Echo, Back and Forth 4.Pride




 キュアマジカルが崖にたたきつけられる。鋭い悲鳴が響いた。
 ソルシエールとトラウーマは、「プリキュアの涙」を手に入れようとしていた。そのため、プリキュアと妖精たちを捕え、助けに来たプリキュアにかつての敵のコピーを差し向けてきている。
 そして、まだ戦いに不慣れなキュアミラクルとキュアマジカルに狙いを絞ったようだった。キュアマジカルのドレスは汚れ、フリルが千切れている。
「あぁっ!
 くっ…」
 ピエーロの姿をしたものの手から影のエネルギーが打ち出される。キュアマジカルの体はそれによって巻き上げられ、山肌にたたきつけられた。
 とどめを刺そうと次の奔流が放たれたとき、灰色の空に眩しい光が点をうがった。キュアマジカルの体がふわりと浮く。
「あれは…」
「キュアエコー!」
「来てくれたのね」
 キュアエコーはキュアマジカルの体をゆっくりと横たえた。
 影を感じて立ち上がるキュアエコー。プリンセスプリキュアの四人も、覆いかぶさるように見下ろしているピエーロのようなもの、ゴーヤーンによく似たものを睨み返した。
「さぁ、あなたも一緒に」
 キュアマジカルに呼び掛ける。だが、その答えは予想もしないものだった。
「無理…」
「え?」
 キュアエコーは驚いて振り向きかけた。それでは敵に背を見せることになると気付いて姿勢を戻す。
 無理。
 確かに、そうかもしれない。
 助けに入りキュアマジカルを抱きかかえたとき、キュアマジカルが怯え、恐れているのがわかった。敵の攻撃ですっかり打ちのめされている。それは心身のどちらも同じようだった。
 だが。
「キュアマジカル」
 キュアエコーは、ゴーヤーンらしきものを見据えたまま言った。まだキュアマジカルの中の光は失われていないはずだ。
「なぜあなたは今まで戦っていたの」
「…。
 私は…私は立派なプリキュアになりたくて。でも」
「立派な…プリキュア?」
 それは予想外にキュアエコーの胸に刺さった。
(私は…)
 立派なプリキュアだろうか。いや。それは考えるまでもない。とても胸を張って「私もプリキュアの一員です」などとは言えない。だが、それは――
「お花見行くんでしょ」
 キュアフローラが言った。キュアマジカルが顔を上げる。
 別の空間では、キュアミラクルがルルンの涙の声を聞いていた。
(マジカル…!)
(ミラクル…!)
 大事な友達を助けなければ。
 そして、新しい友達と一緒に、お花見に行くんだ。
 ふたりは、遠く離れた場所でそれぞれに立ち上がった。ここを乗り越えなければ、「立派なプリキュア」も何もない。
(つながっている…)
 その思いがキュアエコーの胸に届いた。こんなに固く結ばれているふたり。
 そして、あの歌。
(どういうことだろう)
「また新手?!」
 プリキュアたちの肩が上下する。仲間と一緒で心強くは思うが、楽な戦いではない。
 それでも、彼女たちの顔には笑みが浮かんでいる。キュアマジカルが立ち上がったから。絶望の淵から戻ってきてくれたから。
「歌は…?」
 誰かが言い、視線はキュアエコーに集まった。それをたどれば、仲間たちに会えるはずだ。
「マジカルは先に行って。歌の聞こえる方へ」
「でも」
 キュアマジカルがキュアエコーに振り向いた。
「私にはもう聞こえないわ」
「大丈夫。あの歌声は、まるであなたを呼んでいるようだった」
「私を…?」
 キュアマジカルは、さっきまで歌声が聞こえていた方向を見た。そう言われれば、そうだったような気もする。いや、歌っている人を知っているとか、聞いたことがあるメロディだとか、そういうわけではない。だが、自分が全く知らないものではない、そういう気がした。
「『思いを届けるプリキュア』のキュアエコーが言うんだから間違いないよ」
 キュアフローラが力を込めて言った。驚いたような表情のキュアエコー。
「わかりました」
 キュアマジカルは深々と頭を下げると踵を返した。
「でも、エコー。
 どうして、あの歌がマジカルを呼んでる、って思ったの?」
 キュエアコーは、一瞬、視線を落としてから答えた。
「わかりません。
 でも」
「でも?」
「あの歌…あれは、ただの歌ではないような気がします」
「どういうこと?」
 キュアエコーは首を振った。
「でも、私たちが知っている歌とは違う、と思わせる何か、それが、キュアマジカルの空気と似ている、そう思ったんです」
「歌とは違う何か…」
 彼女たちをプリキュアにする光の力。それは例えば、のぞみたちの前には蝶の形で現れた。ある時は花であり、あるときは音楽であり。キュアミラクルとキュアマジカルの場合に何だったのかは知らないが、その要素があの歌にも感じられる、ということだった。
(それに、私は…今のキュアマジカルとは一緒にいない方がいい)
 キュアマジカルは、完全に立ち直ったわけではない。まだ、傷つき疲れている。その危なげな精神状態をキュアエコーが感じ取り、そしてほかのプリキュアに伝えてしまう心配があった。キュアハッピーと一緒に戦った時に、キュアハッピーとキュアサニーたちの気持ちの仲立ちをしたことと同じことが起こる。そして、今のキュアマジカルの精神状態は、他の人に伝えていいものではないように思えた。
(ごめんなさい。
 私はまだそれをうまくコントロールできない)
「来るよ」
 キュアエコーの思いを破るように、低い声でキュアトゥィンクルが言った。