ!」
「偽物がいなくなって本物が帰ってくればみんな嬉しいでしょ?」
「わたしは誰であっても死んでなんて欲しくないよっ!! もしあなたがせつなちゃんじゃなくても、あなたが死んでせつなちゃんが帰ってくるとしてもっ、死んで欲しいなんて思わない! 絶対」
「…なんでそんなこと言えるのよ。私のこと何も知らないのに」
「…仲間想いで人の心配ばかりで自分のことは後回し。それに頑固で一人で悩んじゃうのが困ったところ。少し話しただけでも、あなたはとても優しくて良い子だってわかる。そんな子が泣いているんだもの。なんとかしてあげたい。あなたが誰であっても助けてあげたいって思ったこの気持ちは嘘じゃない。だから助けるよ絶対。信じて?」

泣いていると言われて思わず頬に手を当てた。指が冷たい水に触れる。この涙は誰のものだ。自分だろうか。それとも記憶にない過去の自分だろうか。ただ、今自分は彼女に掛けられた言葉がとても嬉しいと感じていて、それがせつなでもイースでもなく自身に向けられたものと気付いて心が震えている。その上、そんな優しさでできた笑みで見られたら、揺らいでしまう。信じてみたくなってしまう。

「…ここにいても、いいの?」
「うん。いいよ」
「私、あなた達が求めてるせつなじゃないのよ?」
「それでもいい」
「せつなが帰ってこなくても?」
「それは悲しい。でも、あなたとも友達になりたい」
「私が私でもみんな許してくれる?」
「不安にならないで。大丈夫だよ」

ゆっくりと近寄ってきて頭を撫でられる。そっと触れる手の温かさにまた涙が零れた。

――気付けば、近くでサウラーが出したと言っていた大きな何かが竜巻を起こしている。その風に涙が連れていかれてつられてそちらを見る。涙だけじゃなく枯葉や枝、石等も巻き上げられていた。あまりの強風に身体まで持っていかれそうで、目の前の彼女も風に煽られ目を瞑りふらついている。
…と、風で細めた視界に、何かがこちらに飛んでくるのが見えた。
スローモーションのように切り取られた思考で、あれは花壇のブロック片だと気付く。軌道の先には目の前で未だ目を瞑る黄色の女の子。このままでは直撃コースだ。
理解した瞬間彼女の背に両腕を回し頭を守るように全身で抱え込んだ。直後、ガンッと鈍い音が頭に響き、衝撃が全身に伝わって一瞬息が出来なくなる。腕に力が入らずズルりと崩れ落ち、意識が刈り取られた。




「―――…思い出して」

ああ、またこの声。

「無くしたんじゃないよ―――ただ、絡まって見つけられないだけ…――」

聞いたことのある声。

「――…かけらは今もまだ、君の中にある…―――」

もしかして。

「――…大丈夫」

あなたは…―――

「…―――今ならきっと、見つかるよ…――――」



ゆるりと意識が浮上する。でも瞼が重くて眼を開けられない。全身が何かに包まれているような気がする。暖かい。頭の痛みも徐々に薄れてきた。指先がピクリと動く。

「しっかりしてせつなちゃんっっ!!」

雨みたいな水が頬に触れて、ゆっくりと眼を開けた。

「…泣かないで…」
「ごめん、ごめんねせつなちゃんっ、わたしのせいでまたっ…!」
「…大丈夫…あったかいわ…ブッキーの、ちから」
「せつなちゃんっ…わたしがわかるのっ…?!」

驚く祈里にそっと笑う。また雨のように涙が降ってきた。
記憶が戻ってくる。イースとしてラビリンスにいたこと。ラブと戦ったこと。プリキュアとして仲間になったこと。全てが繋がって今の自分がいること。
ああ、なんだ。私は私だったのか。記憶が無くても人に頼れず一人でグチグチと悩んでいたなんて、悩み方から何からすべて一緒だったことが、今なら笑えてしまう。

パインの癒しの力で頭の痛みも薄れてきた。身体も動かせる。このままみんなの所に帰れば、謝って真相を話した後に怒られてから迎えてくれるんだろうけど、それでは心が落ち着かない。未だ吹き荒れる竜巻に視界と音が遮られている為か、他の人は自分たちの一連には気付いていないみたいだ。だから…

「…ごめんなさいパイン。私まだみんなの所には帰れない。やり残したことがあるの」
「…帰ってきてくれるんだよね?」
「ええ。もちろんよ。私の帰る場所はみんなのいる所だから」
「うん。なら待ってるね。わたしせつなちゃんが帰ってくるって信じてる」
「すぐ帰ってくるわ。信じて」

お互い顔を見合わせて笑い合う。理由も問わず送り出してくれることが、繋がっている証拠だと思えた。



「プリキュア、ラブサンシャインフレーーッシュ!」
「プリキュア、エスポワールシャワーッフレーーッシュ!」
「プリキュア、ヒーリングプレアッ、フレーーッシュ!」

最初は劣勢だったプリキュアだが、記憶が戻った自分がプリキュアに積極的に攻撃することはもちろんあり得ないため、次第に三人の息が合わせられるようになり、コンビネーションが今ナケワメーケに向かって放たれた。シュワシュワと消えていくナケワメーケにウエスターもサウラーも悔しそうだった。「覚えてろよ!」といつものようにウエスターが捨て台詞を叫んでその場から立ち去る。ラブも美希も自分の名前を叫んでいるのが分かり、後ろ髪を引かれるように振り向いたが祈里の眼を見て再び正面を向いた。あの顔をしている時の祈里は信じていることを疑っていない顔だ。それが分かることがとても嬉しかった。

「はーまた負けちまった。今回は三人だからいけると思ったのによー」

館に続く森を進む二人の背中を見ながら、少し遅れて歩く。両手を頭の後ろで組んだウエスターがぼやくように呟いていた。

「負け惜しみは惨めに見えるよウエスター」
「なんだよいいだろ別にこんくらいっ、ったく細かいんだよサウラーは。もっとガツガツ攻めてたら勝ってたかもしれないってのに作戦がどうとか言ってよー」
「入ってきたのは君達だろ。僕が考えていた戦略は完璧だった」
「なんだよ俺等が来たから負けたって言いたいのか? 人の所為にするなんてそれこそ負け惜しみだ」
「ねえ、この会話不毛な争いになるだけだからやめた方がいいんじゃない?」

立ち止まりバチバチと目線が絡み合う。今にも喧嘩が始まりそうだったので思わず口を挟んでしまった。二人はこちらをちらりと見て、それからお互いを見てまた歩き出した。

「腹へったなー、戻ったらドーナツでも食べるか。買った残りもあることだし」
「言っておくけどお茶は入れないよ」
「んなことわかってるよ。イースは何味食べる? チョコとクリームとバナナは残ってたはずだ」
「……」
「どうしたイース? ドーナツ食べないのか? 腹でも壊したか?」

応えない自分にどうしたと振り向いてくるウエスターは、純粋に自分の心配をしているんだとわかる。今ならわかってしまう。彼らは敵になったけどそれでも心の底から憎み切れないのは、こういう誰かに優しくできる心を持っていることだ。そしてそんな彼らに、これから自分は酷いことをする。

「……何度も言ってるはずよウエスター、私はもう、イースじゃないって」
「え…」
「君、もしかして…」

眼を見開いて愕然とするウエスター、サウラーも一瞬驚いたような顔をして、でもすぐに厳しい視線を向けてきた。敏いサウラーはもう状況を理解して次の一手を考えているんだろう。でも、こちらもポケットの中でリンクルンを握りしめていつでも動けるようにしている。

「さっきの戦いで思い出したの。全部」
「…戦いの最中に思い出したのにこうして僕らについてきたのは何が目的だ? まさか記憶が戻ってもこちらに戻ってくる気になったのかい?」
「…違うわ。私がラブ達の敵になることはもうない。ただ、迷っていた自分を助けてくれたことを…あの時救われたことを…あなたたちにも人を救うことが出来るってことを、この気持ちを伝えておきたかったから」
「…いらねーよそんなもん。知りたくもないっ」
「ウエスター…」

拳を震わせて下を向いているウエスターの声は、いつもよりも低く重い。酷いことをしていると改めて思う。敵となった自分をイースと、仲間と呼び続けていた人に、自分はもう仲間ではないと再び拒絶すること。拒絶される辛さをまた味合わせているなんて、とても残酷なことだ。

「私がそっちにいた時もっと周りを見る余裕があったら、手を伸ばされていたことに気付けたかもしれないわね…」

確かに暖かった。あの館で過ごした時間、どれだけの想いを受けていたか今ならわかるんだ。心配されていた。信頼されていた。限りなく細かったかもしれないけど確かに糸は繋がっていた。どうしていつも後になってから気付くんだろう。大事なことを知るのが遅すぎて、知りたかったのはあの時なのに。悔しい。

「もしもの話なんてすんじゃねーよ。戻ってくる気はねーんだろ。なら、さっさと行けよ。でないとまた力ずくで連れてくぞ」
「あんな担がれ方されるのはもう御免よ」

でも、もう道は違えてしまった。もう一緒にドーナツは食べられないし、お茶を飲むこともできない。

「アカルン」

赤い光で包まれる自分を二人は止めなかった。見えないくらいの細い細い糸はいまだ切れずに繋がったまま、こうしてまた敵となった。

ジャンプした先はラブの部屋ではなくあの丘にした。話したかった相手はもう一人いたから。

「…アカルン、あなたがずっと呼びかけてくれてたのよね…?」
「…そうキー」
「ずっとそばに居てくれたのに、気付かなくてごめんなさい」
「あそこにいる時は元気がでなくて出られなかったキー…」
「あの館は異空間にあったし、FUKOの源も多かったから」
「アカルンはせつなとリンクしてるキー、だから心の中でなら動けたキー」
「あなたのおかげで思い出せたわ。ありがとうアカルン、あなたがパートナーでよかった」
「アカルンもせつなと一緒で嬉しいキー」

喜ぶようにくるくると自分の周りを飛んでいるアカルンを横目に、しばらくの間街を見下ろしていた。

「もう一仕事いいかしら、アカルン」
「どこ行くキー?」
「ラブ達にドーナツ買っていかなくちゃ。おつかいの途中だったもの」

結局ラブにドーナツを買っていくことが出来なかったから、今度はラブだけじゃなく祈里と美希の分も買っていこう。きっとたくさん怒られた後に揃ってお腹が空くはずだから。