思いやり記念日/◆BVjx9JFTno




お風呂あがりのラブから切り出された話を聞いて、
思わず私は吹き出してしまった。


「どうしたの、お母さん?」
「...ううん、何でもないわ」
「変なの...」



ラブから相談されたのは、
ピーマンがおいしく食べられる、
料理の作り方。


ふたりで、色々と考える。


硬くて苦い感じをやわらげるため、
だし醤油で炒め煮にすることにした。


「せっちゃんは知ってるの?」
「ううん。まだ...」


「じゃぁ、明日の夕ご飯で、それ作りましょ」
「うん!あたし、頑張るよ!」







ラブがお風呂に入っている時に、
せっちゃんがやって来た。


相談されたのは、人参がおいしく
食べられる、料理の作り方。


ふたりで、色々と考える。


味が良く出る豚肉を使って、
ポトフ風に煮込むことにした。


小さめの乱切りにして、味をよく
染みこませよう。



「ラブは知ってるの?」
「いえ、まだ...」


「じゃぁ、明日の夕ご飯で、それ作りましょ」
「ええ!私、精一杯頑張ります!」



お互いの思いに、心が温かくなる。






一緒に暮らして欲しい。



あんなに真剣な目をした
ラブを、見たことがなかった。


クローバーの丘で初めて見た、
彼女の顔に浮かんでいたもの。


戸惑いと、何かに対する自責。



彼女に、幸せを感じて欲しい。


彼女に、愛を感じて欲しい。


レストランで、はしゃいでいる
ラブから、痛いほどに伝わる思い。



幸せになっては
いけない気がする。


そう言っていた、彼女。


何があったのかは、知らない。



知る必要もない。


私も、彼女を包んであげよう。


そう決めた。






娘が1人、増えたと思って
やってきた。



使う部屋が、増えた。


ご飯の材料も、4人分。


歯ブラシも、4つ。


お父さんのおみやげも、
4等分。



徐々に増えていく、
彼女の笑顔。



いつしか、4人で居ることが
当たり前になった。



そして。



陽が差し込む居間で
初めて聞いた言葉。


言葉と一緒に届く、
あふれるほどの思い。



やってきたことは
間違いじゃなかった。






「ん...?」
「あれっ...?」


ふたりが、同時に声を上げた。


「苦くないし、食べやすいわ...」


「いろんな味がしみてて、
 ちょっとおいしいかも...」



狙い通りの味になった。


お互いへの思いが、
味となって染みている。



「ふたりとも同じ相談するんだもの、
 びっくりしちゃったわ」


「もう、お母さんってば、
 黙ってるんだから...」



「ごめんね。でも、ふたりの気持ちが
 何だか嬉しくて...」



ふたりが、照れたような顔をして
下を向く。



「さぁ、どっちが早く克服できるかな?」


「よーし、せつな、もっと色々作って
 絶対好きにさせるからね!」


「私も、負けないわ!」



勢いよく食べるふたりは
まるで双子のよう。



胸を張って言える。


私には、自慢の娘が、ふたり。
最終更新:2013年02月12日 15:39