「仲直り記念日」/◆BVjx9JFTno




湯気で曇った鏡を見て、
冬が近づいてることを実感する。


バスタブに、体を沈める。


爪先と、指の先から、
じんわりと暖まっていく。


鼻まで、お湯につかる。


ゆうべの、あたしの言葉が
頭の中で、繰り返される。



「お母さんがせつなのこと、どれだけ
 思ってるかも知らないで!」



あたし、何てこと
言っちゃったんだろう。



知らないわけ、無いじゃない。







パジャマに着替え、階段を上る。


せつなの部屋のドアが、
少し開いている。



すき間から、中を覗いてみる。


ベッドに、パジャマ姿の
せつなが腰かけている。



手首を、何度も、
何度も、撫でている。



せつなの横顔は、髪で隠れて
ほとんど見えない。



「...さん」


かすかに聞こえる声。



「おかあさん...」







胸が、ぎゅっと
締めつけられた。


せつなの、お母さんへの思い。



わかってないのは、
あたしの方。


あたしは、せつなの気持ちも考えず、
感情的になってしまった。



涙が、こみ上げる。


「ラブ...?」


入口でしゃくりあげている
あたしに、せつなが気づいた。



「どしたの?」


駈け寄ってくる。



「せつな...ごめん...」
「え,,,?」



「あたし...せつなに、ひどいこと...」


ほとんど言葉になっていない。







「ううん、いいの...」


そっと抱きしめられた。



「私、ラブに言われたとき、気づいたの」
「えっ...」


「お母さん、って、
 呼んでもいいんだって...」



せつなの腕に、
力が込められる。



「やっと、言えた...」



せつなの思いが、心に届く。



こぼれる涙が、後悔の冷たさから
祝福の暖かさに変わる。



あたしも、せつなを
ぎゅっと抱きしめる。



しばらく、抱き合ったまま
ゆりかごのように、ゆっくりと揺れた。






部屋から、枕を持ってきた。
右手首には、ピンクのブレスレット。



「一緒に寝てもいい?」


せつなが、微笑んでうなずく。



電気を消して、
布団にもぐり込む。



せつなが、布団から左手を出して
ブレスレットを見つめる。



「今日のこと、ずっと忘れない...」
「あたしも、忘れないよ...」


右手を出し、ブレスレットを重ねる。



せつなの指が、
あたしの指に絡まる。


布団を通して伝わる、
ふたりの体温。



「あったかい...」



しばらくして、せつなの
寝息が聞こえてきた。



北風が舞い、窓ガラスを
かすかに揺らす。



あたしは、繋いだ手が冷えないように
そっと布団の中に入れた。



ラせ1-14は、あゆみ視点の40話スピンオフ第三弾
最終更新:2013年02月16日 01:05